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グッドアイデア

 アイデアが閃いた。片想いの彼に告白する方法だ。

 彼、とはいつも指名して教えてもらっていた自動車教習所の教官のこと。
痩せて背もわたしと同じ163センチくらい、こけた頬が老けて見え、少しも心惹かれるタイプではなかったのに。

 会社を中途退職し、少しは貯金もたまっていたので、免許を取ろうと思い立ったのは30歳のころだった。運動神経ゼロのわたし、通い始めてみると、案の定カーブは曲がれない、ウインカーは出し忘れるなど失敗ばかり、あきれ顔の教官のなか、一人だけ根気強く付き合ってくれたのが彼だった。縦列駐車の見本をみせてくれたとき、助手席の背に手を回した彼の体から微かなコロンの香りがして、ドキリと胸が高鳴った。どんなに失敗しても、終了時間になると「またがんばりましょう」とかけてくれた言葉が嬉しかった。

 免許を取るまで三カ月もかかったから、彼とはだいぶ親しくなり、一つ年下で子持ちであることも分かったが、恋に落ちていたわたしには、ちっとも気にならなかった。彼と二人でドライブに行きたい、と恋焦がれたが誘う勇気もなく迷った末、あるアイデアが閃いた。彼の車はブルーのカムリと聞いていたから、駐車場に忍び込んで彼の車のドアの取っ手に小さな手紙をテープで貼ればいい、「電話下さい」と番号を書いて。決行の日、駐車場までの近道には夏草が茂り、風が吹くたびにさわさわと鳴った。「そんなことしていいの?」と囁くように…

 すぐに電話があった。数日後、仕事帰りに近所の空き地まで迎えに来てもらうよう約束、初めての教習車ではないドライブが実現した。国道沿いの店で夕食をとっただけだったのだが。もう会うべきではないと思ったが、彼が幸せな家庭に帰っていくのがたまらなく悲しく、忘れられたくなかった。
だからといって降り際に金色のピアスを片方、助手席の下に落としてきたのはいいアイデアだったのだろうか。

                 おわり


ナルさんの企画に参加させてください。
ナルさんお手間をおかけしますがよろしくお願いいたします。

#片想い文芸部

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