鍋の具は【シロクマ文芸部】
鍋の具は白菜が主役だ。父の好みで冬の夜は白菜鍋をよく作った。葉の真ん中の少し固い部分は火が通りやすいように斜めに切る。白菜だけでは寂しいから人参、しめじ、白ネギ、そしてもう一つの主役、骨付きの鶏肉を加える。頃合いを見て土鍋の蓋を開けると、テーブルの中央に勢いよく湯気が立ち上る。湯気の下では白菜と鶏肉が抱き合って小躍りしている。柚子の香りが華やかに広がる小鉢にまず鶏肉、次に野菜と白菜をたっぷりよそって、「はい、どうぞ」と、父の前に置く。
父はいつもの「儀式」どおり、白菜を箸でとり「ふう」と吹いて口に入れ、満足気な表情になったものだった。
一人暮らしになってから、鍋物には縁遠くなったが、野菜をたっぷり入れたスープは年中欠かさない。大きなホウロウ鍋に大根、ジャガイモ、南瓜、
玉ねぎ、白菜、トマトなどを入れてお玉で時々灰汁を取りながら30分ほど煮るだけの簡単料理だ。がんにならない野菜スープ、という本に載っていたものを季節ごとにアレンジして作っている。味付けは野菜の味だけだが、物足りない時は、塩少々、開き直って、つゆの素とご飯を入れ最後に溶き卵を加えておじやにすることもある。カレーの素を入れればカレースープになるし
煮込みうどんにしても美味しい。
去年の秋、高さ30センチほどの柚子の苗を買った。柚子は鋭く長い棘があり、袋の上からタオルを巻いて家まで運んでくる間に何度も刺された。でも痛みに耐えた甲斐あって、今年の春になったら白い花を咲かせ、なんとちっちゃな実をつけた。そのうちの一つが見事に稔り、ついに収穫した!
もうすぐ父の命日がやって来る。久しぶりに白菜鍋を作り、柚子を絞った小鉢によそい、「ふう」と息吹きかけて食べてみようか。香りと稔った喜びを
味わいながら。
おわり

小牧さんの企画に参加させてください。
初めて稔った柚子、大事に食べます😊
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