幸運すぎる俺のもとに死神がやってきた 第3話
第3話
俺の声に、ミリアは酷く面食らったような顔をしていた。
やがてムスリと、彼女は頬を膨らませる。
「そ、そこまで怒ることないじゃないですかぁ!」
「ふざけんなよ! 完全にお前個人の責任じゃねぇか! 俺完璧に部外者じゃねぇか! 誰が好き好んでお前の尻ぬぐいを俺がしなきゃいけねぇんだよ! てめぇのケツくらいてめぇでふけこの馬鹿!」
「ば、馬鹿って何出すか! それに女の子にケツケツ言わないで下さい!」「うるせぇ! 死神のくせに人間ぶってんじゃねぇ!」
俺の怒りの声にミリアは瞳に涙を溜めて更に頬大きく膨らませる。
あ~だめだよ。だめだめ。そんな顔しても俺の魂はやれません。
「お願いですから魂下さいよお! ちょっとさくっと死んで下さるだけで良いですからぁ!」
ミリアは俺の足へとしがみつく。
「そんなちょっと注射ちくっとするよ? みたいな言い方してもだめだから!」
「あなたの魂があれば他の魂がザックザックなんですよぉ!」
「そんな財宝ザックザックみたいに言うな!」
「いいじゃないですかあ! 今まで希少魂のおかげで良い思いしてきたんですよね? ここいらで潮時ですよ!」
「そんな簡単に人生に見切りつけてたまるか!」
「お願いしますよお! このままじゃ私死神界を追放されちゃいます!」「それこそ本当に知るか!」
こんな俺とミリアのやりとりは小一時間にも及んだ。
俺は今、生まれて始めてまともな不幸を受けている気がする。
「はぁ……はぁ……。大体さ、お前自身が落とした魂を全て集めればすむんじゃないのか?」
「はぁ……はぁ……。それが出来たら苦労はしてませんよ」
もはや俺とミリアは言い争いすぎて息切れを起こしていた。
「……一体いくつ分の魂を落としたんだよ?」
「……」
ミリアは俺の質問にたいし、口に指を当てる。計算でもしているのか?
まぁ、様々な世界の人の魂を百年分集めていたんだ。そのうちどのくらい落としたかは知らないが、正確な数が出なくても仕方ないか。
そして彼女は口から指を離すと、とぼけた笑顔と可愛らしい弾んだ声でこう言った。
「……軽く見積もって、数千億?」
「はいさようなら」
バタンと俺はマンションの外に出た。
「ちょっと待てええ!」
うわ、あの女とうとう口調が変わったぞ!
俺は全力疾走でマンションの階段を降り、歩道を駆け抜ける。
俺の部屋、二階で良かったぁー!
「もうわかりました! あなたがそんな手にでるならもう強行突破です! こっちも本気の本気でやりますから、おとなしく魂よこせこの野郎!」
後ろからそんな声を上げながらミリアは追いかけてくる
一瞬でキャラ変わりすぎだろあの女。
「待てええ!」
「待てと言われて待つ馬鹿がいる分けねぇだろ!」
「このぉ! もうほんとに怒りました!」
「ハッハーお前に怒られても恐くないもんねぇ!」
ミリアに追いつかれないように全力で道を駆け巡る。そろそろまいたかな?
そう考えていると彼女は俺の隣にいきなり出現した。
「げ、しまった! この手があったか!」
「残念でしたぁ! 私には瞬間移動があるんですよ!」
俺と平行して走り続けながらミリアは手に鎌を具現化させる。
「その鎌まだあったのか!」
「スペアですよ! これでいただきです!」
ミリアは走りながら鎌を振り上げる。
そして並走する俺に目掛けてその刃を振り下ろす瞬間――。
「――ぐべぇえ!」
彼女は目の前にあった電信柱に思いっきり激突し、地面に倒れ込む。
……こいつ。アホだ。
俺は走らずにその場に止まった。
「……いったぁ~い。もう! どこまでも運のいい人だこと!」
「……いや、今のは俺の運関係あるのか?」
「あら、逃げなかったのですか?」
「瞬間移動あるし、逃げても無駄でしょ」
しかしこいつ、急に落ち着いたり、泣いたり、叫んだり、お嬢様口調になったりキャラがブレブレだな。
「つまり、やっと観念したってことなんですか⁉」
「……ああ観念したした、俺の根負けだよ」
実際これ以上やっても無意味だ。そもそも俺には死神にすら覆せない幸運があるのだから無視しても良いんじゃないか?
「ならそこでじっとしてて下さい! すぐに終わりますから! あなたを鎌で斬ってあげますから!」
どんなことがあってもやっぱりこいつは諦めないらしい。
ならば俺も覚悟を決めよう。
以前から思っていた。俺の幸運とはどこまで作用されるものなのかと。
だから俺はこの無防備な状態でどんな幸運がくるのか、少し試してみたくなった。
「ほら、さっさと斬って、終わらせろよ」
俺はミリアに両手を挙げて身をゆだねた。
「……じゃあ。斬りますよ?」
「……おう」
あたりに静寂が満ちる。聞こえるのは車の走行音だけだ。
「……あなたと過ごした時間は短かったですが、結構楽しかったですよ?」「……俺もだ」
俺たちは互いに微笑んだ。
なぜしみじみとした空気になっているんだ?
「……では、さよなら!」
そう言ってミリアは鎌を動かす。
その時だった。
ドガァン!
突如目の前に轟音が鳴り響いた。俺はあまりの出来事に声も出なかった。
目の前にあるのはトラック。つまり、トラックがミリアとその隣にあった家の塀を巻き込んで突っ込んできたのだ。
俺は直ぐに理解した、これも俺に宿る幸運の結果だと。
だがさすがに――。
「……ここまでの運は期待してなかったな」
俺の中の幸運よ。これは少しやり過ぎじゃないのか? 確かに死にそうだったけど彼女を死なせる必要性はなかっただろ。そもそも、死神って死ぬのか?
「うぅ……。痛い」
「あ、出てきた」
崩れた瓦礫のなかからミリアが顔を出した。彼女はものすごく泣いている。
……ちょっと可愛そうに思えてきた。
「お、おい。大丈夫か?」
「……帰る」
「え?」
「……おうち帰る」
ミリアはそう言って夕焼けの空の中、悲しげな背を見せながらとぼとぼと歩いて行った。
「……なんていうか、不憫だな」
俺も帰って、明日の学校に備えて寝よう。
※※※
翌日、学校の登校中、俺は昨日ミリアに追いかけられた道を歩いていた。
昨日のことを思い出すだけでつかれる。
「なんかくるしそうな顔してるな、お前」
「分かるか? ちょっと昨日不幸な出来事があってさ」
「ぷっ。幸運な幸生に不幸なんてくるわけないだろ!」
「それがそうでもないんだがな……」
このように昨日の出来事が夢だったのかと思うほど友人との他愛のない雑談をしていた。
しかし、この日の朝のホームルームにそれは起った。
「今日は転校生を紹介するぞー」
先生がそう言うと、クラスの中に女の子が入ってくる。
俺はその女の子を見ると、机に重りのように顔を伏せた。
「さて君、自己紹介を」
「ミリア・コープスです! 皆さん! よろしくお願いします!」
学校の制服を着用しているミリアは、深々と頭を下げた。
「……嘘だろ。どこのテンプレ展開だよ」
これが、幸運すぎる俺と死神ミリアとの出会いである。
これからこの死神に魂を狙われ続け、俺は持ち前の幸運でことごとくそれを躱していく物語が始まる。
この出会いは、俺の人生の中で幸運と言えるようになるか、はたまた幸運の中の不幸となるか。
この時の俺は、まだそれを知らない。
