【桜城市コラボ小説】ほのぼの柿の木びより⑨〜女将さんの夏休み
夏の太陽が波に反射して、白くきらきらと輝いている。ここは桜城市の海、さくら浜。砂浜が白いせいか、遠浅の海は薄いブルーに見える。
いくつか海の家もオープンしていて、その前の砂浜には黄色と白の縞のビーチパラソルが整然と並んでいる。
さくら浜には夏を満喫しようとやって来た桜城市民の水着姿と明るい声が溢れていた。
そんな賑やかな浜のビーチパラソルの一つの下で、『田舎料理柿の木』の女将、市田渋乃はロングチェアに寝そべっていた。
いつもは着物に割烹着という出で立ちで、店に立っているのだが、今日はビキニの水着にパレオを巻いて、デカいサングラスを掛けている。隣のローテブルにはハイビスカスをあしらったトロピカルドリンクのグラスが2つを置いてあり、まさしく南国リゾートといった雰囲気を演出していた。
「やっぱり海は水着じゃなきゃね。浜風が涼しいわね〜えるちゃん。」
女将の渋乃の隣のロングチェアには、柿の木のアルバイト店員の雨香えるが、これまたタンキニの水着にスポーティなサングラスを掛けて寝転んでいた。
「ほんまに、女将さんおおきにです。商店街の福引で当てて頂いて、私をお供にして頂いて…ありがたや、ありがたや…」
えるは上を向いたまま、女将の渋乃にお礼を言った。サングラスで表情は見えないが、心地よい風に吹かれて半分寝ているのかも知れない。
「何言ってんの、えるちゃん。言葉遣いがおばさん臭いわよ。南国リゾートの雰囲気が、The日本のお盆になっちゃうじゃない。これはいつもの感謝の気持よ。相手が私で悪いけどね。」
渋乃は、一口ドリンクを飲んだ。
「いやいや、私はうれしいです。ほんまは、女将さんとこうして海に来られるなんて、夢みたいです…。」
そう言ってしまって、えるは急に照れ臭くなってしまい、慌てて笑顔を作ると飛び起きた。
「……女将さん、わ、私ちょっと泳いできますねっ!」
そう言うと、えるはあっという間に砂浜を走って、波の中に入っていくと、軽くジャンプして海の中に頭から飛び込んだ。きれいに伸ばされた指先から頭、背中と放物線を描くような見事な入水はイルカのジャンプのようにも見えた。
水泳が得意だとは聞いていたが、えるの見事な入水を初めて目にしてに渋乃は感心した。
「えるちゃんは運動神経も良いのね…!」
静かな波打ち際を小さな水しぶきを上げながら、えるが泳いでいく。しぶきが太陽に反射して白く光りながら飛んでいく。
(さて、私はドリンクのおかわりでも…)
渋乃はゆっくりと立ち上がると、空になったグラスを片手に海の家の方へ歩いていった。
海の家は若者やら家族連れで、どの席もいっぱいだった。賑やかな店員さんの威勢の良い声が飛び交っているかと思ったが、何やら静かだった。
よく見れば、食事の終わったテーブルの上の食器やグラスは片付けられずに残り、座って待っている大半お客の目の前には料理が並んでおらず、逆にテーブルが空いていた。
なかなか出てこない料理にお客さん達の苛立ちが少しづつ溜まっていっているようだった。
(あらら、これは…回ってないわね……)
渋乃は、そんな海の家の様子が気になりつつ、空のグラスをカウンターに持っていき、中を覗く。
「あー、いらっしゃいませー。申し訳ないお客様、ちょっと今立て込んでまして、注文時間かかっちゃうんですよね。」
申し訳なさそうな顔をして、海の家の女性店員は渋乃の顔を見ながら頭を下げる。しかし、その間も調理をする手を止めなかった。
「あらー、忙しそうね。なんかあった?」
見知った顔でもないのに、渋乃は馴れ馴れしいところがある。ずけずけと話しかける。
「えぅ?あぁ、急にね、バイトの子が具合が悪くなっちゃって…人手が足りなくなっちゃったんですよ。仕方ないことですわ。」
女性店員の方も話好きと見えて、気さくに返してくれる。
「あらま、そんな所かとは思ったけど、それは大変ね。私も料理屋やってるから、気持ちは分かるわよ。あ、良かったら手伝いましょうか?皿洗いくらいならすぐできるわよ〜!ほっておけないわ!」
なぜだか、渋乃の目がきらきらと輝きだした。
「いや、そんなん悪いし……」
女性店員が困った顔でもごもごと言っていると、奥から大将だろうか、間延びした男性の声でこう言った。
「なぁにいうとる。渡りに舟やないかぁ〜。助けの神さんや〜、お言葉に甘えさしていただこやないかぁ〜。」
その声を聞くと、
「待ってました!大将!ほな、ありがたくお手伝いさてせいただきます。」
そう言って、渋乃は水着のまま堂々と海の家の中心部、調理場へと入っていく。大将にエプロンの場所を聞き、水着の上にエプロンを付けると、洗い場の溜まっていたグラスをどんどん洗い始めたのだった。
ちょうどそこへ、女将の渋乃を探してえるがやって来た。
「あれ?女将さん、何してはるんですか?」
女将さんを探してやって来たえるは、エプロンを付けて海の家で洗い物をしている女将の渋乃を見つけて、思わず素っ頓狂な声を出してしまったが、落ち着いて、海の家の中の様子を見回すと、なるほどと納得がいった。
「女将さん、手伝います〜!」
えるは、そう言って女将さんとアイコンタクトを取ると、エプロンを受け取り、お盆を片手に食事の済んだテーブルを次から次へと片付け始めた。
その間に料理も次々に出来上がりる。
それも、えるがテキパキと配膳した。
慣れない店で、テーブル番号もわからないのに、何度か運んでいるうちに覚えてしまったようだ。しかし、慎重に注文の間違いがないかお客さんに確認も取っているようで、えるの明るい声が海の家の中に響いている。
ピリピリとしていた海の家の雰囲気が、えるの動きとともに、柔らかくほどけていった。
気がつけば太陽が傾きかけ、浜は少しづつ人が疎らになっていっていた。
「やっーと、引けたわね。」
渋乃が仕事の手を止めて、えるに話しかける。
えるも、空のお盆を体の前に抱えて、ふうーと息を吐きながらひと休みしている。
「いやー、さすがに観光地。いつもの柿の木とは違いますねぇ〜。」
「こらこら、失礼だぞ。柿の木もそこそこ忙しい!」
えるの言葉に反論する渋乃だったが、その顔は笑顔だった。
えるの活躍で海の家の雰囲気がどんどん良くなっていくのが調理場からでもわかって、渋乃は鼻が高かったこともある。
やはりお店は、活気があって、お客さんが笑ってて、平和じゃないと…。そうしみじみ渋乃は思うのであった。
「いやぁ〜、ほんまに、おおきになぁ〜。あんさんらのおかげでほんまに助かったわぁ〜。これ、今日のお礼やぁ〜、時給で悪いんやけどぉ〜。ほんまに、おおきに。」
奥から出てきた大将が、二人に封筒に入ったバイト代を渡してくれた。
「うわ〜!何十年かぶりにバイト代いただいちゃった!うれしいものね!大将、こちらこそありがとうございました。」
渋乃が本当にうれしそうに大将の手を握って、ぶんぶん振り回している。
「しかし、女将さん、良かったんですか?せっかくの夏休み、結局働いちゃったじゃないですか?」
「いいの、いいの。学生時代の夏休みを思い出して、青春だったわよ〜。それに、海の家の大将が、打ち上げ、柿の木でしてくれるって…宴会の予約もらったし!海老で鯛を釣ったわよっ!」
満面の笑みを浮かべて、渋乃はバイト代の入った茶封筒をひらひらさせている。
「さぁ、えるちゃん!夜はホテルでバイキングよっ〜!!」
そう言って、渋乃は浜を駆け出し、波打ち際でバチャバチャとはしゃいでいる。
(女将さんには、勝てないなぁ〜)
さくら浜を楽しそうに走り回る女将の渋乃を優しい目で見つめる、えるであった。
「やっぱりわたしも〜!」
渋乃の後を追いかけて、えるも波打ち際を走る。
さざなみの音を乗せて吹く風は、程良く疲れた二人の肌を、優しくなでていくのであった。
おわり
オリジナルキャラクター達の住む架空都市【桜城市〜さくらのじょうし】
このnoteの世界に突如として現れた桜城市はオリジナルキャラクター達の住まう街。それほど大きくはないけれど、海あり山あり、お城あり、一年中桜の咲いているハッピータウンです。オリジナルキャラクターを作って登録すれば、誰でも桜城市民になれます。
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なお、こちらの短編小説は桜城市コラボ小説です。
架空都市・桜城市柿の木町にある『田舎料理柿の木』の面々のほのぼのした日常を不定期、基本読切短編にて綴っていく予定です。
皆さんも架空都市桜城市に遊びに行きませんか?
