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【論点】日本版FARAの対象は誰か?――外国代理人登録法における「公職者」の範囲を考える

▶︎日本版FARA全体の論点は、以下で体系的に整理している。
 → 外国代理人登録法(論点整理・まとめ)

1. 問題の所在

日本版FARA(外国代理人登録制度)を設計する際には、「誰が登録するのか」だけでなく、「誰への働きかけを対象とするのか」という問題も避けて通れない。

国会議員へのロビイングが対象になることは比較的わかりやすい。しかし、実際の政策形成は国会議員だけで行われているわけではない。中央省庁の官僚、地方自治体の職員、議員秘書、政党職員、審議会関係者など、多くの主体が政策形成過程に関与している。

そのため、公職者の範囲を狭く設定すれば制度は明確になるが、実際の影響活動を把握できなくなる。他方で、広く設定すれば透明性は高まるが、通常の行政相談や政策提言まで萎縮させるおそれがある。

さらに、この論点は回転ドア規制とも密接に関係している。公職者の範囲をどのように定義するかは、将来、退職後の活動をどのように規律するかという問題とも結び付くからである。

実際、アメリカでは、外国影響力規制であるFARAと、ロビイング規制であるLDA(Lobbying Disclosure Act)が、それぞれ異なる発想で「公職者」を捉えている。日本版FARAを考える上でも、この違いを理解することは重要である。

2. 論点の分解

(1)選択肢

A案 政治的意思決定者中心型

この案は、国会議員、大臣、政党、選挙候補者など、民主的正統性を有する政治的意思決定者への働きかけを中心に登録・開示対象とする考え方である。

英国のForeign Influence Registration Scheme(FIRS)は、この考え方に比較的近い。

制度目的が明確であり、「外国勢力による政治への影響」を重点的に把握しやすいという利点がある。

もっとも、実際の政策形成は政治家だけで行われるわけではないため、行政内部や政党内部で行われる影響活動を十分に捕捉できない可能性がある。

B案 政府・行政機関を含む包括型

この案は、政治家だけでなく、政府機関や行政官も広く対象に含める考え方である。

米国FARAやオーストラリアのForeign Influence Transparency Schemeは、この方向に近い制度である。

政策形成の実態を捉えやすい反面、制度の対象範囲が広くなりすぎるおそれがある。

C案 階層化・重点開示型

この案は、公職者を一律に扱うのではなく、重要度に応じて複数の階層に分ける考え方である。

カナダのLobbying Actは、一般のpublic office holderとdesignated public office holderを区別している。

また、米国LDAも、対象公職者を広く列挙しつつ包括的には定義しないという意味で、この類型に近い制度と評価できる。

透明性と実務負担のバランスを取りやすいが、制度設計は複雑になる。

(2)考慮要素

政策形成の実態をどこまで捉えるか

日本では、法案の立案、政省令の策定、審議会運営など、多くの政策形成が行政機関内部で行われている。

政治家だけを対象にすると制度はわかりやすいが、実際の影響活動を十分に捉えられない可能性がある。

制度の明確性を確保できるか

対象者が広すぎると、誰への接触が登録対象になるのか分かりにくくなる。

一方で、対象者を限定列挙すると明確性は高まるが、制度の抜け穴も生じやすい。

通常の政策対話を萎縮させないか

企業、大学、研究機関、NGOなどによる情報提供や政策提言は、民主社会において重要な役割を果たしている。

制度が広すぎると、こうした活動まで萎縮する可能性がある。

回転ドア規制との関係

公職者の範囲は、外国影響力規制だけでなく、回転ドア規制にも影響する。

アメリカでは、LDAの対象となる公職者概念が、その後の回転ドア規制とも密接に結び付いている。

したがって、「誰を公職者として捉えるか」という問題は、透明化の問題であると同時に、退職後規制の問題でもある。

3. アメリカでどう扱われているか

FARAにおける公職者

米国FARAは、公職者を限定列挙する制度ではない。

22 U.S.C. §611(o)は、「political activities」を定義し、米国政府の機関または職員、あるいは米国内の公衆に影響を与えることを目的とする活動を対象としている。

対象は、米国の国内政策または外交政策の形成、採用、変更に関する影響活動だけではない。外国政府または外国政党の政治的・公的利益、政策、関係に関する影響活動も含まれる。

そのため、FARAは特定の公職者を定義するというより、「政府機関や職員一般」を包括的に捉える制度である。

したがって、FARAはB案(政府・行政機関を含む包括型)に近い制度といえる。

LDAにおける公職者

これに対し、LDAは公職者の範囲を明示的に定義している。

2 U.S.C. §1602における「covered executive branch official」および「covered legislative branch official」は、国会議員、議会スタッフ、委員会スタッフ、院内幹部スタッフのほか、大統領、副大統領、大統領府職員、Executive Schedule Level IからLevel Vまでの職員、一定の政策決定・政策立案職員などを対象としている。

つまり、LDAは「誰に働きかけたか」を中心に制度を構築している。

対象者を限定列挙することで制度の明確性を確保しているが、その一方で、対象外の職員への働きかけは制度の外側に残る。

LDAは、対象公職者を広く列挙しつつも包括的には定義しない制度であり、三分類ではC案(階層化・重点開示型)に最も近い制度と評価できる。

FARAとLDAの違い

FARAとLDAは、同じアメリカ法でありながら、公職者の捉え方が大きく異なる。

FARAは、外国本人との関係に着目し、政府機関や職員を包括的に捉える。

これに対し、LDAは、誰へのロビイングかという点に着目し、公職者を限定列挙する。

そのため、同じ「公職者の範囲」という論点でも、両制度は異なる制度思想に立脚している。

また、LDA上の公職者概念は、その後の回転ドア規制とも密接に結び付いている。この点は、外国影響力規制とは別個の論点として検討する必要がある。

4. 諸外国ではどうなっているか

英国

英国のForeign Influence Registration Scheme(National Security Act 2023 Part 4)は、外国勢力による政治的影響活動の透明化を目的としている。

制度の重点は政治的意思決定者への影響活動に置かれており、A案(政治的意思決定者中心型)に近い。

カナダ

カナダのLobbying Actは、public office holderとdesignated public office holderを区別している。

広く公職者を対象にしながら、重要な公職者との接触については詳細な開示を求める仕組みであり、C案(階層化・重点開示型)に近い。

オーストラリア

Foreign Influence Transparency Scheme Act 2018は、政治的または政府的影響活動を対象としている。

政府機関や行政機関への影響活動も対象となるため、B案(政府・行政機関を含む包括型)に近い。

フランス

フランスの利益代表制度は、公的意思決定に影響を与える活動を広く対象としている。

中央政府だけでなく一定の地方レベルも対象となっており、B案(政府・行政機関を含む包括型)に近い制度である。

5. 日本にあてはめると

日本版FARAを考える際、日本が参考にできるアメリカモデルは一つではない。

FARA型の制度を採用すれば、政府機関や行政官を広く対象とする包括的な制度となる。

他方、LDA型の制度を参考にすれば、対象公職者を限定列挙することによって制度の明確性を高めることができる。

日本では、官僚組織や議員秘書、政党部会などが政策形成に大きな役割を果たしている。

そのため、A案を採用すると実際の政策形成過程の一部しか把握できない可能性がある。

B案は実態に近いが、制度の対象が広くなりすぎるおそれがある。

C案は両者の中間的な選択肢となり得る。

また、公職者の範囲は、将来的な回転ドア規制の対象範囲とも関係してくる。

その意味で、この論点は単なる登録制度の技術論ではなく、日本の公的意思決定過程をどのように捉えるかという制度思想の問題でもある。

6. 考え方の整理

この論点は、単に政治家を対象にするか、官僚も対象にするかという問題ではない。

透明性の確保、制度の明確性、政策形成の自由な情報流通、実効性の確保という複数の価値が対立している。

また、アメリカの制度を見ても、FARAとLDAは異なる解決策を採用している。

FARAは包括的な公職者概念を前提とする。

LDAは限定列挙による明確性を重視する。

さらに、そのLDA上の公職者概念は、後の回転ドア規制とも結び付いている。

では、日本版FARAは、政府機関全体を対象とする包括型を採るべきなのであろうか。それとも、対象公職者を限定列挙する明確性重視の制度とすべきなのであろうか。

そして、その選択は、将来のロビイング規制や回転ドア規制とどのような関係を持つことになるのであろうか。

公職者の範囲という一見技術的な論点の背後には、日本の政策形成過程をどのように理解するのかという、より根本的な問いが隠れているのである。

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