「バードコール 小鳥のくちびる」 第二話
……彼女のくちびるがなにか言っている。なにかを囁き、つぶやき、かすかに動いている。ぷるるんとしたあわい桜色のふたつのくちびるが、くっついたり離れたり……。裂け目が、円くなったり、長くなったり、すぼんだり、のびたりして、その裂け目から、かすかに、息がもれてきた。裂け目が、円くなったり、すぼんだり、のびたりするたびに声ともつかない声が、ただの吐息のように漏れて、私の肌や耳をなでてくる。裂け目が閉じると、ふっつりと、声も途絶えた。声はなんと言っているのか。聞こえるようで聞こえない。意味が伝わってくるようで伝わってこない。チュッ、チッ、チッ、……くちびるの裂け目が閉じたり開いたりするたびに、声が聞こえてくる。チュッ、キュルルッ、ツィーーーツ、……どこかで聞いたことがある声、あわい桜色の肉片がうごいて、裂け目が、ひらいたり、閉じたりするたびに、途切れたり、つながったりしている。裂け目がまんまるにひらいたとき、こちらから息を吹き込んだら、どうなるだろう。とがらせ、まんまるくひらいたこちらのくちびるから、硬くした息を吹きこんでやる。硬い息が彼女のあわい桜色のくちびるの表面をこすって吸いこまれていく音がするのだろうか。その音は、汽笛のようだろうか。草笛のようだろうか。なんども、なんども、吹きこんでやるたびに、音はかわっていくのだろうか。硬い息をつうじてあちらとこちらがつながる、一瞬。ただ彼女のくちびるの裂け目が閉じてしまうと、そのつながりはぷっつり途切れてしまうのだろうか……。
彼女の、あわい桜色のくちびるの裂け目から、もれてくるかすかな音。谷をわたるささやかなそよ風のように、肌と耳をなでていく。裂け目が、のびたり、ちぢんだり、ちいさくうがたれたり、まるくひらいたり、閉じたり、チュッ、チッ、キュルルッ、……彼女のくちびるはしゃべっている、チュッ、チッチッチッチッ、キュッキュルルルッッ、……なにを言っているのか……ツーーイッ、ツッィーーーッィ、キュルッキュルッ、チュッ、チュッ、チチチチチチ……どこかで聞いたことがある、この音……そう、……
私は目覚めた。彼女のさえずりが聞こえていた。あれから、彼女も、私も、何かあれば、いや、なにもなくても、むしろなにもない時にこそ、要はヒマさえあれば、始終さえずるようになっていた。すこしでも手持ちぶさたなときがあれば、ちょっと、さえずってみる。意味もなにもない。強いて言えば、挨拶? いや、存在確認? 自分がこうしてここにいること、そして、相手がやはりいつものところにこうして存在していること、そんなことを確かめあっている? つまり、やっぱり、ヒマだったのだ。
ときどき、ベランダにでることもあった。ベランダに出てさえずってみる。ただ、どうしてだろう、相手がベランダでさえずっているとわかるときは、あきらかにさえずりの大きさや響きがちがっているのですぐわかるのだけど、そんなときはお互いにベランダに出ることはなかった。もう一度といわず、私は、彼女の微笑みを目にしたいと思っているのに。その一方で顔をあわせるのをどことなく避けていた。彼女にしてもそうなのかも知れない。エレベーターで偶然鉢あわせになるのさえも避けるために、私はできるかぎり雨の日は買い物を控えるようになった。雨さえ降っていなければ非常階段を使えるので、鉢あわせの心配はなかった。その一方で、なにかまた、この前いじょうの偶然がおきて、彼女と顔をあわせることになればなどとひそやかな期待をいだいていた。
「チュッ、チュッチュッ、キュゥーール、キュゥッルルルッ、チュチッチュッチッチュッチッ、キュルルルルッッ」
「チュッ、チュッチュッ、キュゥゥ、ルルルッチュィー、チューーィッ、チチチチチ、キュイーーッ、キュルルルルッッ」
彼女のさえずりを耳にすると、あのあわい桜色のくちびるが、自然に目に浮かんだ。不思議なことに、尖ったり、横に伸びたり、小刻みにひらいたり、とじたり、音にあわせて生きもののように動いてさえずりをおくりだしてくる。ただ、私とて似たようなものだった。バードコールでさえずっていると、自然にくちびるが動いて、声にならない声をバードコールに吹きかけるようになっていた。それは、まるで、自分自身のこころの底の、人の言葉にはならないさまざまな思いや衝動を息にして吹きかけ、バードコールで増幅して自分にも、彼女にもよく聞こえるようにしているようだった。
「キュルッキュルッ、チュッ、チュッチチチチチチチチチチチ、ヒューーイッヒューーィッ、ギッギッュギッュギッ、キィュゥーーィッキュイーーッ、キュルルルルッッッ」
「キューーィッキュウッッーーーイッ、チチチチチチ、チッチッチッュチュッチュッチュッ、チュウウウウッッキュゥゥッ、ギュルルルルッッッ」
めずらしいことに、買い物の帰りに郵便受けをみると、手紙がはいっていた。白いレースのような封筒。びんせんも白いレースみたいだった。
こんにちは。
はじめまして。
呼び名、ヒバリくんでいい? いつもヒバリみたいにさえずってるから。
わたしは、そうね、コルリってどうかしら?
突然お邪魔して、びっくりさせちゃった?
いちど、お話ししてみたいな、って。
メールくれるとうれしいな。
最後にメルアドがそえてあった。レースの手紙にはほんのり香水の匂いがした。
コルリ。彼女からの突然の手紙、なんて。いつもさえずりを交わして親しみを感じていた私は、こういう手があったのだ、なんで今まで気づかなかったのかと足元を掬われた気がした。その場ですぐにメールしようとしたけどもっと考えてからにしようと、いったん部屋に帰った。
考えれば考えるほどなにをどう書いたらいいか、言葉に困って、ひとりバードコールでさえずってばかりいた。人の言葉なんかで考えもせず、無心に、いつものようにさえずって、さえずりを交わしている方がよっぽど楽だと思った。もしかして、とテラス窓をあけて「揚げヒバリ」をさえずってみたけど、なにも、コルリからの応答はなかった。さえずりながら自分は一体なにを言いたいのだろうか、伝えたいのだろうかと、さえずりのなかに聴きとろうとしている自分に気づいた。このさえずりを人の言葉に変換すれば、埋もれている言いたいことが見つかるにちがいない。なんて、私のただの逃げにすぎなかったのだけど。
こんにちは。はじめまして。ヒバリです。
お手紙、ありがとう。
ただ、いきなりで、なに話したらいいのか。
コルリさんからこんな手紙来るなんて、思ってもみなかったから……
こんにちは、じゃなくて、こんばんは、かな、ヒバリくん。
コルリです。
わたしからこんな手紙がくるなんて思ってもみかったから……
そのつづきがききたいな?
メイワク?
メイワク、なんてそんなこと。
ちょっとびっくりしちゃったし、なんか、どうしたらいいのか困っちゃって。
おはよう、ヒバリくん。
コルリです。
困らせちゃったのね(笑
どうしたらいいのか……
ねえ、じゃ、もっと、リアルタイムでお話ししない?
リアルタイムで?
いいですよ。
こんにちは、ヒバリくん。
コルリです。
LINEとかはちょっとまずいんで、ここ、来て?
チャットなんだけど、ダメ?
うん、いいですよ。
じゃ、明日、お昼、1時に。
うん、了解。
うん、よかった。
待ってるね。
あ、そうそう、合い言葉。他の人が紛れ込んでこないように。
なにがいいかな…
「バード」「コール」でどう?
ヒバリくんが「バード」
コルリが「コール」ね。
行く五分前に「揚げヒバリ」でたしかめてみたけど、コルリからの応答はなかった。言われたサイトに行ってみるとたしかに、「コルリ」が「部屋」をとっていた。
「部屋」に入るとロックされて、コルリと二人きりになった。エレベーターで二人きりになったときのような、落ち着かない気はしなかった。それもそのはずで、私もコルリもパソコンなりスマホなりのデバイスに向かっているだけで、マンションのそれぞれの部屋にいて、ひとつの狭い空間を共有し、おなじ空気を吸っているわけではなかった。いろいろ細かいことは気にならないかわりに、とてもどきどきした。こんなにどきどきして緊張するのも、何時ぶりだろうというほど。いや、それまでの人生でこんなにどきどきして緊張したことなどなかったかも知れない。たぶん、それまでの人生で最大のイベントだった大学入試の時だって、こんなには緊張していなかっただろう。
こんにちは
こんにちは。
ほんとにヒバリくん?
あ、うん、ヒバリです。コルリさん?
コール
あ、え、そう、バード。
あ よかった ほんとにヒバリくんだ
あらためて はじめまして ヒバリくん コルリです よろしくね
ぼくのほうこそ……よろしくです、コルリさん。
今日はきてくれてありがとう
あ、え、うん、結構ヒマだから。オンライン授業ばっかりで。
あ そうなのね やっぱり ヒバリくんも だから いつも あんなふうにヒバリみたいにさえずってるのかな
そういうわけでもないですけど……。でも、やっぱりひまなのかな。ほんとは……今も授業中なんです。けど、結局、教科書読んどけば授業なんてどっちでもいいみたいな感じだし。
私はなんとなくさえずってみた。今度はすぐにコルリからの応答があった。私はちょっと不思議な気もした。会ったこともない、というか、エレベーターでたった一度乗りあわせただけの女の子と、今こうしてネットでつながり、リアルタイムで言葉を交わしている。さえずりは何度も交わしていたけど、まさかこんなふうにつながれるとは思ってもいなかったから。そして、うれしかった。
いまのヒバリくん?
うん。
今のはなんのさえずり?
今のは……不満のさえずりかな。
不満のさえずり?
そう、学校にも行けず、こんなオンライン授業なんて。あ、……けど、そのおかけで、こんなふうにコルリさんと話ができてるから……
と、また私はさえずった。さっきの不満のさえずりよりも、二倍か三倍も長く。おなじようにながいさえずりがコルリからかえってきた。
今度はなんのさえずり?
うん、わからない? あててみて?
私は照れくさかった。胸は高鳴り、ふいに、あのくちびるが思いうかんだ。コルリの桜色のくちびる。ぷるるんとした……コルリのさえずりは真っ白な空の彼方からふりそそいでくるきらきらとした虹の粒のようだった。
「そう ね 嬉しそうなさえずりね」
ふと、コルリがすぐ隣にいるような気がした。声まで聞こえた気がした。私はまたさえずった。でも、コルリのさえずりはやっぱり部屋の外から聞こえてくる。
マスク……
マスク? マスクがどうしたの ヒバリくん?
あ、いま、ふと、なんかコルリさんが隣にいるみたいな気がして。そしたら、マスクのことが気になっちゃって……
そうね もし いまヒバリくんとコルリがいっしょの部屋にいるなら マスク しないとね
ですね。
決まりだから仕方ないわよね ほんとはしたくなんかないけど
ですね。
コルリと私はリアルのおなじ部屋にいていっしょの空気を吸っているわけではなかった。でも、ネット上のひとつの「部屋」にいて、いっしょの時間を呼吸していた。時間のほかにも、おなじ言葉を消費し、もしかすると、おなじ想いを……。そして、リアルでもこうして、さえずりとさえずりでつながっている。私の応答に、窓の外から、また、コルリのさえずりが聞こえてくる。
「コルリさんはいつも、あんなマスクを?」
あんなマスク? どんなマスク?
私はまたさえずった。すぐ、コルリのさえずりがかえってきた。
あのマスク、いつもの……
いつもの マスク……
うん、いつもの……
くふっ ヒバリくん じ、つ、は、ね……
急にコルリの声の調子が変わったように感じた。
「じ、つ、は、ね、今つけてるの マスク」
「え、今も?」
「だって ヒバリくんとふたりきりになるんでしょ だ、か、ら、」
「でも、だって、これ、ただのチャットだし……」
「あれ ひばりくん マスク してないの?」
「ぅ、うん……」
「ダメ いますぐつけて ふたりきりでいっしょの部屋にいるんだから」
「ぁ、……うん。待って、今つけます……」
「うん」
私はあわててマスクをつけた。今までのやりとりが、なおさら、さっきまではただのコンソール上の文字にすぎなかったのに、実はコルリの肉声が私にしみこんできていたような気がした。聞いたこともないコルリの肉声が私の冥い体液にまで静かにしみこみ、木霊していた。とおい空のかなたから、私のさえずり以上にながいコルリのさえずりがかえってくるのがきこえてくる。
つけた?
「はぃ……」
「うふふ これで ヒバリくんとコルリ ひとつの部屋でふたりっきり ね」
ほんとに、コルリがすぐ目の前にいておなじ空気を吸っている……、目を閉じると、そんな感覚がいきいきとしていた。
「じゃ 見せてあげようか?」
「ぇ、なにを……」
「コルリの、とっておきの姿」
ぇ……
「今つけてるマスクね いつものとはちよっとちがうのよ」
いつものと、ちょっと、チガウ……
「そう、誰も見たことがない とっておきのマスク」
とっておきの……マスク……?
「ヒバリくんにだけ」
ぼくにだけ……
「そう ヒバリくんとコルリだけの ヒ ミ ツ 」
ぅ、うん……
「ダンナだって まだ 見たことがない……」
……え?
uffu ヒバリくんにだけ 見せてあげようか?
私はすぐにレスできなくて、不自然な間が空いたにちがいなかった。もし、これがリアルの部屋でコルリと二人きりだったら……そう思うとなおさら、キーボードにのせた指が震えた。相手の表情がみえるリアルの部屋でなら……それを想像するとなおさらどきどきして、……でも、チャットでレスのないのは反応してないように思われてしまうかも知れないから、なにかはやく返事をしないと……
「うふふ、かわいい、ヒバリくんって。ほんと、はずかしがりやさんなのね」
どうして、コルリはそんなことがわかったのか……。チャットなのに……。ただ、文字だけなのに……。私の心臓は爆発して、さもなければ今にも飛び出してしまいそうなほどはげしく鳴り響いていた。見ず知らずの、初めてあったばかりの……いや、会ってさえいない、ただ、チャットで言葉を交わしはじめたばかりの女の子からかわいいと言われて、その時はよくわからなかったけど、今にして思えば、私は不思議な性的な興奮を感じていた。どきどきと脈打っている心臓は魂の性器であり、私自身だった。それにしても、誰かから「かわいい」なんて言われたことは、思い出せるかぎり、これがはじめのような気がした。
画像 upするわね
「え、ぁ、う、……ん」
画像って何のことだったか、とっさに思い出せないまま、私はドギマギしながらやっとレスした。
その日の夜、思ってもみなかったことに、マンションのエレベーターホールでコルリとすれ違った。いや、雨でもないのに、夕食のコンビニ弁当を買いに行ったかえり、私は不用意にエレベーターを使ってしまっていた。あぁ、あのマスク。そう、いまつけているのは、いつものあわいピンク色のウレタンマスク。これからすれ違うだろう、出会うだろう誰もが知ることになる、そのマスク。ふたりだけの秘密のマスクを知っている私はうれしくて、一瞬、ちょっと得意な気分にさえなっていた。その一方、はげしく高鳴る心臓とともに固まってしまい、それでもやっと挨拶でちょっと手をあげかけたが、コルリは一瞬私に投げかけた視線を素早くひきとって通りすぎていった。私を無視するようなコルリの仕草にがっかりして、私はエレベーターに乗った。ドアが閉まる瞬間、さえずりが聞こえてきた。私が目をやると、締まっていくドアの隙間に、コルリの微笑みが滑り込んできた。
メガネの奥のコルリの瞳はたしかに親しみにあふれた微笑みをたたえていた。マスクがなければ、もっと、私はコルリの素敵な微笑みにのぼせあがって、テンパってしまっただろう。とっさに私もさえずりかえした。バードコールはいつもズボンのポケットにいれていた。さえずりは、隠そうとすればするほど、私にもわかるくらいこわばり、ふるえていた。
ぴったりと扉が閉じた箱のなかにひとりとりのこされた私は、しかし、突然ひどい衝撃に撃たれた。コルリについて知っているありとあらゆることの矛盾がふきだしてきて、渦巻いた。こんなふうにさえずりあっててれくさそうににっこり微笑みあう、そんな関係がしっくりくるようなコルリ。そのコルリに「ダンナ」なんて……。さっきのコルリの微笑みまでが私の身勝手な錯覚だったのではないかと思えてくる。ああ、でも、たしかに、そう、さえずってきたのはコルリの方からだった。それだけは間違いない、と私は何度も思いかえした。どうみてもコルリは、私とおなじくらいの歳にしか見えなかった。このマンションはすべてワンルームで、住んでいるのも独り暮らしの学生に限られていた。コルリの着ている服や仕草は、田舎から都会に出てきたばかりの、まだスレれていない女子学生という雰囲気がただよっていた。間違っても初対面の男子に「かわいい」なんて言いそうな感じはなかった。チャットでの言葉遣いだって。なんでこちらが「です・ます」になっているのか。それに、マスク。かわいい系の女子がつけたがるようなあわいピンク色のポリウレタンマスクがよく似合うこのコルリ……。
「ダンナだって、まだ、見たことがない……」
コルリがアップしたマスク姿の画像。それは、黒いレースのマスクをしたコルリだった。鼻からうえはうつっていない。エレベーターですれ違ったコルリからはまったく想像もつかない、ゆたかでつややかな黒髪がかるくカールしながらゆったりとながれおち、その黒髪のなかに顎から首、肩への白いボディラインがくっきりと浮かびあがっている。白い両肩には黒い細い紐がそれぞれ一筋ずつ、すこし肌にくい込むみたいに横切っている。
そして、くちびるどころか顔半分をすっぽり覆い隠している、この黒いレースのマスク。
マスクの右とひだりの上の端っこにはちいさなビジューが数個、きらきらとすました、大人びた輝きを放っている。レースは透けて見えそうで見えない。きっと、コルリのからだをつつんでいるのもこのマスクとおなじ編み模様の黒いレースのキャミソールに違いなかった。キャミソールのことは、もちろん、私の勝手な妄想にすぎないことはよくわかっていたけど、私にはもうどうしようもなく動かしがたい事実だった。
よくよく見ると、マスクの黒いレースはくちびるの裂け目にすこしくい込んでいて、うっすらとくちびるのかたちをうつしとっている。この黒いレースのしたに、あの、ぷるるんとした、ういういしい、あわいさくら色のくちびる……。そして、黒いレースのキャミソールの下には……。ぎこちない微笑みがよくにあう……。矛盾というよりも、それは、あまりにも強烈なギャップだった。誰も、そう、誰にも見せたことのない、おとなびた、妖艶なランジェリーと黒いレースのマスクをまとった、ぎこちない微笑みこそがよくにあうあの無垢なくちびる……
黒いレースのマスクのしたから、あのくちびるが、なにか呟いている……なにか、囁いてくる……かわいいね、ヒバリくんって……。レースの繊細な編み糸の一本一本をふるわせて漏れてくるコルリの生温かい吐息が、私の耳を濡らしている……。
つづく
