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『ループ』

 大切にしていたヒーローの人形が壊れ、小学生が、この世の終わりのように泣き叫ぶ。
 
 しかし、一生懸命勉強した挙句に第一志望の高校に落ちた少年は、人形なんてまた新しいのを買ってもらえば良いし、どうせ数年後には好みが変わって別のおもちゃを欲しがるんだ、だけど第一志望校をもう一度受験することはできない、と嘆く。
 
 そんな少年を見て、初めての彼女にフラれた大学生の青年は、第二志望校に行ったって、ちゃんと勉強すればこうやって大学にも入れるが、あんな素晴らしい女性と出会う機会は一生無いと、食事も喉を通らないほど落ち込む。
 
 時間をかけて準備してきたプロジェクトが失敗に終わった会社員は、初恋が一生続く人なんてほぼいない、素敵な人と出会う機会は先々何度もあるが、このプロジェクトは自分の人生を左右するものだったんだと、頭を抱えて苦しむ。

 そこで老人は言う。一度や二度の仕事の失敗なんて誰にでもある、反省を活かして本気で取り組み続ければ、周りもついてきてくれるし、新たなチャンスも訪れる、だが、長年連れ添った妻を失った悲しみは計り知れない、と。

 だが、その人の年齢、経験、取り巻く環境によって、最も大事な事柄は違うのだ。
 人形が壊れた事が何よりも悲しい出来事である小学生を、その程度しか悩みが無いからと、大人は羨むかもしれない。しかし、その子の心の中で占める悲しみの割合は、青年が失恋した時の彼の中の悲しみの割合と同じなのだ。

 とは言え、それに気づかない人は多い。
 私は偶然、妻を老衰で亡くしたばかりの老人と出会った。悲しみに暮れる彼は、残りの短い人生をこんな辛い思いで過ごさねばならないのかと呟いた。
 滅多に一人の人間に思い入れることの無い私だが、この時は珍しく、妙に同情心が湧いてしまった。全能の神である私は、何か一つ願いを叶えてやるから元気を出せ、と言った。すると、彼は言った。この悲しい記憶を消して、無邪気だった小学生の頃に戻りたいと。

 そして今、彼は壊れた人形を握りしめ、この世の終わりのように泣き叫んでいる。


作:田中エイドリアン

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