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【村の風景】アレが始まる

夏が始まりました。

って事は、アレが始まる季節です。

どれ?

毎年、決まって聞こえてくる音。

お祭りです。

お祭り?

うーん……。

そのお祭り、実は見たことが無いんですよね。


近所に、小さな神社があります。

神社? 祠と呼ぶ方が正確ですね。

その祠の横に、小さな集会所があります。

そこで夜になると、お祭り? の練習をしてるみたいなんですね。

お囃子が聞こえますから。

夜中までお囃子が聞こえます。

夜の9時、10時ならまだ分かります。

でも……聞こえるのはもっと遅い時間。

そんなバカな。

如何に田舎とはいえ、民家はありますから、そんな時間まで練習しませんよね?


で、夜中の2時。

ふと目が覚めたんです。

なんで目覚めたんだろう?

微かな違和感。

外は真っ暗。

門灯や街灯はありますが、田舎の闇を払える程の光はありません。

なんだろう、この違和感。

そっと網戸を細く開けました。

……。

……え?

ピッ、ピッ……。

何かの音が聞こえます。

……ピーピーヒャララ。

かすかに聞こえたんです。

なんだ?

更に耳を澄ませると……。

そんな……バカな。

こんな時間まで練習する訳がない。

でも、音は聞こえます。

大きな音じゃありません。

風が細く小さく笛の音を運んで来る感じ。

風が変わるのでしょうか。

笛の音は、細くほどけたり、また結び直されたり……。

まさか……。

意識を音に寄せると、カネや太鼓の音も聞こえてきます。

お囃子だ……。

ちょっと嫌な予感。

でもこれ……、ホントにお囃子なのか?


聞こえなかった事にして寝ました。

寝るしかありませんよね?

音の正体を探りに出掛ける勇気はありません。


で、昼間。

何を祀ってるんだろう?

あの祠に行ってみたんです。

大きな木が、集会所の屋根の上に広がっています。

その木が夏の日差しを遮って、空気が暗く涼しい気がしました。

駐車場兼みたいな広場には、砂利が敷かれていて、歩くとジャリジャリと音。

妙に砂利の音が大きい。

立て札がありました。

立て札には、こう書かれていました。

主祭神は須佐之男命(すさのおのみこと)。

牛頭天王(ごずてんのう)と同一視されていた神様だとか。

元々は疫病を広める神として恐れられたらしい。

ふむふむ。

のちに病魔を退散させる守護神としての信仰が深まり……。

ん?

疫病を広める悪い神様だったのに、途中から病魔を退散させる神様に変わったの?

毒を持って毒を制す的な?

ま、まぁ、信仰なんて曖昧な部分は多いんでしょう。

特に神道系は。

ここに長く留まってはいけない。

そんな気がして、早々に退散したんです。


毎年夏になると、夜中過ぎまで、お囃子が聞こえるんですけど、そのお祭りは見たことがありません、ってお話です。

もしかして、あの集会所で、何かの儀式みたいなのをしているのかも。

昔からこの土地に住んでいる人しか知らない……神事。

だって、昼間にお祭りやってりゃ、嫌でも分かりますから。


これ、近所の人にも、情報通の村の床屋さんにも聞いていません。

何となく――。

触れちゃいけないことって、ある気がするんですよ。

特に、夜のあの場所は。

だって、

「あぁ、アレね」

なんて説明されても……。

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