第195話:ウメばあちゃんの『新作日本昔ばなし』!『狐の手紙箱』
語りかけ
リクちゃん。
「これ、誰にも言えんけど…」って願いごと、あるかね?
もし山に置かれた箱に手紙を入れたら、どんな願いでも届くって聞いたら、書く?
誰に、届いてほしいと思う?
むかし話
むかーしむかしのことじゃった…。
山あいの村に、「手紙箱の峠」という峠があった。
峠の石の上に、古びた木箱がひとつ。
蓋には、かすれた字でこう書いとる。
「ねがいの手紙、ここへ」
村の者は噂した。
「あれは狐の手紙箱たい。
手紙を入れたら、どんな願いでも叶うらしか」
病の母を持つ娘は、手紙を書いた。
「母の咳が止まりますように」
貧しい若者は書いた。
「働き口をください」
庄屋の息子は書いた。
「村で一番になれますように」
不思議なことに、願いは“叶った”。
母の咳は少しずつ和らぎ、若者は仕事にありつき、庄屋の息子は褒められるようになった。
村はますます箱を頼るようになり、紙が山のように積もった。
ところがある夜。
箱の前で、ひとりの少年が泣いとった。
名を、レンと言った。
レンは字が下手で、紙も一枚しか持っておらん。
それでも一生懸命、書いた。
「父ちゃんが、笑いますように」
父親は働きづめで、家に帰っても黙ったまま。
レンは「俺が悪い子やけんかな」と思っておった。
その手紙を入れた瞬間、背後から、こんこん、と足音がした。
振り向くと、白い狐が一匹。
目が、まるで人みたいにやさしかった。
狐は、レンの手紙をくわえた。
……そして、レンの袖を、ちょいちょいと引っぱった。
「え?」と思う間もなく、狐は夜道を走り出した。
レンも追いかけた。
狐が着いたのは、村の端の小さな家。
そこには、レンの父の親友の木こりが住んでおった。
狐は戸口に手紙を落とし、闇に消えた。
翌朝、木こりがレンの家に来た。
手紙を胸に、ぎゅっと握って。
「読んだぞ。
お前の願い、届いとる。
でもな、“叶える”のは、俺ら人間の役目たい」
木こりは父親の肩を叩いて、こう言った。
「お前、笑えんくらい疲れとる。
今日は俺が山へ行くけん、休め」
父親は最初、怒った顔をした。
けど、レンの手紙を読んだ瞬間、顔が崩れて、涙がぽろっと落ちた。
「……すまん。
笑えんかったのは、お前のせいじゃなか。
守りたい気持ちが強すぎて、顔が固まっとった」
その日、父親は久しぶりにレンの頭を撫でて笑った。
レンの胸の奥が、ぽっとあったかうなった。
村の者は後で知った。
狐の手紙箱は、神さまに届ける箱やなかった。
「願いを、届くべき人に届ける箱」じゃった。
誰かの願いは、誰かの手でしか叶えられん。
狐はただ、その“橋渡し”をしよっただけ。
それから村の者は、手紙箱に入れる前に考えるようになった。
「この願い、誰に届けば動き出すやろ?」
そして、届かせるだけやなく、自分も動くようになった。
願いは、空に飛ばすもんやない。
人の胸に届けて、手で温めるもんじゃ。
めでたし、めでたし。
子どもたちへ
ほらね、リクちゃん、狐の手紙箱ちゅうのはな。
魔法の箱やのうて、
“人をつなぐ箱”やったんよ。
「じゃあぼくも、お願いごと書いたら、誰かを助ける人になれる?」
なれるとも。
リクちゃんの手紙は、きっと誰かの背中を押す。
それが一番の魔法たい。
そいぎ、今日はこのへんにしとこうかね。
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