【先生たちの裏側】イケメン先生は納得したい
「ヤバいんですよ。僕の額、こんなに広かったっけ? って」
当時所属していた児童文学の同人の集まりでのこと。
額に手を当てて、
「ほら。手のひらがスッポリ入っちゃうでしょ?」
って、Nさんは爽やかに笑いました。
Nさんは、高校の国語の先生で、イケメンです。
ある朝、鏡を見て、自分の年齢を、広がり始めた額に感じたそう。
アイドル的なイケメンではなく、役者的な良いオトコって感じ。
物腰が柔らかく、柔和に色んな意見を受け入れられる大人な方でした。
実はNさん、高校時代の担任が、私と同じなんです。
担任によると、Nさんは成績優秀な秀才タイプだったそう。
「ただ、Nはキミとは、真逆なタイプの生徒だったなぁ」
ある時、担任が私に言ったことがありました。
「Nは、テストで答えは分かっていても、自分が納得していないと、答えを書かないんだよ」
なので、本当は100点をとれるクセに、80点とか90点になるんですね。
当時、職員室で話題になったそう。
「勉強って丸暗記じゃありませんよね。どうしてその答えに至るのか? を学ぶモノですよね?」
疑いもなく、真面目に言うNさん。
ある意味、困った生徒だったそう。
「そりゃ確かにそうなんだけど、そう堂々と教師に言うNに、僕は危うさを感じてね」
「危うさ、ですか?」
「納得できることばかりの世の中じゃないじゃない」
それで児童文学の同人に誘ったと。
担任の困り笑いが印象に残りました。
やがてNさんは、高校の教師になりました。
有名大学卒の若いイケメン先生ですから、女子高生たちの注目の的。
「でも、アレは所謂モテた、とは違うよね」
Nさん、苦笑いで冷静に分析。
そんなNさんの授業中、隠れてマンガを読んでいた女子生徒がいました。
当然注意すると……。
ヤバっ、て顔の女子生徒は、それでも抵抗したそう。
「悪いけど、コレ、先生の授業より面白いんだよ」
口を尖らせる女子生徒。
その余りに真剣な瞳に、Nさんは、思わず微笑んだそう。
「そうなんだ? なら、読み終えたら貸してよ」
Nさんは、一度取り上げたマンガを返しました。
「え?」
マンガを没収されると思っていた女子生徒は、キョトン。
「どこが僕の授業より面白いのか知りたいんだ。これでも授業を面白くしよう、って努力してるんだから」
そしてNさんは、読み終わったマンガを生徒に返しました。
「コレ、本当に面白いね」
「でしょ!」
これで生徒に好かれない訳がない。
でも、これを聞いて思ったんです。
「Nは自分が納得していない答えは書かないんだよ」
担任の言葉。
Nさんは、教師になっても、納得できるか確認している。
「これから授業の開始10分間は、好きなモノを読んで良いことにします」
教室がザワつきます。
「マンガとか?」
「うん。ファッション雑誌とかでも良いよ。とにかく読めるモノなら、なんでも良いから」
!?
教室の雰囲気が変わります。
「でも10分過ぎたら、授業に集中してね。成績も落とさないように」
ある時、Nさんが言ったんです。
「今度、同人に入る子、キミとは真逆なタイプだから、よろしくね」
そう担任が言ったそう。
「真逆、ですか?」
そう聞くと、担任は言ったんですって。
「テストでね、その子は本文を読まないんだよ」
「えっ?」
Nさん、しばし絶句。
「まさか、問題文から、本文を推理してる?」
「そう」
「テストで? 無理ですよ、そんな子」
「N、納得とか関係なく答えを書く子もいるんだよ」
「彼は上昇志向が強いから」
「優秀な人だしね」
同人の方々は、Nさんをそう評します。
Nさんに伝えると、苦笑い。
「僕なんか、優秀じゃないよ」
でもね、と続けたんです。
「僕は、今の教育行政や教育システムに納得してないんだよ」
Nさんは、真剣な顔に変わりました。
「だから、教育システムそのものを変えられる立場に行きたいだけ」
「なんてね」
Nさんは、照れ隠しのように笑いました。
そんなNさんは、若くして、現場を離れて、教育委員会に行きました。
自分が納得できる答えを求めて。
Nさんに、聞いてみたんです。
現場を離れるって寂しくないんですか? って。
Nさん、ニヤリと笑いました。
「本文を読まずに解答する生徒に、出会わずに済むからね」
その言葉に、苦笑いです。
とにかく、とNさんは笑顔を消しました。
「生徒が困るのだけは、納得できないから」
マンガを没収しない先生が、どんな教育システムを創るのか。
それは少し見てみたい気がしてます。
