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連続小説【私の取材記・13】

《第13話・あなたならどうする?》



 

  すべての源とは?と問われ、私は「破片」だと答えた。そして、破片の登場でやっとタイム・スリップが終わったとも。まあ、これはあくまで想像だが、そんなに間違ってないような気がするんだな、これが…… 

 「君の言うとおり、確かに源は破片だ。細かく言えば、あの時台車で戦ったことから粉々になるまでだ。あれが発端で現代にまで細々ながら繋がり続けた。そして、この時代に破片が出てきてくれたおかげで、僕の言い分の正しさが証明された」

 よかった。細かく言えば、と言われたけれど、あくまで破片が残っていたのがポイントなんだから、まあいいとしよう。

 「だが、タイム・スリップと結び付けるとは考えたね」

 これ途中からアタシはずっと思ってた。いつ聞こうか?或いは、聞くのを控えようか?と思ったけれど、三時のリミット近し、と言われたもんだから、勢いで口から出ちゃった。

 「邪推でしたらお詫びします。ですが、ここまでのお話しで、何となくそんな気がします。怒らず聞いて頂ければありがたいのですが……」

 「ハハハ、怒ったりはせんよ。聞かせて欲しいね、君の考えを。もう最期だろうからな」

 取材終了のリミットまで10分を切る。

 「ありがとうございます」

  もう最期だから話してみよう!私は背筋を伸ばす。彼の言う通り、これが彼との最後の「バトル」になりそうな気がする。

 「お話しを長時間伺いまして、そのような感想を持ちました。率直に申し上げますが、物理的には現代に無事に戻れたことで、タイム・スリップの幕は閉じていても、心情的、精神的にはまだ終わっていない。少なからず心残りがある。その顕著な例が取材に移る前の私を怒鳴りつけたことです」 

 「全ての幕が下りていれば怒鳴りはしないはず、そう思うのかね?」

 久しぶりに私は前のめりになった。 

 「少々話を戻しますが、私がこのヤマを追うと決めた、そもそものきっかけは、記事にあったティラノサウルスの化石の歯に、その時代に存在しないものが付着していた。そんな有り得ないことが起きた、ホントの理由を知りたくてでした」

 「うん」

 「その理由がわかれば、元記者から聞いている、50年前のタイム・スリップ事件、そのものの真偽も見極めることができる。そう信じたからです」

 「そして君は、今日ここで私の話を終いまで聞き、なぜ化石の歯にゴムの破片が残っていたかの真実を知った」

 「台車についていたゴムタイヤは、ティラノサウルスに噛み砕かれ、粉々に砕け散り白亜紀の大地の藻屑と化しましたが、バラバラになりながらも生き残った小さな破片が、それこそ気の遠くなる年月を、ティラノサウルスと共に土の下で過ごすはめとなった」

 「ああ、そうだ」

 「その後、ティラノサウルスは死滅し、年を経るごとに朽ち果てて、最後はわずかな骨が残る化石になりましたが、ゴムの破片は形は変わっただろうけど現代まで生き延び、その姿を化石に付着した形で、再び私たちの前にその姿を見せてくれました」

 「破片の登場が僕のタイム・スリップの幕を下ろす引き金だと言うのか?」

 「取材を始める前、あの当時、どれだけ真剣に話しても、写真も証拠のブツも無いから、誰も信じてはくれなかったと、あなたは私に怒鳴った」

 「確かに言った、間違いない」

 「破片の出土は、自分の体験を全肯定する最初で最後のチャンス。あなたはネットニュースにきっと心躍らせた、でも今度は、すべての源と全く関係の無い、ご自身の体調との闘い、と言う名の壁が立ちはだかる」

 彼は返答を控え、聞き耳を立てている。

 「今の体調では、あなたが公の場に出て破片が付いている理由を、自分のタイム・スリップと絡めて知らしめるなど不可能。つまりリベンジの機会があるのに掴むことができない。フラストレーションはたまる一方。そこへ私が東京から顔を出した。当時のことを何も知らない女記者が、取材と称し物見遊山で来やがった。しかも、明らかに自分を信用しているふうは無い。これではあの時と全く同じじゃないか!」

 「だから、そのストレスを君にぶつけてしまったのか、僕と言う男は」

 「それは気にされないでください、私は何とも思っておりませんから。ただストレスの理由が、今のあなたの心の中に少なからず残っている、50年前に誰にも認められなかった悔しさや腹立たしさや悲しさが、心中に巣食う忸怩たる無情の思い、それに違いないと思うのです」

 彼はじっと考え込みながら聞いている。

 「怒鳴られた直後は、驚きと少しの反感でわかりませんでしたが、お話しをしているうちに、何となく抱えている闇が見えた気がします。それだけの悔しい思いを過去にしているのですから、当然だろと思われるかもしれません。確かに当然ですが、当然で流してはいけない。あって得するものではない、むしろその心情は負の重荷ではないかと」

 「負の重荷か……」

 「先ほども申した通り、全ての源は破片です。証拠のブツである破片が見つかった今、ようやくあなたの証言の正しさは証明された。残念ながらおおやけの真実は捻じ曲げられ、見当違いの発表になりましたが、あなたの真実を証明する証拠としては十分です」 

 「うん」

 「あなたの正しさは証明されました。でも、嘘つきほら吹き呼ばわりしたあの当時の連中に、今さら真実を説いて前言を撤回させることは、残念ながらできない。でもこの私は、あなたの話しを最初から最後まで伺ったこの私は真実を知っています。あなたが何ひとつ嘘を言ってないのを私は知ってるんです!」

 自分の声がどんどん大きくなる。感情が載って、口をつく声に籠り過ぎくらい籠っている。

 「恨みがましく思うのはもういいんじゃないのか?自分の心を囚われから解放してあげるべき。君はそう言いたいのかね」

 「そうです!ご自分の心をぜひ解放して差し上げて欲しい。そうすれば、心情的な部分でも、タイム・スリップは終わるのだと思います。取材をさせて頂いている立場で、失礼な物言いであることは十分承知ですが」

 なるほどとうなずき彼は黙る。私も黙る。失礼は承知だが、言うべきことは言った。あとは彼がどうとらえるかだが。

 「しこりが……忸怩たる無情の思いが、自分の心の奥深くに残っている、か……そう言われれば、そうかもしれん。あの記事をネットで見つけて以来、僕の頭の中は50年前の恨み言が再燃した。しかも最終発表があれでは。これじゃあの時と全く変わらん!僕には貴重かつ幸せな思い出なのに、記事を見て以来憤怒の憤りに満ち満ちていた気がする」

 「だとすれば、もう解き放って頂きたいと思います。真実は証明されたんです。あなたの体験は、恐らく世界中の誰も経験できない、素晴らしいものです。その経験をぜひ大切にして頂きたい。お話しを聞いている最中、私はずっと憧れの思いでお話を伺っておりました。出来ればぜひ私も体験してみたいと」

 「体験!?命懸けかも知れんぞ?女性には厳しいかも」

 「今は、もっと軽い台車が出ているらしいですよ!それに、女性だから……と言うのは、今はハラスメントになるかもですが?」

 「それはすまなかった、ハハハハハ……」

 「聞かなかったことにしますね!」

 声を上げて私たちは笑いあった。目の前の彼は、心の底から笑ってるような、とてもいい笑顔を見せてくれている。

 私の拙い言葉で人の感情を変えられるなど、おこがましいのだが、もしも何かのきっかけになってくれたら、いいと願う。

 「奇跡としか言いようがないが、僕が嘘つきでないと証明できる唯一の手掛かりが、何千万年もの間ずっと奴の歯に残っていてくれた。そいつがなければ、僕はただのほら吹きで生涯を終えていたはずだ。真実の登場は僕には救いであって、決して恨み言のきっかけではない」

 「仰る通りです。真実は誰にも真似できない素晴らしいことです。ただ、その真実も闇から闇へと葬られています。50年前と同様、真実が日の目を見ることは無いと思います」

 「それは仕方のないことだ。いつの時代も真実など容易に曲げられてしまうものだよ」

 「ですかね」

 「でも、君がその破片にこだわってくれ、訪ねてきてくれたおかげで、僕は正直者で生涯を終えられそうだ。これはありがたいことです。改めて礼を言います。話を聞いてくれてどうもありがとう」

 彼は、深々と頭を下げた。

 私も礼を言うのは自分とばかりに頭を下げた。

 二人で頭を下げあったのち、同時に上げると。

 「もう終わりだな」

 「ええ、時間も時間です」

 腕時計を見ればリミットまでほんの数分。いよいよエンディングだ。

 「どうかね、今日の取材は実りあるものになったかね」

 「はい、もう十分すぎるほど、実りあるお話を伺えました。

 「そうか、今日の話しは記事にできそうかね」

 「記事にですか?」

 「だって、君は記者さんだろ?取材に来たのは記事を書くためでは?」

 「ええまあ」

 「ハハハ、わかっているよ。記事にはできんな。まるっきりSF小説だしな。記事にしたらエライことだ」

 確かに記事にはできそうにない。これが真実だ!と記事として社会に公表したら、あちらの調査団の見解とまるっきり異なるわけだから、そうなると都合の悪い連中からヤイノヤイノと言われる可能性大。

 「大っぴらにすると、君や君の勤め先の品位に関わるから、真実はどうか君の胸の中に納めておいてください。僕の一大スペクタクルロマンの幕は君のおかげで、今日すべて下りました。何も思い残すことは無い。安心してお迎えを待てるよ」

 「お迎えだなんて言わないでください……」

 と口では否定するものの、それがむなしいことはわかっている。ここは終末医療施設。彼は患者。現実は残酷、変えることはできない。彼が生きてここを出ることは無い。

 今日のこの日が最初で最後の出会いなんだろうな……そんなことを考えていた時、枕もとのインターフォンが鳴り、介護スタッフの、三時の巡回の時間になるが伺ってよろしいか?の声が聞こえた。
 
 彼は、取材は終わったからよろしくと答えている。枕もとの時計は三時を指していた。取材リミットだった。

 いかんいかん、感傷に浸ってる暇はない。もう取材は終わりだ。彼の大切な時間を奪うことは許されない。

 私は手近の私物をとりあえずバッグに放り込む。使用許可を取ったボイスレコーダーは、何とか録音できている。これは永久保存の貴重な音源だ。

 「あの、お願いがあります}

 「録音したこのデータですけれどね。もしよろしければ50年前にあなたのお相手をした元記者さんにもお分けしたいんですが、よろしいですか?」

 結果報告をすると約束したんだ。録音データを送ってあげれば喜ぶはず。

 「ああ、いいよ。ついでに礼を言っておいてくれないかな、その人のおかげで君と出会うことができた。キューピットみたいなもんだからな」

 キューピットか、80過ぎのおじいちゃんが。なんか変だけど、結びつけたのは間違いない。

 「わかりました、音源と共に必ず伝えます。あともう一点お願いが」

 「まだ何か?」

 「記念写真を、できればツーショットも」

 返事を聞く前に私は、スマホのカメラ機能をオンにした。

 いい笑顔のワンショットの写真と、少々照れているツーショットの写真が併せて10枚ほどゲット。写真もデータと一緒にあの人に送ってあげよう。もちろん、ワンショットの写真のみだけど。

 「時間だよ、もういいだろう。竹内さん、今日は訪ねてくれてありがとう。良い思い出になりました」

 え、竹内さん??あ、それアタシだ。自分の名前を忘れるなんて、よほどのめり込んでたみたい。珍しいぞこんな取材。

 「こちらこそ、ありがとうございます。え~と、あれ??」

 何だっけ、この人の名前!?ヤバい、度忘れだわ!考えてみたら、アタシ、この人のことを、ずっと、あなた呼ばわりしてた。それはそれでずいぶん失礼だから、取材対象者且つ目上の人なのに。

 「忘れたかね、僕はムラマツ、ムラマツ・タダシだよ」

 その名前だったかァ!でもバレてたか。

 「貴重なお話をありがとうございました。村松忠司さん」

 今日ここへ来て初めてこの人の名前を呼んだわ。あ~あ何たるチョンボ!

 「今後もご活躍をね」

 「はい、頑張ります!」

 「僕も、残りの人生を全うするよ。素晴らしい思い出ができたからね」

 「ぜひとも!村松さんだけの素晴らしい思い出を胸に、最後まで良き人生を送られてくださいね」

 この人は本当に強い人だと心から思う。恐竜に出会って、嘘つき呼ばわりされて、一念発起して研究者になって、生涯を終える。

 この人のように、芯のしっかりした心の強い人だからこそ、尋常じゃない状態でも、生きて帰ってこられたんじゃないかと思う。

 翻って我がふり見て考える。もし自分が同じ目に遭遇したら、どうなるんだろう。勿論平常ではいられないだろうが、やはりこの人と同じように、好奇心マシマシで探検するのかな。それとも、びびっちゃって、助けてぇぇって泣き喚くかな。

 さっきまでは話に没入し過ぎて、テンション上がってたから、羨ましいだの憧れだのと言ってたけれど、取材終えてもう帰るだけになった今、冷静に考えてみると散々羨ましがってはみたものの、タイム・スリップは結構怖いよねえ。やっぱ、NGかな……

 「君ならどうするかね」

 「えっ!?」

 「まだ巡回の連中来ないから、場繋ぎの最後の質問だよ。僕と同じように、ある日突然、タイム・スリップの状態に置かれた。エレベーターの扉が開いたら、未来か過去かわからんが、いるべき以外の時代にいるとしたら、君ならどうするね?」

 「私なら……ですか?」 

 なぜ?どうして今この質問!?!結構アットホームに幕引きできると思ってたのに何故?その前に、アタシ、声出してたか?イヤ出してないわ。じゃあこの人相手の考えがわかるの?人の心読めたりするの?どういうこと?

 「具体的に言おうかな。この医療施設は5階建てで、この部屋は最上階にある。そしてエレベーターがある。この部屋に来る時、君はそのエレベーターを使って昇って来た。5階のボタンを押してね」

 「あの取材終わりましたんで、アタシ、ひと足先にですね…」

 「取材は終わった。君は帰途に付く、当たり前のようにそのエレベーターを使って今度は下へ降りる」

 だから帰途に付くって言ってんの!人の話し聞いてないな、この人!

 「玄関は1階。君は乗り込んで1のボタンを押す。扉は閉まり、エレベーターは動き出し到着すればドアが開く。そして君は何事も無かったように籠から出てこの建物を後にする。何一つ間違っていないごく普通の行動だ。でもその時にさ」

 「その時?!どうしました?」

 なんで合いの手入れてんだ、アタシ!

 「いつもと違う違和感をもしも感じたら……例えば、止まるはずなのに止まらない、とか?」

 もうこのオッサン、いい人何だか意地悪何だかわけわかんない! 

 「そうだ、言い忘れてた」

 言い忘れ?何それ?何を言いたいの?怖いこと?怖くないこと?どっち?

 


 「この建物に地下は無い」

 

 それ、怖さのダメ押しじゃん。


 《続》


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