【桜城市コラボ小説】ほのぼの柿の木びより②〜七夕祭りは何食べたい?
ここは『田舎料理柿の木』、その調理場。
割烹着姿の柿の木の女将、市田渋乃は悩んでいた。
「今年の七夕祭りは何を出そうかしら…?」
さっき商工会の人が来て、七夕祭りの出店依頼書を持ってきたのだ。昨年も柿の木は出店している。
七夕祭りは、この柿の木のある竜原県桜城市のイベントの中でも3本の指に入る大きなイベントだ。
桜城市の桜は不思議と一年中咲いている。この桜の花と七夕飾りのコラボレーションは他の地域にはない特色で、県外からも多くの観光客が訪れる。桜城市は観光業にも力を入れているので、この手のイベントには商工会も張り切っているのだ。
商店街のメンバーもかきいれ時とばかりに、皆趣向を凝らした店を出す。
この柿の木もそうしたいところだが、なにせ女将ひとりの小さい店、できることは限られてくる。
「こんにちは〜、遅うなりました〜。すみません、女将さん。」
裏口からアルバイト店員の雨香えるが、スラッとした長身を器用に屈めて入ってくる。
「あ、えるちゃん、お疲れ様。大丈夫よ。今日はね、そんなに忙しくなかったから。それより、これ見て。七夕祭りのお知らせなんだけど、何がいいと思う?」
エプロンを着けながら、えるが女将さんの持っている商工会からのお知らせを覗き込む。
「女将さん、今年も出店するんですか?去年、大変だったっていうてはりませんでした?何を出さはったんでしたっけ?」
「去年はね、かき氷にしたのよ。市田柿の干し柿をピューレにして、シロップ替わりにして…で、大赤字!
美味しかったんだけど、市田柿って高級品なのよ。計算間違えちゃったわ…。」
昨年のことを思い出して、渋乃は肩を落とす。
「それで今年は?何かもう考えてはるんですか?」
「うーん、今年はねアイスか、ソフトクリームにしようかと思ってんの。」
「え、ソフトクリーム!良いやないですか。私ソフトクリーム大好きですよ!」
えるは満面の笑みを浮かべる。
「ほんとー?実はね、この間のラジオで言ってたんたんだけど…桜子さんがね、かき氷よりアイスのほうが好きなんだって…。だからアイスにしたら、もしかしてもしかしてよ、来てくれるかなぁって…。」
渋乃は柄にもなく乙女のように身をよじる。
「あ、なるほどです…」
(それが本心やったんですね女将さん…。)
桜子というのは、女将さんが推しているFM桜城のラジオパーソナリティだ。
えるは大喜びした自分が少し恥ずかしくなり、真顔に戻った。
「で、何味にするんですか?バニラはマストですよね…」
「そうね、バニラにイナゴの佃煮をトッピングして、イナゴソフトとかどうかしら?甘じょっぱさが後引く感じで、映えるし?」
真面目な顔をしている渋乃に、えるは焦る。
「イナゴ?!イナゴの佃煮乗せちゃうんですか?!いやいやいや、それはあかん、あかんと違うかなぁ…。美味しいとは思うんですよ、美味しいとは。甘じょっぱ味、流行ってますしね…。
でも万人受けするとは言い切れませんやん…お祭りですやんか…?」
映えとか気にする女将さん、ちょっとかわいいなぁとか考えながらも、えるは、イナゴソフトを必死に止める。
「じゃあ、どうしよう?」
渋乃は、困った顔をえるに向ける。眉毛が下がりきっている。
(女将さん、ほんまにイナゴソフト一本で勝負しようとしてたんかな?恐ろしすぎる…。)
えるはそんな事を考えながらもきちんとした案を出す。
「ほな、こんなんはどうですやろ?
七夕なんで、スターフルーツを輪切にしたのんをトッピングして、それだけだと淋しいから、色付した寒天かクッキーを星型にして飾るとか?
もうひとつは抹茶・桜ソフトかな…無難に。
あかんかな?」
「わお〜、それはいい!そうしようかな?星空ソフトだぁ。寒天はあるから事前に作っておけばいいし。桜の花の塩漬けもあるから、抹茶ソフトにトッピングしたらいい感じじゃなぁい?クッキーは小さく星型に抜いてパラパラと付ければ…それ、いいわ!」
喜ぶ女将の様子に、イナゴのことは忘れてくれたかとほっと胸を撫でおろすえる。
「そうと決まれば、早速準備ね。えるちゃん、当日はお手伝い来られるかしら?」
「その日は、大学のサークルでステージ発表があるので…午前中と発表終わった後ならお手伝いできますよ。」
「ほんとに?ありがとう、えるちゃん!バイト代はずむわ!
あとは午後の人手だわね…。」
ちょうどそこへ、遅い昼メシを食べに来た常連、伊那谷が扉を開けて入って来た。この男、丼メニューばかり注文するので女将からどんちゃんと呼ばれている。
「いいところに来たわね。どんちゃん、待ってたわ。」
女将さんの目が光る。
「えっ、なに?」
伸びた猫っ毛の前髪を気にしながら、びくびくと椅子に座る伊那谷。
渋乃は伊那谷の背中に回ると、肩を揉みながら話しかける。
「お仕事、お疲れ様〜。いつも来てくれてありがとうね〜。どんちゃん。
実は、折り言ってお願いがあるの…ねぇ、七夕祭りの手伝い来て〜!バイト代はずむから〜!」
気が進まなそうな伊那谷が答える。
「えっと、その日はお休みの日だよ…こっちも予定があ…」
「午後だけで良いからさ、夜にはえるちゃん戻って来られるっていうし、ねっ、お・ね・が・い!」
渋乃は肩を揉む手に目一杯力を込める。
「いいいたたたたた、痛い、痛いって!わかったっ!わかったからっ!行くよ、行く!でも、夕方までだよ…。」
渋乃は背は小さいのだが、がっしりした体型で力が強いのだ。
「ありがとう、どんちゃん!」
渋乃は胸の前で両手を組むと、潤んだ瞳で伊那谷を見つめお礼を言った。
「ほな、七夕祭りのメニューとシフトが無事に決まったところで、伊那谷さん、お昼ご飯は何にしはりますか?」
すかさず、えるが注文を聞く。
「じゃあ、ソースカツ丼!」
「ソースはいかがしはります?Aが柿の木特製スッキリソースで、Bが本場駒ヶ根明治亭のソースになりますよ。」
「ええっ、選べるの?」
「はい、選べますぅ。」
「でしたら、Aの柿の木特製ソースでお願いします。」
「はい、かしこまりました〜。女将さ〜ん、ソースカツ丼Aソースでお願いしま〜す。」
「はいよ〜。ソースカツ丼Aソース一丁!」
女将の渋乃は、とびきりの笑顔でそう返すと伊那谷の肩をポンと叩いて、楽しそうに調理場へと入って行った。
おわり
オリジナルキャラクター達の住む架空都市【桜城市〜さくらのじょうし】
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こちらの短編小説は桜城市柿の木町にある『田舎料理柿の木』の面々のほのぼのした日常を不定期、基本読切短編にて綴っていく予定です。色んなクリエイターさんのコラボ作品も多数投稿されています!
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