幸運すぎる俺のもとに死神がやってきた 第2話

第2話

あまりに唐突な事態に、俺は全く動くことが出来なかった。
なんとか認識できた事はすでに首に鎌の刃が接近していることだけだった。
 
しかし、鎌の刃はガキンッという金属音を奏でて俺の首の手前で急に止まった。
一体何が起きたんだ?

「あれ? 引っかかっちゃいました?」

ミリアも不思議な顔つきで首を傾げている。
俺は鎌の切っ先に目を向けた。その鎌の刃先は壁へとめり込んでいた。あと数十センチ、ミリアが鎌を手前に引くだけで俺の首はすぱっと斬れていただろう。そう考えると背筋に悪寒が走る。

「い、いきなり何するんだよお前は!」

俺は冷や汗をだらだらとかきながらミリアに質問を投げかけた。
本当に死ぬかと思った……。

「何って……。最初に言いましたよね? 私のために死んで下さいって」
 
ミリアは怪訝な顔つきをしている。
……マジかよ。この女本当に俺を殺すつもりだったのかよ。

「では気を取り直してもう一発行きまぁーす! じっとしてて下さいね?」
「うわ! 待てやめろって!」

ミリアは引っかけた鎌を取り外し再び鎌を振った。
 
やばい! 死ぬ!

俺は咄嗟に目を瞑っていた。今度こそ本当にこそ死を覚悟した。
しかし、体には何の異常も感じられなかった。
ゆっくりと目を開けると、そこにはミリアが唖然としていた。

「嘘……。鎌が折れちゃいました」

ミリアの足下には鎌の刃が落ちていた。どうやら彼女が鎌を振り抜く際に空気抵抗で折れたみたいだ。

「ちょ、ちょっと待ってください! おかしくないです!? 死神の鎌が折れるなんて聞いたことありませんよ!?」

ミリアは刃がなくなった鎌の柄を見つめながら混乱している。だが俺は理解するのに時間が掛らなかった。
一度目は壁に引っかかり、二度目は折れる。確かに彼女の言うとおり、普通に考えてこの展開はできすぎだ。つまり、おそらくこれは俺の幸運体質がもたらした事象の確変だ。
今ほどこの体質で良かったと思ったことはない。父さん、母さん、こんな俺を生んでくれて心の底から感謝するよ。ありがとう。

「……あなた、やっぱり普通じゃないんですね?」

苦笑する俺の表情を見てミリアさっきとはうって変わってまじめな顔をする。
別に隠し立てする必要はないし、ここは正々堂々答えてあげよう。

「……信じられないかもしれないが、俺は生まれついての幸運体質の持ち主なんだよ。俺の意思とは関係なく俺が関わること全ての事柄に幸運がついてまとう。どうだ、驚いたか?」
「はい。驚きました。しかし容易に信じられます。あなたは『希少魂』の持ち主、何かがあって当然です」

きしょうこん? 一体何の話だ。

「……とにかく、俺を殺すのは難しいと思うぜ? おとなしく諦めた方が良いと思うよ」
「お断りします。私は私自身のためにも、あなたの命をもらわないといけません。ここは絶対に引くことは出来ません」

ミリアにはもう、先ほどまでのポンコツな面影は見えない。その真剣な眼差しに何か信念めいたものを感じた。どうやら彼女から引く選択肢は最初からないらしい。

「なぁ……。俺を殺そうとするにも、まずはそっちの事情を話してくれよ。何も分からず殺されるのはさすがにきついよ」

俺のその発言にミリアは少し考えた後、床に正座した。

「……確かに配慮が足りなかったですね。分かりました。それでは私の事情を説明します。ちゃんとご理解いただけたならその時はあなたの命をもらいます。それでいいですか?」
「ああ、それでいいよ」

微塵も良くはねぇがここはこう言っておかないと話が進まない気がする。

「それでは、まずはこれを見て下さい」

彼女は両手に小瓶を出現させる。出現させることができるのは鎌だけではないらしい。

「……何だこれは?」

俺はその小瓶を見て率直な疑問をミリアに問う。なにやらその小瓶には砂粒よりも更に小さい、ミクロにもなりそうな極小の蒼いガラスの粒のようなものがおびただしい数存在していた。

「これは、人間の魂です」
「人間の魂、こんな粒がか?」
「私たち死神の力で小さくしているんです。見てて下さい」

そう言って彼女は小瓶の蓋を開ける。すると小瓶から、小さな粒々が徐々に上に上がっていき、一つ一つが野球ボールほどの青白い炎へと姿を変える。

「すげぇ……」

おもわず感嘆の声を漏らす。青白い炎は部屋の中を漂う。なんとも幻想的な風景だ。

「これは、正確に言えば死者の人間の魂です。」
「死者の人間の魂?」
「そうです。人は死ぬとその魂はその人が生きてた世界を漂います。勿論、地球以外の世界の人もいます。私たち死神の役割は様々な世界に漂う魂を集めてこの小瓶に収めているのです」

……異世界ってやつかな。ちょっと信じがたいな。まぁけどこんな風景見せられたら反論する気も失せる。
ミリアは左手を上にかざす。すると彼女の手の上に炎が集まっていった。
そしてゆっくりと彼女は左手を握った。左手に握られた炎は消え、再び元のちいさな粒に戻る。

「何故小瓶に魂を閉じ込めているんだ?」
「人聞きの悪いことを言わないで下さい。私たち死神は魂を管理しているんです」
「魂を管理?」
「そう。死人の魂はずっと世界に縛られていると徐々に魂に宿っている命の灯火がつきてしまいます。そうなる前に私たちが魂を集めて、管理して、保管しているのです」

へぇ。死神ってもっと悪いイメージしかなかったから素直に意外だ。

「魂はずっと保管しているのか?」
「いえ、集められた魂は死神界で百年に一度行われる『転生祭』で、まとめて転生の役目を担っている女神のもとへ送られていきます」

死神の次は女神ときた。いよいよ現実離れしてきた。
だが、俺はミリアの……彼女の言葉が嘘であるとは微塵も思うことは出来なかった。それほどまでに今の彼女が放っている空気が人間のそれとは別物に感じたからだ。

「死神って……すげぇんだな」
「はい。死神はすごいんです」

俺とミリアは互いに顔を見合わせて笑った。
……ん? 待てよ? 何かいい雰囲気になっているが大事な事を忘れている気がする。

「……で、その死神の役目と俺の命をもらうのとなんの関係があるんだよ?」
「問題はそこなんですよお!」
「どわ! いきなりどうした!」

ミリアは泣きながら俺に顔を近づけてきた。
おい! さっきまでの穏やかなお前はどこ行った! もう完全に別人じゃないか!

「昨日その百年に一度の転生祭だったんでずよお!」
「……いいからまず鼻水ふけ」

俺はミリアにティッシュを差し出す。彼女はそのティッシュを受け取り、鼻をかむ。最初に出会ったときの彼女が戻ってきたようだ。
めんどうくさくなりそうだなぁ……。

「で、昨日がその転生祭だったんだって? めでたいことじゃないか」
「はい、本来ならぞうなんですよ……」
「本来なら?」

いまだに鼻声になりながらミリアは話を続ける

「転生祭を行う直前に保管庫から大量の魂が入った小瓶を運ぶんですよ」
「ふんふん、それで?」
「その魂を運ぶ役割は代表で選ばれた一人の死神が担当することになっているんです」
「どうやって運ぶんだ?」
「死神の世界でのみ使うことが出来る。一部の死神しかもってない念動能力があるんですよ」
「……ひょっとして、お前って結構すごいのか」
「名高いコープス家の家系ですから」

いや知らねぇし。それにそんな誇らしげに平らな胸を張られてもなぁ。

「……まぁいいや。続けて」
「今回その役割を死神王様に仰せつかったのは私なんです」
 
……なんか死神王とかいう怖いワードがでてきたがとりあえずスルーしよう。

「その役目は私たち死神にとってとても名誉な事なんです。今年私が選ばれたときは跳ね上がりましたよ」
「なら良かったんじゃないのか?」
「問題はここからなんだすよ!」

……今こいつ、「だす」って言ったな。どこまで動揺してるんだよ。

「魂の保管庫から転生祭に行く通路の間に「界道」というものが集中している場所があるんですよ」
「界道?」

またよく分からない単語が出てきたよ。そろそろお腹いっぱいだ。

「簡単に言えば様々な世界と死神の世界をつなぐ落とし穴というか、落ちる通路のようなものです」

ああ、そういえばわかりやすいな。マ○オの土管みたいなものだろうか。
……ん? 穴だと?
穴という言葉になぜだかとても嫌な予感がした。まさか……こいつ。

「……当日、私は浮かれていて全く周りが見えていなかったんです」
「――お前、もしかしてその運んでる最中に魂を界道に落としたな?」
「わぁん! そんなばっさり言わないで下さいよぉ!」

ミリアの叫び声をできる限り聞こえないように俺は耳を指で塞ぐ。どうやら図星のようだ。そして彼女にとってとても恥ずかしいことらしい。
……しかし、まだ腑に落ちない。なぜ俺が死ななきゃならないんだ?

「それで……私は親と死神王様にこっぴどく叱られました」
「当然だろうな」

百年に一度の祭りを台無しにしたんだ。さすがに名家の死神でもお咎めなしの訳にはいかないだろう。

「そこで、私に出された選択肢は二つ。一つは、落とした魂を一年以内に集めること。もしくは「希少魂」を一つ手に入れて持ってくることです」
「さっきも言ってたが、その『希少魂』って何なんだ?」
「数千年に一人の確率で現れる。いわば他の魂が本能的に欲するほどのエネルギーを持った魂の事です。これがあればたちまちに魂が湯水のごとく集まってきます。これならすぐに落とした魂を回収することも出来ます!」

なるほど。わかった。よーくわかった。

「……つまり、その魂が俺に宿っていると?」
「そうです!」
「ふざけんな!」

俺はミリアに強い怒号を浴びせるのだった。

#創作大賞2024 #漫画原作部門

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