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生産性向上を考える

4月10日の日経新聞で、「〈人財立国への道 国富を考える 特別編〉「ラグジュアリー」に解? 低生産性解消の処方箋」というタイトルの記事が掲載されました。日本の時間あたり生産性を各国と比較し、課題を考察している内容です。

同記事の抜粋です。

「日本の労働生産性は低い」と言われて久しい。働き手の減少が見込まれるなかで一人ひとりの生産性の向上は欠かせないが、他の先進国と比べて時間あたりの生産性は低迷する。真面目で丁寧な仕事ぶりで知られる日本人の生産性はなぜ低いのか。その謎を解くカギの一つが高級ブランドなど「ラグジュアリー産業」にあるかもしれない。

日本生産性本部によると、2023年の日本の時間あたり生産性は56.8ドル。主要7カ国(G7)では最下位で、ラトビアやポーランドよりも低い。労働生産性の分子は名目の国内総生産(GDP)なので、売り上げや付加価値の増加を伴わない生産性向上には限界がある。効率化だけには頼れない。

細やかな接客や高い品質、顧客やものづくりへの忠誠心――。実は日本の「おもてなし」や「高品質・低価格」が生産性向上の足かせとなっている可能性がある。

「店員さんのお辞儀って必要ですか?」。こう指摘するのは世界の市場動向を分析しているブーケ・ド・フルーレットの馬渕治好代表だ。「お辞儀をしたからといって売り上げは増えない。その時間を在庫管理や事務に充てたほうが生産的だ」と話す。

学習院大学の滝沢美帆教授の研究によると、20年の日本のサービス産業の生産性を100とした場合、米国(201.7)やドイツ(151.7)など欧米諸国と大差がついた。

例えば日本の宅配サービスでは時間を指定しても追加料金はかからず、正確な時間に荷物が届く。だがその分、人員や労働時間は増える。素晴らしいサービスでも、それに見合った対価を求めなければ生産性にはマイナスに寄与する。

製造業の生産性にも課題はある。「品質のよいものを安く提供するのがメーカーの使命、とした松下幸之助氏(パナソニックホールディングス創業者)の哲学が世の中に根付いてしまったからではないか」。こう話すのはラグジュアリーブランドに詳しい早稲田大学ビジネススクールの長沢伸也教授だ。

「日本に高品質・低価格がはびこるのは性能や価格を競ってしまうせいだ。ブランド戦略の基本は『これじゃなきゃダメ』だ」と説明する。

セイコーウオッチやシチズン時計のソーラー電波腕時計は10万年に1秒しか狂わないが、安いものなら数万円台で手に入る。一方、「ロレックス」や「オメガ」などスイスの高級腕時計は多くがぜんまい式で定期的に手動で巻く必要がある。だが「マニアは巻くことをいとわない。むしろ喜々として巻いている」(長沢氏)。

フランスのLVMHモエヘネシー・ルイヴィトンやロレアル、エルメス・インターナショナルといった高級ブランド企業は、いずれも欧州で時価総額の上位に入る。

日本には世界に誇る伝統工芸品や「おもてなし」の文化がある。ラグジュアリー産業に限らず、質の高い商品に適切な価格をつけ、コストに対する販売価格の比率である「マークアップ率」を高める努力はあらゆる企業で欠かせない。それが付加価値を生み、生産性向上の源泉になる。

物価上昇が続く足元の経済情勢はそのチャンスともいえる。

とても簡潔かつ限定された例示の範囲内ではありながらも、これからの事業活動や商品・サービスへの向き合い方に関して示唆深い記事だと感じました。

同記事から考えたことを4つ挙げてみます。ひとつは、生産量(付加価値)を高めることの大切さです。

労働生産性は、生産量(生み出した付加価値)÷ 労働量(労働者数×労働時間)で求めることができます。分母の生産量を上げるか、分子の労働量を下げるかすれば、生産性は高まります

これらの両方とも大切です。そのうえで、同記事は分母を大きくしていくことの大切さを強調しています。

先日お会いした経営者様が、経営幹部以下社員に対して、消費者向けビジネスを手がける自社で生産性向上と業務効率化の違いについて強調しながら、事業計画・各部署の計画を検討してもらっていると話していたのが印象的でした。

上記の労働生産性の算出式とは厳密には言葉の定義が異なるのですが、同経営者様は、生産性向上=生産量の拡大の追求、業務効率化=労働量の削減の追求、として、生産量の拡大を目指していくということを、社内で打ち出していたわけです。

背景には、同社様で業務効率化が一定の成果を上げたということがあります。

機械の投入や作業工程の見直しの取り組みなどによって、既存の業務に要していた作業時間も全社的に減りました。

一方で、効率化によってできた人手や時間の余裕で付加価値を高める活動ができているのかというと、そういうわけでもありません。効率化によって生み出した労働量の余裕で、生産量を高めるための別の活動に注力のテーマをシフトさせていくことを、今後の方針としたわけです。現状では、労働量の余裕を、これまでの仕事をゆったり進めることにしか使えていないと言います。(同じことを楽に行うこと自体は、悪いことではありませんが)

労働量の削減によって得た労働量のリソースを、何に振り向けて生産量=付加価値の増大につなげていけるかが大切になります。

2つ目は、上記とも関連しますが、自社の商品・サービスの付加価値にとって重要な構成要素が何かを定義することの意義です。

同記事でお辞儀が不要ではないかと問題提起している例があります。この問いに対する答えは、自社の商品・サービスの付加価値の構成要素としての重要性次第だと考えられます。

例えば、付加価値の構成要素として挙げられるものが、品質や機能性などその商品の中身に関することがほとんどだとします。販売担当の対応が多少ぎこちなくても、商品の売れ行きやお客さまの満足度にはほとんど影響がない。そうであれば、接客対応は社会人基礎として学ぶ最低限のことができていれば十分で、お辞儀の丁寧さを追求することに時間を使うより、別のことに使ったほうがよいかもしれません。

実際に、私が以前数回訪問したことのある企業様では、応対の丁寧さはあまりないながら、他社をもって代えがたい超一流の製品を作っていて高収益を実現させています。

電話をかけたときの応対も、言葉遣いや受け答え方がぶっきらぼうで、お世辞にも丁寧とは言えませんが、心証を悪くするほどでもありません。訪問時も「見えなくなるまで深くお辞儀して見送る」などはなく、退出の際私がお辞儀して玄関を背にして歩き出すと同時に、王応対された方もすぐさま室内に入っていきます。

同社様が法人向けビジネスというのもあります。おそらく、同社様が選ばれる理由=お客さまにとっての付加価値は、製品の中身がほぼすべてで、人の丁寧さやホスピタリティはほとんど理由にあがらないと思われます。そうであれば、従業員教育を含めた労働量のリソースの振り向け先を研究開発などに集中させるということは理に適っていると思います。

一方で、真逆の企業もあるはずです。お客さまへの丁寧なおもてなしが、自社の商品・サービスの構成要素として不可欠で、それも含めて自社のブランドイメージ、お客さまへの訴求力が成立すると考えるならば、そこへの教育や現場での取り組みに労働量のリソースを多く充てるのは、その企業にとっての正解になり得ます。

自社のどこに労働量のリソースを投入することが、自社事業の付加価値を高めることになるのかの見極め、その実行が、生産性を高めることにつながります。

なお、同記事中で紹介されている、「品質のよいものを安く提供する」という哲学が悪いわけではないと思います。自社の商品・サービスの特徴、それを供給する体制として同哲学が成り立っているかどうかにもよりますし、社会全体のニーズなど時代背景に合っているかどうかにもよると考えられるためです。

続きは、次回取り上げてみます。

<まとめ>
自社の商品・サービスの付加価値にとって重要な構成要素に労働量を投入し、生産性を高めていく。

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