【論点】開示義務とプライバシーをどう調整するのか
▶︎日本版FARA全体の論点は、以下で体系的に整理している。
→ 外国代理人登録法(論点整理・まとめ)
国家情報会議をめぐる国会審議では、外国からの影響活動に関する届出制度も検討課題として示されている。日本でも、誰を登録対象とするかだけでなく、登録された情報をどこまで公開するのかが、現実の制度設計上の問題となりつつある。
外国から資金や指示を受け、日本の政治や政策形成に働きかけているのであれば、その関係を公開すべきである。
これは、一見すると当然のように思える。
しかし、透明性を高めるための情報公開が、個人の活動を必要以上に可視化する場合もある。
氏名や勤務先だけでなく、住所、活動履歴、関係者まで公開し、誰でも横断検索できるようにするのか。透明化制度では、「公開すること」そのものだけでなく、公開の範囲と方法が問題となる。
登録簿の公開は、どこまで必要か
たとえば、外国政府から資金提供を受ける海外シンクタンクの日本人研究員が、日本の省庁からヒアリングに招かれ、その国の安全保障政策について説明したとする。
資金提供元や説明の対象となった政策課題を公開することには、政策形成過程の透明性を確保するという意味がある。
しかし、その研究員の自宅住所、個人的な連絡先、同席した研究者、非公開で意見を提供した専門家の氏名まで公開する必要があるかは、別に検討しなければならない。
また、登録簿に氏名が掲載されたという事実だけが取り上げられ、「外国政府の代弁者」と評価される可能性もある。
登録は、違法性や不適切な活動を直ちに意味するものではない。それでも制度設計によっては、登録簿が「外国と関係する人物の名簿」として受け取られるおそれがある。
透明化制度の目的は、外国との関係を持つ人物を特定することではなく、国内の政策形成に至る資金や指示の経路を検証可能にすることにある。
FARA・LDA・EUに見る公開制度の違い
外国影響力やロビイングをめぐる制度は、同じ公開方法を採用しているわけではない。
米国の外国代理人登録法(FARA)では、登録書、補充報告書、個人が提出するShort Formなど、多くの提出書類が公開される。個人単位の関与まで確認しやすい、公開範囲の広い制度である。
もっとも、公開範囲が広いことと、制度全体が十分に機能することは同じではない。適用範囲が明確でなかったり、登録義務の履行が確保されなかったりすれば、必要な情報は登録簿に現れない。公開データベースが詳細であっても、それだけで外国影響活動の全体像を把握できるわけではない。この点は、別稿で論じたFARAの周縁化の問題とも関係する。
米国のロビイング開示法(LDA)では、依頼者、ロビイングの争点、関係した政府機関、ロビイストなどが公開される。収入・支出については、現行実務上、原則として一万ドル単位に丸めた誠実な見積額が報告される。
EUの透明性登録簿は、EUの政策や意思決定に影響を与えようとする利益代表者と、その活動を可視化する仕組みである。個人の私的な関心一般ではなく、誰がどのような利益を代表し、どの政策過程に働きかけているのかに重点が置かれている。
重要なのは、公開される情報量だけではない。
人物を中心に公開するのか、活動と利益の関係を中心に公開するのか。
そこに制度設計の思想が表れる。
「提出」「公開」「検索・再利用」を分けて考える
外国影響力透明化制度では、まず誰を登録対象とするのかを決める必要がある。本稿では、この問題を主体・行為・手段の三軸から分析してきた。
しかし、登録対象を決めれば制度設計が完了するわけではない。登録後の情報をどのように取り扱うのかは、別の問題である。
登録情報は、誰が、どのような目的で利用するのかに応じて区別する必要がある。本稿では、情報の取扱いを次の三段階に分けて考える。これを**「三段階開示論」**と呼ぶ。
第1段階――提出
行政が審査や本人確認のために保有する情報である。住所、生年月日、契約書、送金資料などが含まれる。第2段階――公開
市民が政策形成過程を確認するために公開される情報である。外国主体の名称、指示・委託関係、対象となる政策、活動内容、資金の規模などが中心となる。第3段階――検索・再利用
氏名による横断検索、一括取得、データの機械的収集などを、どこまで認めるかという問題である。
一件ずつ閲覧できることと、氏名を起点に横断検索できることは同じではない。ウェブ上で閲覧できることと、全件を一括取得し、他の公開情報と組み合わせて人物データベースを作成できることも異なる。
とりわけ、データの機械的収集やAIによる分析が容易になれば、制度の目的である影響経路の検証を超えて、個人の所属、交友関係、政治的傾向などを推測する人物分析に利用される可能性がある。
提出の必要性は、公開の必要性を意味しない。公開の必要性も、無制限な検索や再利用を認める理由にはならない。
第三者への影響をどう考えるか
情報の利用主体と利用目的を段階ごとに区別する必要性が、とりわけ明確に現れるのが、研究者、記者、NGO、亡命者支援団体などの活動である。
登録情報から、共同研究者、取材源、現地協力者、国外に居住する家族などが推測される場合がある。権威主義国家を対象とする調査や支援活動では、公開によって、登録者本人以外の第三者に影響が及ぶ可能性もある。
もちろん、報道、研究、市民活動という肩書だけを理由に、一律に登録を免除すれば、制度の適用を免れる余地が生じる。
したがって、肩書ではなく、外国主体による指示や統制の程度、資金提供の性質、具体的な活動内容を基準として判断する必要がある。
その上で、第三者情報のマスキング、公開前の確認、訂正・非公開の申立て、安全上の危険を審査する独立した仕組みを設けることが考えられる。
人ではなく、影響の経路を可視化する
外国影響力透明化制度は、誰を登録対象とするかを決めるだけでは完成しない。登録された情報を、誰が、どの目的で、どこまで利用できるのかについても、併せて設計する必要がある。
そして、公開の中心となるべきなのは、外国との関係それ自体ではない。
外国主体から国内の政策形成へと至る、資金、指示、契約、活動の経路である。
「人の透明化」ではなく、「影響経路の透明化」。
この考え方を実現するためには、どの情報を公開し、どの情報をマスキングするのかについて法律上の基準を設ける必要がある。また、登録者による訂正・非公開の申立てや、独立した審査の仕組みも必要となる。
透明化制度が目指すべきなのは、個人情報を可能な限り広く公開することではない。政策形成に作用する影響の出所と経路について、社会的な説明可能性を確保することである。
外国との関係を持つ人物を可視化する制度とするのか。それとも、政策形成に至る影響の経路を可視化する制度とするのか。
開示義務とプライバシーを調整する上で、中心となる論点はここにある。
