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「10万円でも売れへん」から全国トップ級へ。湯沢の“負動産”復活に見る地方不動産の可能性


#日経COMEMO #NIKKEI

「タダでもええから、誰か引き取ってくれへん?」

かつて、そんな冗談みたいな話が本当に聞かれたのが、新潟県湯沢町のリゾートマンションです。

バブル時代にはスキーブームに乗って次々と建設され、高値で販売されたものの、バブル崩壊とともに需要が急減。

売ろうにも売れない。

でも管理費や修繕積立金は毎月かかる。

資産どころか、お金を吸い取っていく存在やないか。

そんな意味から「不動産」ならぬ「負動産」とまで呼ばれるようになりました。

ところが、その湯沢町で今、ちょっと信じられへんことが起きています。

中古マンション価格の上昇率が、2026年4月、5月と前年同月比約63%。

なんと全国首位です。

「いやいや、あの湯沢やで?」

と思ってしまいますが、この変化を見ていると、地方不動産の価値というものは、案外固定されたものではないのかもしれません。


バブルの夢から「持っているだけで困る物件」へ

まず湯沢町がどんな歴史をたどってきたのか。

1980〜90年代のスキーブームを知っている世代なら、越後湯沢という名前には華やかなイメージがあるかもしれません。

上越新幹線が開業し、東京から気軽に行けるスキーリゾートとして人気が爆発。

バブル期にはリゾートマンションが大量に建設されました。

記事で紹介されている「ザ・ハウス湯沢」も1990年完成。

新築時の価格は、なんと5800万円から1億5000万円です。

今の感覚でも普通に高いやないか。

ところがバブルが崩壊すると状況は一変します。

スキーブームも終わり、マンション需要は低迷。空室が増え、価格はどんどん下落していきました。

地方のリゾートマンションが厄介なのは、物件価格が安くなっても維持費は消えないことです。

仮に100万円で買ったマンションでも、毎月数万円の管理費や修繕積立金が必要なら、所有者にとっては立派な固定費になります。

しかも買い手がおらん。

売りたくても売れへん。

「100万円のマンションがあるで!」

と言われても、

「それ、ほんまに100万円で済むんか?」

という話です。

だからこそ「負動産」とまで呼ばれるようになったわけです。

それが今や、5年間で3倍超

ところが最近、その状況が変わり始めました。

ザ・ハウス湯沢では、2025年に成約した部屋の平均坪単価が87.1万円。

2020年と比べて3倍以上になっています。

記事に登場する東京都内在住の60代男性は、94平方メートルの部屋を2800万円で購入しています。

94平方メートルて。

東京でそんな広さを探したら、物件検索サイトを開いた瞬間にそっとブラウザを閉じたくなる価格が出てきそうです。

しかも温泉大浴場、プール、スポーツルーム付き。

男性は平日は東京、週末は湯沢という二拠点生活をしています。

もちろん管理費・修繕積立金は月約8万円。

年間約96万円ですから、決して安い維持費ではありません。

それでも本人は「都内で買えば1億円を超える」と考え、割安だと判断しています。

ここが非常に興味深いところです。

不動産の価値は、その物件単体だけで決まるわけではありません。

比較対象が変われば、同じ物件でも「高い」が「安い」に変わる。

東京のマンション価格が猛烈に上昇したことで、かつて高いと感じられた地方不動産が相対的に安く見え始めているわけです。

東京が高くなりすぎると、地方の見え方まで変わる

東京23区では新築マンションの平均価格が1億円を超えることも珍しくなくなりました。

中古マンションも高騰しています。

そうなると、

「東京で6000万円出して狭い部屋を買う」

のと、

「地方で3000万円出して広い部屋を持つ」

という比較が現実味を帯びてきます。

もちろん毎日都心へ通勤するなら話になりません。

ところがリモートワークが普及しました。

週5日出社しなければならない人と、週1〜2回しか出社しない人では「家から会社までの距離」の価値が全然違います。

働き方が変われば、不動産の価値も変わる。

ここは地方不動産を考えるうえでかなり重要やと思います。

東京まで毎日30分で行けることに5000万円のプレミアムを払う必要があるのか。

週末しか使わないなら、新幹線でアクセスできれば十分ちゃうか。

そんな価値観が広がれば、これまで「遠い」というだけで評価されなかった地域にもチャンスが生まれます。

外国人から見れば、さらに違う景色が見える

もう一つ面白いのが外国人需要です。

湯沢のマンション契約に占める外国人の割合は、2023年9月〜24年8月の9%から、25年9月〜26年6月には23%まで上昇しています。

約4件に1件です。

特に中国や台湾などのスキー愛好家から注目されているとのこと。

これも地方不動産の可能性を考えるうえで大きなポイントでしょう。

日本人からすると、

「昔流行ったスキー場」

でも、海外から来た人には、

「東京から新幹線でアクセスできる日本のスノーリゾート」

です。

見ている物件は同じでも、評価軸が全然ちゃいます。

しかも円安なら、日本の不動産価格そのものが外国人から見れば割安になることもあります。

つまり地方不動産は、もはやその地域の日本人だけを需要者として考える時代ではなくなっているのかもしれません。

インバウンドによって「地方」の商圏そのものが海外まで広がる。

湯沢の復活には、その可能性がかなり分かりやすく表れています。

とはいえ「湯沢を買っとけば儲かる」は全然違う

ここで気をつけたいのが、

「ほな地方の激安マンション買っといたらええやん!」

という話ではないことです。

そんな簡単やったらワシも今ごろ全国の100万円マンションを買い占めてます。

同じ湯沢町でも明暗はかなり分かれています。

駅に近く、管理状態が良いマンションには需要が集まる。

一方、駅から離れた苗場エリアや管理組合が十分に機能していない物件では、今でも10万円でも売れない部屋があるそうです。

同じ「湯沢のマンション」でも、

2800万円で売れる部屋と、

10万円でも売れない部屋がある。

差は280倍。

もう同じ不動産市場と呼んでええんかというレベルです。

だから地方不動産を見るときに重要なのは「地方だから安い」という発想ではなく、その不動産が将来どんな需要に接続できるかを見ることなんでしょう。

交通アクセス。

管理状態。

観光資源。

生活利便性。

外国人需要。

二拠点生活との相性。

そして物件そのものの管理体制。

これらが組み合わさって初めて、「安い物件」が「割安な物件」になります。

安いと割安は、似ているようで全然違います。

10万円でも誰も欲しがらない物件は、安いけど割安ではありません。

地方不動産は「人口減少=全部下落」では語れない

日本の人口はこれから減っていきます。

地方ではさらに人口減少が進む地域も多いでしょう。

そのため、

「人口が減るんやから地方不動産なんて全部ダメやろ」

という考え方もあります。

確かに、地域全体として見れば厳しいところは増えると思います。

ただ、湯沢の事例を見ると、もう少し細かく考える必要がありそうです。

人口が減っても、特定の地域や特定の物件に需要が集中することはある。

東京の住宅価格上昇による相対的な割安感。

リモートワークによる居住地選択の変化。

インバウンド。

リゾート需要。

新幹線などの交通インフラ。

こうした条件が重なれば、一度価値を失った場所でも再評価される可能性があります。

つまりこれからの地方不動産市場は、

「地方が上がるか、下がるか」

ではなく、

「どの地方の、どの場所の、どの物件に需要が集まるか」

という極端な選別の市場になっていくのではないでしょうか。

「負動産の復活」が教えてくれること

個人的に今回一番面白かったのは、湯沢の価格上昇そのものよりも、一度「負動産」の烙印を押された不動産が復活したことです。

不動産は動きません。

当たり前です。

湯沢のマンションが東京に近づいてきたわけでもありません。

建物が突然新品になったわけでもありません。

変わったのは、その周囲の環境です。

東京のマンションが猛烈に高くなった。

働き方が変わった。

インバウンドが増えた。

外国人が日本のスキー場に注目するようになった。

ホテルが取りづらくなった。

その結果、昨日まで魅力がないと思われていた不動産に、新しい使い道が生まれた。

これは地方不動産を考えるうえで、かなり重要な示唆やと思います。

地方には今後も人口減少という大きな逆風があります。

せやから「地方なら何でも復活する」なんてことはまずありません。

むしろ需要のない物件は、これまで以上に厳しくなるでしょう。

その一方で、アクセス、観光、働き方、海外需要などの変化によって、新しい需要と結びつく不動産には思わぬ再評価が起こる可能性もある。

湯沢町では今も、数千万円で売れるマンションと10万円でも売れないマンションが共存しています。

この強烈な二極化こそ、これからの地方不動産市場を象徴しているように思います。

「地方不動産は終わり」でもない。

「負動産を買えば一発逆転」でもない。

大事なのは、その物件が未来の誰に必要とされるのかを考えること。

不動産投資というと、ついつい今の家賃や利回りばかり見てしまいます。

でも10年後の需要者が誰なのかまで想像する。

国内の居住者なのか。

二拠点生活者なのか。

高齢者なのか。

外国人なのか。

観光客なのか。

湯沢の「負動産」復活劇を見ていると、不動産の価値とは建物そのものではなく、社会の変化との組み合わせによって生まれるものなのかもしれません。

昨日まで誰も欲しがらなかったマンションが、今日は全国トップクラスの値上がり地域になる。

不動産市場、ほんま何が起こるか分かりませんな。


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