第194話:ウメばあちゃんの『新作日本昔ばなし』!『朝露の鈴』
語りかけ
リクちゃん。
朝って、好きかね?
眠たい朝でも、「起きてよかった」って思う日、あるやろ?
もしな、朝露(あさつゆ)が鈴みたいに鳴って起こしてくれたら、どげんする?
むかし話
むかーしむかしのことじゃった…。
山に囲まれた「ねぼすけ村」という村があってのう。
名前の通り、みんな朝が弱うて、太陽が頭の上に来てからやっと起きるような村じゃった。
ある朝、草の上の朝露が、ちりん…ちりん…と鳴りはじめた。
まるで小さな鈴が、野原いっぱいに散らばっとるみたいじゃ。
その音で、村の者は不思議と目が覚める。
「なんや、気持ちよか朝やねぇ」と、いつもより早うから笑って外に出るようになった。
村は少しずつ変わった。
早起きできるけん、畑も整う。
井戸の水も先に汲める。
なにより、朝のあいさつが増えて、心が軽うなる。
ところがのう。
欲深い庄屋が言い出した。
「その朝露の鈴を瓶に集めて売れば、村が金持ちになるぞ」
村の者も、ついその気になってしもうた。
みんなで草をゆすって、朝露を瓶に集めた。
瓶はきらきら、宝石みたいに満ちた。
ところが次の朝。
ちりん…が、鳴らん。
その次も、そのまた次も、鳴らん。
村はまた、ねぼすけ村に戻ってしもうた。
畑は遅れ、あいさつも減って、空気が重たくなった。
「鈴がなくなったけん、起きられん」
そう言う声が増えてのう。
そのとき、村はずれの小さな家の前で、リクちゃんくらいの子が、ひとり草を拭いとった。
名を、タケと言った。
タケは毎朝、まだ暗いうちから起きて、村道の露を手ぬぐいでそっと払っておった。
「なんで、そんなことしよると?」と聞くと、タケは笑った。
「おばあが、朝に歩くと露で足が冷えるけん。
それに、朝いちばんに道がきれいだと、みんなが気持ちよく挨拶できるやろ」
……な。
その瞬間、村の者は気づいたんじゃ。
朝露が鳴っていたのは、露そのものが魔法やったんやない。
タケが露を払う小さな音。
早起きした人の足音。
「おはよう」の声が、露玉に当たって跳ね返る、あの澄んだ響き。
みんなの“朝のやさしさ”が、鈴になっとったんじゃ。
庄屋は瓶を抱えたまま、しゅんと頭を下げた。
村の者は翌朝から、瓶を持つ手をやめて、かわりに声を持った。
「おはよう」
「今日は寒かね」
「手伝おうか」
するとどうじゃ。
草の上で、ちりん…ちりん…。
また朝露が鈴になって鳴り出した。
外にある鈴を欲しがると、音は逃げる。
けど、心の中で誰かを思うと、音は戻ってくる。
めでたし、めでたし。
子どもたちへ
ほらね、リクちゃん、朝露の鈴ちゅうのはな。
「起こしてもらう音」やのうて、
「誰かを起こしてあげたくなる心」から鳴る音なんよ。
「じゃあぼくも、明日“おはよう”って大きく言う!」
……うんうん、それでよか。
リクちゃんの声は、きっと鈴よりきれいじゃけんね。
そいぎ、今日はこのへんにしとこうかね。
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