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64歳。推しができる。

64歳。人生の残り時間を意識し始める年齢。

そんな私が、こともあろうに十代や二十代の若者が熱狂する「推し活」の沼に、どっぷりと浸かってしまった。


これまでの私は”誰かの熱烈なファンになる”という感覚が正直よくわからなかった。当然、推しがいた経験もない。

アイドルの名前を叫ぶ人や、遠いコンサート会場まで遠征する人たちを見て、「そんなに夢中になれるものなんだなあ」と、どこか遠い国の出来事のように眺めていた。


もちろん、私にも大切な存在はいる。

5歳になる「糸」は、大きな体で甘えてくるし、17歳の大ベテラン「ロン」は、もはや私の人生の師匠のような顔をして隣にいる。

この子たちのことは、間違いなく「無条件に推している」と言える。けれどそれは「家族」という、地続きの愛情だ。


それがある日。
「しゃべくり007」という番組で初めてそのグループを見た。

XG


全員日本人の7人グループで、最初は「おもしろい子たちだな」くらいのごく普通の感想だった。

ところが、XGファンとしてゲストで登場したマツコ・デラックスさんがあまりにも熱く推すので、YouTubeで公開されていたXGのドキュメンタリーXTRA XTRAを見てみた。

これが“沼落ち”の始まりだった。


物語は8年前に遡る。2017年、当時まだ子供と言ってもいいような若者たちが、オーディションという過酷な篩(ふるい)にかけられていく。

昨日まで一緒に汗を流していた仲間が、今日は去っていく。そこにあるのは、単なる華やかなステージの裏側ではない。

血の滲むような努力と、人生をすべて賭けても足りないと言わんばかりの、凄まじい想いの強さ。

そしてなんと5年もの歳月をかけて、2022年、XGは7人でデビューする。


気づけば、私はパソコンの前で、画面が見えなくなるほど泣いていた。

7人のメンバーたちの、いや同じ目標に向かってひた走り、惜しくも今回はデビューできなかった他の練習生たちみんなの純粋な熱量に、64年という月日を重ねてきたはずの自分が完膚なきまでに打ちのめされていた。

「なんなんだ、この子たちは…」

そこからは、坂道を転がり落ちるようだった。


XGYouTubeで過去の映像をすべて遡り、音楽を聴き込み、気づけば私は「箱推し(グループ全員を応援すること)」という概念を理解していた。

そしてついに、人生で初めて「ファンクラブ(ALPHAZ)」というものに入会してしまった。

同い年の妻が、冬の朝の空気よりも冷ややかな目で見ている。

「いいんじゃない、ボケ防止には」

その一言が、私の高ぶった感情をスッと現実に着地させる。


糸を連れて夕方の散歩に出ると、冷たい風が耳をかすめる。

若者たちが血の滲む努力で手に入れた、見事にシンクロする激しいダンス。さらに踊りながらの超絶な歌唱力。その姿を思い出しながら、自然と私の歩調も軽やかになる。


64歳になって知ったのは、「推しがいる」というのは、単に誰かのファンになることではない、ということだ。

それは、他人の人生に自分を重ね、心からその幸せを願うことで自分の日常に新しい色が差すこと。

たとえ、その対象が自分の孫世代だっていい。

もし、今の日常が少しだけ退屈に感じたり、心が固まっているなと思ったりしたら、自分の価値観の外側にある「熱狂」に、あえて触れてみるのもいいかもしれません。よ。

「いい大人が……」というブレーキを少し緩めてみると、案外、新しい自分に出会えるかも。


今日もまた妻の冷たい視線を背中に浴びながら、私は彼女たちの新しい動画をチェックする。

糸とロン、そしてXG。私の推したちは、今日も私に「今をがんばろう」と思わせてくれる。

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