クレアチンはトレ前に飲まないと意味がない説
〖プロローグ〗
サプリメントの話になると、よく出てくる。
トレ前がいい。
いや、トレ後がいい。
いや、ゴールデンタイムを逃すな。
こういう“タイミング論”は盛り上がりやすい。
なぜなら、サプリは「いつ飲むか」で差がつくと思った方が、なんとなくそれっぽいからだ。
今回はXでフォローしていただいてる方から、
「クレアチンを飲むタイミング」についてご質問を受けた。
今回はクレアチンの摂取タイミングに絞って検証してみた。
〖結論〗
この説は、かなり怪しい。
クレアチンはトレ前でなければ意味がないわけではない。
現時点のエビデンスでは、トレ前とトレ後で決定的な差があるとは言いにくい。
一部ではトレ後がやや有利という報告もあるが、研究数は少なく、後続研究では差が出ていない。全体としては、前か後かより、毎日継続して摂って筋肉内を満たしておくことの方が重要と見るのが妥当だ。
〖エビデンス〗
このテーマでよく引用されるのが、2013年のAntonioらの研究だ。
この研究では、レジスタンストレーニングを行う男性で、クレアチンをトレ前に飲む群とトレ後に飲む群を比較し、トレ後の方が体組成や筋力でやや有利かもしれない、という示唆が出た。だから「やっぱりトレ後が正義」と言いたくなる。
ただし、この話はそこで終わらない。
2018年のレビューとメタ解析では、トレ後の方が筋量ではやや有利という結果が出た一方で、対象研究はわずか3試験で、筋力には有意差が出ていない。つまり、「少しそうかもしれない」までは言えても、「絶対にトレ後でなければダメ」とまでは言えない。
さらに、2022年のランダム化比較試験では、大学アスリートを対象に、クレアチンをトレ前1時間以内に飲む群とトレ後1時間以内に飲む群を8週間比較したが、除脂肪体重、筋力、体脂肪率などの指標でタイミングによる追加効果は認められなかった。
2022年の総説でも、若年者・高齢者ともに、トレ前摂取でもトレ後摂取でも筋肉への利益は概ね同様と整理されている。
〖研究から分かること〗
ここから言えることはシンプルだ。
クレアチンは、カフェインみたいに「今飲んだから今すぐ効く」タイプではない。
むしろ、数日〜数週間かけて筋肉内のクレアチン貯蔵を高めていくことが本体だ。
AISの解説でも、ローディングを行うなら短期間で筋肉内クレアチンを増やせるし、ローディングをしなくても1日3〜5g程度を継続すれば徐々に満たされていく、とされている。つまり重要なのは、1回の神タイミングより、総摂取量と継続性だ。
だから実務上はこうなる。
飲み忘れない時間に固定する。
これがまず最優先だ。
朝食後でもいい。
トレ後のプロテインと一緒でもいい。
ルーティン化できるなら、トレ前でもいい。
ここでいちばん弱いのは、「ベストタイミングを探し続けて、たまに飲み忘れる人」である。これは普通にありえる。
サプリは“理論上ベスト”より“現実で続く”の方が強い。
〖なぜこの説が広まったのか〗
この説が広まる理由はわかりやすい。
まず、筋トレ界隈は“タイミング論”が好きだ。
トレ前、トレ中、トレ後。
どこに置くかで差が出ると言われると、いかにも効率化っぽく聞こえる。
さらに、2013年の「トレ後やや有利」の研究がインパクトを持って広まりやすかった。そこだけを切り出すと、「ほら、やっぱりトレ後じゃん」と言いやすいからだ。
でも実際は、その後の研究で差が再現されていない。
つまりこれは、よくある
“一つの研究結果が強い言い切りに変換されて流通したパターン”
に近い。
〖制御ダイエット理論視点〗
この話、ダイエットでもよくある。
本質は日単位、週単位、月単位の蓄積なのに、
人はつい「今日のこの1回」で勝負が決まると思いたがる。
クレアチンも同じだ。
重要なのは、
今日トレ前に飲んだかどうかではなく、
この数週間、ちゃんと体内に維持できているかどうかである。
つまりこれは、
単発の刺激を追う話ではなく、状態量を作る話
である。
ここを取り違えると、サプリの理解も雑になる。
「今日は飲んだから強い」ではない。
「日々満たしているから、出力の土台がある」が正しい。
〖まとめ〗
クレアチンは、トレ前でなければ意味がないわけではない。
トレ後がやや有利かもしれないという研究はあるが、全体としては前後差は小さく、決定打はない。
だから優先順位はこうなる。
1位 毎日継続すること
2位 飲み忘れない時間に固定すること
3位 その上で好みで前後を選ぶこと
この順番を逆にすると、どうでもいい最適化にハマる。
クレアチンで見るべきは“神タイミング”ではない。
毎日入っている状態を作れているかである。
検証の機会を与えていただいたことに
感謝申し上げます。
ありがとうございました。
〖参考文献〗
Antonio J, Ciccone V. The effects of pre versus post workout supplementation of creatine monohydrate on body composition and strength. 2013.
Candow DG, et al. Timing of Creatine Supplementation and Resistance Training. Journal of Exercise and Nutrition. 2018.
Dinan NE, et al. Effects of creatine monohydrate timing on resistance training adaptations and body composition after 8 weeks in male and female collegiate athletes. Frontiers in Sports and Active Living. 2022.
Candow DG, et al. Creatine O’Clock: Does Timing of Ingestion Really Influence Muscle Mass and Performance? 2022.
Australian Institute of Sport. Creatine.
