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【隠された台湾の主流民意:「大罷免」(リコール)。評論家たちが驚愕した、想定シナリオと異なる結末と、その背景】

台湾をリンゴに例えたら、日本人が知っているのは、表面の皮だけ。しかも、ほんの一部の皮だけ。
一方、「台湾有事は日本有事」に見るように、日本のメディアは毎度のように、台湾といえば中国。中国との対比以外の話はそれほど積極的に報道しない。
しかしながら、いまの台湾は、中国という対岸の敵よりも、国内のことで有事の状態に陥っている。

本稿では、7月と8月に行われた台湾のリコール投票と同時に行われた原子力再稼働の国民投票を主な題材として、日本語では報じられていない台湾の実際の姿と、その背景、について論じてみたい。

まず、私、玉山富士子について少し説明する。
2018年、私は熱狂的に民進党を支持していた。
統一地方選挙での民進党の大敗を受け、まるで失恋したかのように悲しかったことを今でも鮮明に覚えている。翌2019年、蔡英文氏・賴清德氏の民進党内総裁予備選の顛末を見て当時賴氏を応援していた自分は落胆。

一方、蔡英文氏が勝ってから、日本メディアの民進党賞賛や蔡英文の神格化のような動きが突然始まった様子を見て、日本語では伝えられておらず隠されている台湾の民意を日本の方々に伝えなければ、と考え、ペンネーム「玉山富士子」として台湾の現地事情を日本語で発信することを開始した。現在FB、X等のSNSやYouTubeでの発信をしている。本業は専業主婦である。

では、本論に入る。

Ⅰ.台湾と日本の対照的な反応

本年8月23日、2度目のリコール投票が行われた。私を含めた多くの人々が事前に予想していた通り、民進党は、7月26日に続いて再度完敗という結果を迎えてしまった。

日本のネット論壇はすぐ、
台湾は中国の認知戦に負けたのか、親中に傾いたのか、日本は危ない!
などと、昨今流行りの「ネガティブ妄想からの悲観論」に走った。

しかし、日本の多くの方々がネガティブスパイラルの妄想をしたり悲しんだりしていた時、台湾の多くの方々は真逆の反応であった。
ネットでは、安堵の声や、気持ちいい!(「爽!」)などと喜びの声が一斉に書き込まれていた。
ある小学校高学年と思しき子供は、街を走りながら「大罷免!大烙賽!(注;とんでもない大失敗を示す言葉。言葉のそのままの意味は文字ではちょっと書きにくい。意味を知りたい方はお近くの台湾人の方へ)」と叫んでいた。その様子は瞬く間にシェアされ、話題の映像となった。
https://youtu.be/P2CWojDBJlU?si=ARLOmLIz8Nc8ClNK

悲観論で悲鳴をあげる日本 VS 小学生から大人まで喜ぶ台湾

何故ここまで全く対照的な反応になってしまったのか?

Ⅱ. 日本の台湾専門家

この鍵は、日本語での報道やネット等での論評等の内容にあると私は見ている。

例として、何人かの有名な日本語で発信する台湾評論家のリコールに関する発言をご紹介しよう。

① O氏
8月6日、台湾在住の台湾専門家O氏は、ある日本メディアのインタビューの中で、今回のリコールは市民団体の行動だと説明。

→ O氏に限らず、日本のメディアは、同様に口を揃えて、今回のリコールは市民団体が起こしたものだ、と言うのだが、正しくない。

今回のリコール運動の発生についての事実は、民進党の議員団トップ 柯建銘氏が、今年の1月4日に、「立法院長を選び直し、国民党の41人の立法委員をリコールしよう」と言い出し、それを受けて賴総統が、全面応援せよ、との書面を出したこと。

https://share.google/VeFXXDxGuZg1Q0yeq」

民進党のスポークスマン 卓冠廷氏は、賴総統自ら、35エリアのリコールを全部通過させようとの命令を出していた、と明言している。
https://youtu.be/E5FMxd-wSbE?si=W1__icQSIxBLxazS

しかも、民進党による非公式なリコール署名の動きは、本年1月以降に正式に動き出すはるか以前の昨年7月頃からすでに始まっていたとの証言も複数ある。

すなわち、今回のリコールは、市民団体によるものではなく、民進党による計画的な行動だった。

② Y氏
今年の7月に、日本の某テレビ局のインタビューを受けた台湾在住の評論家のY氏。
「野党がバンバン予算を削っていく」「親中と親米の戦い」などと、与党を擁護し野党を猛批判。

→ 今年度の予算に関して、野党は確かに当初予算案から予算を削減した。しかしそれは基本的には政府側に無駄遣いをさせないための削減というのが狙いである。

例えば、デジタル発展部。
2022年の部創設以来、200億台湾元以上の年間予算を使ってきたが、目立った成果は「麺線のオンライン注文システム」だけで、市民が期待していた施策(例:詐欺の横行を減らす対策)はこれまで出来ておらず、目立った成果は一切ない。一方、「デジタル」発展部創設後初代部長となったオードリー・タン氏は頻繁に海外出張してせっせと予算を消費。
そして今年度予算では、結局、デジタル発展部の「業務費」という項目はたったの「1元」まで削減された。

予算の削減について、Y氏だけでなく、台湾で活躍される有名作家のS氏なども含めた大勢の日本語で発信される言論人は、国民党が野蛮で予算削減によって政府を機能不全に陥れた、と強調。

しかし、こうした言論人の方々は、誰も、台湾の今年の予算(削減後)は、実は対前年度+1368億元増の規模で史上最高額であること

や、その事実を各部門の大臣もそれを認めていること、には決して触れない。
まるで、与党の案に反対する野党のせいで予算が毎年削減されて無くなってしまう、のような印象を残すことのみに腐心しているかのようである。

そしてY氏が触れた「親中と親米の戦い」についてだが、これもかなり違和感を覚える。

Y氏ご自身は台湾在住であり、勿論ご存知のはずだと思うが、今回のリコール投票は、親中、親米の対立が背景にある、などと解説するような話ではない。一言で言うと、民進党政権に対する信任(不信任)投票である。

ところで、このテレビ局の司会者さんは、当該映像の冒頭でY氏のことを次のように紹介していた。

「台湾で活躍する日本人ジャーナリスト◯◯さんです」

日本人!?
ということは?
Y氏は、自分は台湾国籍を取得した、と動画等で盛んにPRされていたのだが? 

③ F氏

今度は、今年の7月26日の第1回目のリコール投票後の、評論家F氏の、YouTube番組でご発言から3点を紹介する。(発言は主旨を記載)

1 賴氏は独裁的なところがある。「ガミガミ親父」というか、昔の家長みたいな、厳しい姿勢というか、自分が苦労して、努力家だから、お前も苦労して当然だみたいな感じ。だから嫌われる。

→ 美麗島電子報が先月28日に公表した世論調査によると、賴氏の信頼度は36%まで爆落ち。民進党を長年にわたり熱狂的に支持してきた南部の地域でさえ、民進党に対する反感度がなんと57.8%。

ここまでの数値となると、「ガミガミ親父」のようだから、といった表面的な理由だけで嫌われているなどとは言えないのでは。

今回のリコール投票で国民党が大勝した背景の一つは、投票の終盤に近づいた際に公開された米アニメ「サウスパーク」風のアニメ風刺動画。
この動画は、顔も声も話し方も賴氏ご本人そっくりの「ライヤー(萊爾)校長」の独裁的で傲慢な言動や行動を面白おかしく描いたり、民進党員の親中行動や数々の荒唐無稽な行動を皮肉ったりするなど、コミカルな手法で国民の数々の不満を見事に表現した。この動画は瞬く間に有権者の心を掴み、特に若者を中心に、動画はいろんなバージョンにリメイクされ、続編も出され、広く拡散されていった。

https://youtu.be/Lrzcm-vJDEs?si=Dm_FASacwpo6jA8z

なお、F氏は、独裁的な手法という説明の中で賴氏を安倍元首相と比較して解説していた。
かつて金美齢氏も似たような比較をされていたが、お二人を注視してきた私の認識では、安倍さんと賴氏とは全く正反対の人物である。

2 賴氏は中国に抵抗して台湾を保護する。

→ 国民党は親中で民進党は抗中だ、との文脈で説明したいようだが、民進党の実態を見ると、蔡英文政権時代の立法院長と外交部長の側近2名を含め、民進党政権(蔡英文~賴清德)の関係者の中から何人もの中国スパイが捕まっている。
立法院長や外交部長が中国スパイと何年にも渡って上司部下の関係だったなんて・・・。
とはいえ、部下はスパイ容疑で捕まっているが、上司たちは特にお咎めなし。例えば、元外交部長の吳釗燮氏は、本件でどんなに国民の反発を受けても、現在も国安会(国家安全委員会)の秘書長の地位にある。2016年からの民進党政権では、不祥事があってもクビにならない。時には昇進までしてしまう。こうした事実の数々も国民の不満が募ってきた理由の一つである。

3 民進党は、実は今回のリコール運動に積極的に関与しなかった。

→ 今回日本の各メディアは口を揃えてこのように言うのだが、前述の通り、今回のリコール運動を言い出したのは民進党の柯建銘氏。そして民進党が総統以下積極的に同調した。

ちなみに、現在、民進党内では、リコールの言い出しっぺとなった柯建銘氏に責任を取ってもらおう、と、半数以上の立法委員が協力して署名を集めて柯氏を辞めさせようとしている。

しかし民進党の従来の手法でいくと、選挙に負けた時に辞めるのは、党の主席(=賴氏)なのだが。
例えば、2022年の統一地方選で民進党が大敗した際、当時の蔡英文は党主席を辞任。
(注:総統職は継続)

賴氏は、先輩の主席達と同様に、リコール投票敗戦の責任を取る気があるのか。
それともリコール投票の責任は、柯建銘氏と市民団体に押し付けるのか?

以上、リコールについての三人の専門家の言論について見てきた。

一人目のO氏は、一見すると中立的・網羅的な解説を展開しているようだが、核心的な部分は民進党の正式発表の内容に準じて発言しているようである。
二人目のY氏は、単に民進党の支持者のようで、基本的に民進党が説明していることをそのまま発言しているように見える。
三人目のF氏は民進党の行状をフォローして理屈をつけて正当化したり行間を過度に忖度して美化したりするような評論の仕方のように見える。

三人とも、そのままの台湾についての説明についてはされていない、というのが現状である。

一方、日本には、今述べた三人のような名の通った台湾の専門家の他に、次のような異色の方もいらっしゃる。

Ⅲ.深田萌絵氏

深田萌絵氏(画像:深田萌絵TV)は、前述の3名のような方々とは異なり、政権の意向等とは一線を画しながら、ご自分の言説の内容と合うような独自の台湾情報を発信してきた。
今回のリコールについては散発的なコメントのみで積極的な発信はあまりされていないようであるが、深田氏の発信で有名なのは、例えば、グリーンオイスターとTSMCの話。

今から約20年前に新竹で起きたグリーンオイスター事件(既に解決済み)を、あたかも現在の事象かのような言い方で拡散して熊本県民や日本国民の恐怖を煽り、また、TSMCは台湾トップの環境汚染企業だ、と、事実ではないテーマを掲げて、日本全国で講演会を開き、YouTube等で発信し、更にこの2つを含む台湾に関する誤情報が多く含まれ、著作権にも問題のある書籍を出版して拡販。

常識的に考えればあり得ないような話の数々だが、日本の現職国会議員を含む深田氏の支持者さん達の多くは、信じて疑わないようだ。

では何故、支持者さん達は、深田氏の話を信じ、それを拡散するのか。

大きく分けて原因は次の5点ではと考える。:

1 性善説と民族性 
日本人の長所でもあり欠点でもある性善説。つまり、人は本来善であるのだから、こんな大きい嘘を意図的につくはずがなく、この話は本当に違いない。
それと、他の多くのみんながそう言うから、自分も同調しよう、といった協調的な民族性。
まずこの2つが根底にあると私は考える。

2 有名人たちとのコラボが信憑性の裏付けだと考える
深田氏は、国会議員、その分野の専門家やインフルエンサーたちの方々とコラボするが、有名人たちのこうした動きは深田氏の話の信憑性を裏付けている、とポジティブに考える。

3 深田氏の支持者さんの多くは愛国者である。
日本には、こんな深田氏しか知らない危機や闇があったなんて、大変だ、とまず思う。更に深田氏の説明が足りない部分は、勝手に行間を忖度して自分を納得させてしまう。そして、他の方々にも知らせねば!と、おそらく善意でその情報を拡散。

4 中途半端な語学力
今、多くの日本人は日本語しか話せない。英語は学生の時から勉強してきたはずだが、普段使わないから咄嗟には使えない。尚更、中国語の情報だ、と言われたら、原語を見てもどうせわからないからそのまま信用しようか、と思ってしまう。

5 インスタント情報優先、検証は未実施
他にやること沢山あって忙しいし、いちいち検証なんて面倒くさい。原典の言葉も違うし。目の前にとんでもないおもしろい情報があるし、注目されるからな、と深田氏独自の情報をシェア。

以上5点の要因を背景に、日本人の、性善説や特有の民族性や愛国心や中途半端な語学力や忙しさにかまけた未検証情報の拡散行動によって、深田氏発の事実と異なる台湾情報の数々が日本で拡散されてきたのでは、と考える。

先に述べた3人の専門家も深田氏も、台湾の実情を正確に伝えていない、ということでは同様である。

時の政権の意向に配慮した発言や、自分の言いたいことに合わせた発言といった情報ばかりでは、主に日本語情報を頼りにされる日本人の方々に台湾の実態が伝わるわけがない。

しかし、政権の意向だけでなく対立する意見も公平に報道しようとした英国人ジャーナリストが居た。
この件については後述する。

台湾の専門家の話は一旦ここまで。
次章では、台湾の原発について話したい。

Ⅳ.台湾のエネルギー危機

8月のリコール投票と同日に、原子力発電の再稼働の是非を問う国民投票が行われた。

他方、トランプ大統領は先日、グリーンエネルギー政策について、「THE SCAM OF THE CENTURY(世紀の詐欺)」だと発言していた。

本章では、台湾の電子力発電はどうなるのかを述べていく。

台湾は、2016年より「2025年非核家園」という原子力発電ゼロ政策を開始し、代替エネルギー源としてグリーンエネルギーを振興・推進してきた。
しかしながら、グリーンエネルギー政策がもたらす環境破壊、例えば、農地の減少、山崩れ、火力発電の増加による大気の悪化などに加え、台湾電力の巨額赤字、電気代の上昇などの問題が起きている。近年の気温の異常な上昇も太陽光パネルが一因ではとも言われ始めており、台湾では、グリーンエネルギー排除の動きが出始めている。

また、本年7月の台風では、台湾政府が多額な税金を費やして地上のみならず池の上や海上とあちらこちらに作ってきた太陽光発電のパネルが多数破壊され、無残な姿と化した。
https://share.google/Wt8lnk0TtCOYYdCOA


一方で、グリーンエネルギー政策は、環境問題を引き起こしてきただけでなく、不正の温床にもなっている。
数年前に起きた太陽光発電に関する利権の争いによる台南での88発の銃撃事件、本年8月末に収賄で拘束された経済部綠推中心前副執行長の鄭亦麟氏、2016年に創立された後、今や大きな会社に成長したJ&Vエナジーテクノロジー社は実は民進党員の家族が経営しているなどの実例で明らかなように、グリーンエネルギーは一部の人たちを潤したことは事実。

他方、グリーンエネルギー政策は更にある深刻な問題をもたらしている。
エネルギー不足による企業の台湾離れ、である。

8月のリコール投票と同日に、原子力発電の再稼働の是非を問う国民投票が行われた。
結果は総票数の不足で不成立となったが、投票された中で、同意は不同意よりも3倍超の票数となった。
不成立にはなったものの賴政権の負けという結果だが、一方で、この結果を使えば、賴氏は「民意」を理由に、原発再稼働に政策を切り替えることができる。賴氏と民進党政権はどうするのか。

私の予測は、台湾は近い将来にいまの「非核家園政策」を撤廃する、である。

Ⅴ.2つのピラミッドと今回リコールの結果

冒頭に、リンゴの例を出したように、台湾は日本人にとって、最も近いのに、最も分かりにくい国となっている。

何故そうなっているのか。

台湾に関する日台それぞれの国民の認識形成の構造について、2つのピラミッドに例えて比べてみよう。

まず日本におけるピラミッド。

ピラミッドの下層部は、民進党側の発言や民進党支持のコメントしか言わないほとんどのメディアと評論家。 
中層部は、そうしたメディアや評論家に影響された一般市民やネット民。
上層部は、下層部・中層部により形成された、民進党は正義、国民党は悪、という、民進党支持の国民。  

一方、台湾におけるピラミッド。

ピラミッドの下層部は、親民進党と反民進党のメディアと評論家。
中層部は、両側の考えのメディアや評論家に影響された一般市民やネット民。
上層部は、民進党を支持する3割(少し前は4割)の市民と、国民党や民衆党を支持する7割(少し前は6割)の市民。

このように、台湾と日本では、市民が普通に知ることができ認識ができる台湾情報の内容やバリエーションに、そもそも大きく違いがある。

日本で知る・認識することのできる台湾情報というのは、日本メディアや専門家が発信した日本語情報が基本であるが、そうした情報というのは、現状は、民進党側に立った情報であり、ある意味、まるで民進党政権側に都合良く美化されたシナリオありきのような台湾情報のみである。
現地台湾で知る・認識することのできる台湾情報とは、量も質も種類も全く異なる。

今回のリコール投票では、台湾市民のそのままの民意が隠すところなく表れた。
その結果、これまで日本で流布されていた、民進党は正義で民進党は心ある台湾人から支持されている、という民進党側に都合の良い基本シナリオから大きくかけ離れたため、このシナリオしか知らない日本人にはにわかに理解することが難しい展開となってしまった。
そして、これまではこうした基本シナリオを尊重してやっていればある程度うまくこなすことが出来ていた日本のメディアと評論家たちも、基本シナリオから外れた民進党全敗の結果に驚愕。

今回の結果は、台湾をずっと見て、台湾人の生の声をずっと聞いていれば、驚くような結果では全くないのだが、そうではなかったということかもしれない。

では、なぜ民進党側のシナリオとは異なるこのような結果となってしまったのか。

Ⅵ.今回リコールの真相

あらためて、今回のリコール騒ぎの真相を整理して説明すると、  
民進党の議員団トップ 柯建銘氏は、栄えある立法院長の座に自分が就くことを狙って、少数派の状況を逆転させようと考え、前代未聞のリコールを提起。
賴主席を含めた民進党が同調。
そして、民進党寄りのインフルエンサーたちや市民団体が全力応援。
民進党寄りの市民団体が、反対意見の人たちに同調を強いたり、学校で署名を集めたり、時には暴力行為も行い、支持の拡大を図った。
他方民進党側は、司法権力を自党に有利に使い、署名方法の違反の指摘があった際に国民党側の運動員のみを拘束したりして国民党側の署名活動を妨害した。
こうした民進党側の活動方法への不満や批判に加え、そもそも論として大量リコールすることの大義への疑念が根強くあり、更に、米国との関税交渉での不始末や、多額な税金をかけたはずの防災対策が効果が全く見えないことが今夏の台風で露呈したこと、その台風の被災者を助けるよりリコール活動を優先したこと、などと、市民の反感を買う出来事が数々重なり、今回の大失敗を招いてしまった。 
前述した国民党側による大人気となったアニメ動画も市民感情を後押ししたとみられる。

今回の投票結果を一言で評すると、台湾国民は、民進党にNOという厳しい不信任票を投じたということである。

では、今回のリコールについて、日本のメディアや専門家各位の発信や行動はどうであったのか。

まず今回の一部始終を見て、日本の専門家の皆さんに対して、私が残念に思ったことが一つある。
誰も、そもそも、制度上リコール可能な野党議員全員を政権党側の政治的意図からリコールするという行為は反民主主義的な暴挙であることに触れていなかったことである。
民主的な選挙で選ばれた議員数十名を、自党の勢力拡大の目的で、何の瑕疵もないのに当選後約1年にリコールしようとする行為。仮に日本で同様の制度があったとして、実際にこのようなことが起きたら、政権党はどれだけの批判を受けることになるのだろうか。

そして、リコールの動きの発生理由は、予算削減などの動きを危惧した市民運動だと説明し、予算削減が如何に暴挙だったか、を解説し、他方、親中派の国民党、という従来よりのイメージ文言に加え、国会のねじれ解消、とか、政権運営正常化と言った言い回しを再三用いてきた。こうした言い回しは、民進党が全ての権力を再度握ることが、対中関係でも正しく日本にとっても重要だ、という考え方を大前提とした思想に基づくように感じるのは私だけではあるまい。

では、何故、日本のメディアや台湾専門家は、リコールについてこのような報道・発信姿勢を貫いてきたのか。

この答えは、次章で述べる台湾在住10年の英国人ジャーナリストのメッセージにヒントがある。

Ⅶ.台湾駐在英国人ジャーナリストの矜持

台湾の国営テレビ「公視」傘下の英語メディアである「Taiwan Plus」の編集主管であった Ed Moon氏

は、本年9月1日に、投稿「My Great Taiwan Recall」を発信。

この中で、リコールの舞台裏と、自身が10年暮らした台湾を家族とともに離れることを決断した理由を明かした。

民進党は、2024年の選挙の後、連立の動きをすることなしに最初から大規模リコールを考え、市民団体と結び付けることを考えたこと、中国大陸出身の配偶者を標的にした攻撃は一部過激派がナチズムと結び付ける動きもあったが、政府は警告すらしなかったこと、賴政権と蔡政権、政府の政策や優先事項に偏りがちな報道内容をバランス良くするように努めていたが、政府の主張に100%合致しない報道をしていたことを理由に自分と家族が一部の過激派の標的になったこと、等々の貴重な事実が赤裸々に書かれている。

この中から、台湾報道に関しての日本のメディアや専門家の行動理由の謎を解く鍵として、次の文章を引用する。

Although I only rarely reported myself, I did have a senior editorial position, one that I always used to try and balance our output, which naturally focused on government policies and priorities (This is the same for countries around the world; the government sets the news agenda. To what extent the media is able to provide opposite viewpoints is very much a measure of media freedom). Certainly, I and others tried to get a balance of perspectives—even Chinese voices when we could—but working for public media in Taiwan, that was no simple task. So, I absolutely pushed for the few stories we could do to show other sides and lesser-told narratives throughout my time at TaiwanPlus (I’ll let others be the judge of whether or not I was successful). But these few stories caused an unending amount of grief for myself and my colleagues.

<抄訳>
私は自らレポートすることは稀だったが、編集部の幹部として、政府の政策や優先事項に自然に集中しがちな報道内容をバランス良くするよう常に努めていた。(その国の政府がニュースの議題を設定するのは世界各国共通。その中で、メディアが対立する意見をどれだけ公平に報道できるかが、メディアの自由度を測る重要な指標である)。確かに、私と他のスタッフは、様々な視点を取り入れバランスを得ようとし、可能な場合は中国側の声すらも入れようとした。
しかし、台湾の公共放送局で働くのは、そう簡単なことではない。なので、台湾プラスに在籍していた間、自分はできる限りの機会を捉えて、他の視点やこれまであまり語られてこなかった話を示す少数派の話を出すように強く働きかけてきた。(その結果が成功だったかどうかは、他の方々に判断していただきたいと思う。)しかし、こうした数少ない話は、私や同僚たちに計り知れない苦難をもたらした。

Moon氏は、公共放送という難しい立場にありながら、様々な意見をできるだけ報道できるように強い気持ちで対応してきたようである。

あらためて、メディアや専門家の役割とは、そして矜持とは何だろうか?
そして、日本のメディアやジャーナリストは、まだ現在のやりかたを続けるおつもりなのだろうか?

台湾も世界も激動している。
台湾の姿を正しく伝え、日本国民が正しく理解して、よりよい未来を得ること。
そのための重要な役割が、日本のメディアやジャーナリストや専門家の方々にあるのではないだろうか。

(了)
※本稿は2025年9月10日に書き上げたオリジナル稿です。





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