Silent Night ―十年後の君へー【第2話】
あの冬、君と過ごした日々
封筒を見つめたまま、
しばらく動けなかった。
十年という時間が、
一瞬で胸の奥に戻ってくる。
あの文字も、あの筆跡も、
間違いなく、彼のものだった。
銀色の封を指でなぞる。
その感触の向こうに、
冬の匂いが蘇った。
目を閉じると、
世界が少しずつ白く滲んでいく。
――十年前の冬。
***
あの冬、私は高校三年生。
君は大学に進んだばかりだった。
遠く離れても、
君は毎晩のように連絡をくれた。
「こっちは雪、まだ降らない」
「レポートやばい。助けて」
そんな他愛のない言葉を、
私は宝物みたいに
スクロールしていた。
家族ぐるみで食卓を
囲んだ日もあった。
父が君に焼き魚を乗せ、
母が味噌汁をよそう。
私は、笑いをこらえて箸を持った。
彼はいつも自然に、
家族の真ん中にいた。
初雪が降った夜、
メッセージが届いた。
〈イブ、会おう〉
たった五文字。
それだけで心臓が跳ねた。
私は部屋じゅうを歩き回り、
鏡の前でマフラーを
何度も巻き直した。
白い毛糸の端が、
少しだけほつれている。
〈駅前の時計台、18時〉
〈了解〉
返ってきた文字の隣に、
小さな雪だるまの絵文字。
それを見た瞬間、
胸がきゅっと鳴った。
電話越しの声が、
いまも耳の奥で響いている。
「来年も、再来年も、
クリスマスは一緒に過ごそう」
その言葉が、
あの夜の空気よりも
少しあたたかかった。
――雪は、静かに降り始めていた。
――続く。
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