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第87回:琴音先生の“四字熟語 ひもとき塾”『温良恭倹(おんりょうきょうけん)』―― やさしさと慎みは、人を最も美しくする

◆ ある日の放課後、教室で

文化祭の準備で疲れた顔をした女子生徒が、ため息をついた。
「もうイヤです。なんで私ばっかり片づけ担当なんですか」

琴音先生はそっと笑って、言葉を添えた。
「“ええ人”でおることは、しんどいときもあるな。
でもな、そんな君にぴったりの言葉があるんよ」


◆ 「温良恭倹」の意味とは

「温」はあたたかくやさしいこと。
「良」は素直で善良なこと。
「恭」は人に対してうやうやしく礼を尽くすこと。
「倹」は控えめで慎み深いこと。

四つ合わせて――
「穏やかで誠実、礼儀正しく、無駄を慎む心」。

人としての美徳を表す言葉です。


◆ 出典・背景

この言葉は『論語』の中に登場します。
孔子が弟子を評して「顔回は温良恭倹なり」と言ったのが始まりです。

顔回は孔子の最愛の弟子。
貧しくとも愚痴をこぼさず、常に穏やかな心で学び続けた人物でした。
彼の姿勢が、この言葉の象徴となっています。


◆ 一つの物語──「顔回の器」

ある日、孔子の弟子たちは議論していた。
「どんな人が、真に“賢者”なんだろう?」

豪胆な子路(しろ)は言う。
「強く、声が大きく、人を導ける人です!」

すると、顔回が静かに笑った。
「強さも大切ですが、まずは人の話を聴くことからではないでしょうか」

孔子は頷いた。
「力のある者は人を従える。
しかし、温良恭倹の者は、人の心を動かすのだ」

時代が流れても、顔回の名は“柔らかな強さ”として語り継がれた。


◆ 今につながるまなざし

琴音先生は、生徒の手を見つめながら言った。
「“目立たない優しさ”ってな、実は一番すごいことやで。
誰かのために静かに動ける人――それがほんまの強さなんや」

生徒は少しうつむき、
「……もう少しだけ、がんばってみます」と呟いた。


──心に、静かな変化が訪れて

片づけの音がまた響く。
その手の動きには、やさしい光が宿っていた。


ことばの奥に物語がある。
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