第179話:ウメばあちゃんの『新作日本昔ばなし』!『眠る山の太鼓』
語りかけ
リクちゃん、
春ってな、不思議と「ゆっくり起きてくる」んよ。
ほら、人も朝が弱い日があるやろ?
山もな、時々ちょっと寝坊するんじゃ。
今日は、その“眠っとる山”を起こした太鼓のお話ばしようかね。
むかし話
むかーしむかしのことじゃった。
山里に、春がぜんぜん来ん年があった。
雪は溶けんし、川の流れもまだ冷たいまんま。
村の子ども たける は不思議でたまらんかった。
「なんで春が来んとやろ?」
山の上の“古い祠”にだけ、ぽつんと太鼓が置かれとった。
誰が置いたかもわからん。
ただ昔から、年寄りはこう言いよった。
「山が眠っとるとき、その太鼓ば叩くんじゃ。」
けれど、太鼓はひび割れとって、
触るとぼそぼそ崩れそうや。
たけるが祠で困っとったとき、
風がそよそよ吹いて太鼓の皮がかすかに揺れた。
“まだ、叩けるばい。わしはここにおるぞ。”
そんなふうに聞こえた気がした。
思い切って、たけるは手のひらでそっと叩いた。
ポン。
次の瞬間、山全体がふわっと息を吸ったように揺れ、
雪の下から青い芽が一斉に顔を出した。
山は——
ほんとうに寝とったんじゃ。
太鼓が鳴ったことで、
山は春を思い出したとよ。
あとで気づいたことじゃが、
太鼓の皮はもう破れとって、
音が出るはずもなかった。
なのに、確かに鳴った。
“叩こう”とする気持ちに、
山のほうが応えてくれたんじゃろうね。
めでたし、めでたし。
子どもたちへ
ほらね、リクちゃん。
「どうせ無理やろ」と思う前に、
そっと手ば伸ばしてみると、不思議が起きるもんたい。
たけるみたいに、
誰かが“起きるきっかけ”になれることもあるとよ。
そいぎ、今日はこのへんにしとこうかね。
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