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25年後【風まかせ文芸部】

 就職して8年、仕事にも慣れそれなりの評価も得るようになったが、わたしには心落ち着かない日々だった。30歳は女性にとって分かれ目の歳、結婚した友もいれば、親からもその話題が持ち出される。そんな時ネットで変わった名前の結婚相談所を見つけた。
「25年後」
住所を見ると会社から近い。思い切って帰りに立ち寄ってみた。

 ビルの3階の事務所は、ドアを開けると大きなウンベラータの鉢植えがあるだけで、どちらかというと殺風景だった。中年の厚化粧の女性がにこやかに迎えてくれた。
「いらっしゃいませ!」
「あの、ここって?」
「ええ、いいご縁をご紹介しますよ。登録されている方も大勢いらっしゃいますし」
「あの、『25年後』というのは?」
「ああ、うちでは男性の方には25年後はどういう生活を約束するのかお話を伺いそれを基にビデオを作っていますの。あなたの希望とマッチする方のビデオ、お見せできるんですよ。お差支えなかったら登録をされ、お相手の希望を入力なさいませんか」
あまりに話が早く当惑したが、ここまで来たのだ、見るだけくらいならやってみようか、そう思って相手の希望をデスクにあるパソコンに入力してみた。
たちまちマッチする二人の男性の顔が現われた。
最初の一人Aに心を奪われた。目黒蓮似のまさにタイプ、職業は外科医。
ビデオでは、開業した立派な病院が映し出され生き生きと働くAの姿、話がうますぎる。が、これが現実になるかもと思うと心躍った。
二番目の男性Bは誠実そうではあったが、Aと比べると見劣りがしビデオを見る気にもなれず・・・話はスムースに進み、めでたくそのAとわたしは結婚した。

・・・25年がたった。Aはビデオ通りに開業し、仕事に忙殺される日々、わたしは子供に恵まれなかったので、Aの妹の子供を養子にしたが、悩むことも多く、外から見れば理想的な環境ではあっても、心は満たされなかった。

 そんなある日、近所に美味しいパン屋が開業したということで出かけてみた。こじんまりとした清潔なお店、ギンガムチャックのエプロンをかけ店番をしているのは奥さんだろうか、笑顔がステキな人だ。ガラス越しに見える工房でご主人がせっせとパンを焼いている。その顔を見てハッとした。あのときのBだ。もちろん彼はそんなことは知らない。二十歳くらいの息子が配達から帰り楽し気に会話している。柱には手書きの「焼き立てパン配達します」の張り紙・・・

あのとき、もしBを選んでいたら・・・今さらせんないこと、ビデオは25年後の心までは写し出さない。かぐわしい焼き立てバケットを抱いて、わたしは家へと歩き始めた。自分の選んだ道を顔を上げて。

              おわり


i さんの企画に参加させてください。
i さんお手数をおかけしますがよろしくお願いいたします。

#風まかせ文芸部
もちろん全くのフィクションです😆

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