【論点】外国影響力規制は国外で行われた行為も対象にするべきか?|域外適用と外国代理人登録法(FARA)の比較
▶︎日本版FARA全体の論点は、以下で体系的に整理している。
→ 外国代理人登録法(論点整理・まとめ)
1. 問題の所在
外国影響力規制を導入する場合、規制対象となる行為を日本国内で行われたものに限定するのか、それとも国外で行われた行為まで含めるのかは重要な論点である。
現代の情報発信やロビイング活動は、国境を越えて行われることが珍しくない。海外本社が日本向けの広報戦略を立案し、海外のコンサルタントがSNSを運用し、国外で作成されたコンテンツが日本国内で拡散されることもある。仮に国内行為だけを対象とすれば、活動拠点を海外に移すことで規制を回避できる可能性がある。
一方で、国外で行われた行為まで規制対象とする場合には、国家の管轄権をどこまで及ぼせるのかという問題が生じる。他国の主権との関係や、外国人・外国法人に対する法適用の限界も無視できない。
規制の実効性を重視するのか、それとも国家管轄権の限界や国際法上の配慮を重視するのか。この論点は外国影響力規制の射程を決定する根本問題の一つである。
2. 論点の分解
(1) 選択肢
A案 国内行為のみを対象とする
規制対象を日本国内で行われた行為に限定する考え方である。
行為地が明確であり、法適用範囲も限定されるため、予測可能性や法的安定性に優れる。他方で、国外から日本社会へ影響を与える活動への対応が難しくなる可能性がある。
この考え方は、伝統的な属地主義に近い。
B案 国内への影響や効果があれば国外行為も対象とする
行為自体は国外で行われていても、その目的や効果が日本国内に向けられている場合には規制対象とする考え方である。
近年のサイバーセキュリティ法制や経済安全保障法制などで広く見られるアプローチであり、規制回避を防ぎやすい。他方で、「国内への影響」や「国内向け活動」をどのように認定するかが課題となる。
米国やカナダの制度は、この考え方に近い。
C案 特定の外国勢力について広範な登録義務を課す
活動場所だけではなく、外国勢力との関係性そのものを重視し、指定された外国勢力のために行われる活動全般について広く登録や届出を求める考え方である。
最も強力な規制方式であり、規制回避への対応力は高い。しかし、過剰規制や国際的摩擦を招くおそれもある。
近年の英国FIRSの一部制度は、この考え方に近い。
(2) 考慮要素
規制回避の防止
国内行為のみを対象とする制度では、活動拠点を海外に移すことで規制を回避できる可能性がある。
一方で、国外行為まで対象とすると、制度運用は複雑になる。
国家管轄権との関係
国家は原則として自国領域内の行為を規制する。
国外行為まで規制対象とする場合には、どのような管轄権の根拠によって正当化するのかが問題となる。
デジタル時代への適応
SNSや動画配信サービスの普及により、情報発信と行為地が一致しないことが一般的になっている。
国内と国外を明確に区別すること自体が難しくなりつつある。
執行可能性
国外行為を規制対象に含めても、実際に調査や処分ができなければ制度として十分に機能しない。
理論上の規制範囲と実際の執行能力とのバランスが求められる。
外国企業・外国人への影響
国外行為を広く対象とすると、日本国内に拠点を持たない外国企業や外国人にも義務が及ぶ可能性がある。
国際ビジネス環境や国際交流への影響も考慮する必要がある。
3. アメリカ(主にFARA)でどう扱われているか
米国FARAは、外国主体との関係性だけでなく、米国内への影響活動を重視する制度である。
FARA第611条(c)(1)(22 U.S.C. §611(c)(1))は、外国主体の指示、要請、支配又は統制の下で活動する者について定義しているが、単に関係性が存在するだけでは足りず、政治活動、政治コンサルタント活動、広報活動、政府機関への代理活動などの特定活動への従事が要件となる。
また、第611条(o)(22 U.S.C. §611(o))は「political activities」を定義しており、米国政府や米国内の公衆に影響を与える活動を対象としている。
さらに、第612条(a)(22 U.S.C. §612(a))は、外国主体の代理人として活動する者に登録義務を課している。
FARAは物理的な行為地のみに着目する制度ではないが、活動が米国内に向けられていることや米国内への影響を重視している。そのため、制度設計としてはB案に最も近いと評価できる。
4. 諸外国ではどうなっているか
英国
英国のNational Security Act 2023に基づくForeign Influence Registration Scheme(FIRS)は、2025年7月から運用が開始された。
FIRSは、政治的影響活動を対象とする「Political Influence Tier」と、指定外国勢力との関係を重視する「Enhanced Tier」の二層構造を採用している。
政治的影響活動については、第69条以下の外国影響取決め(Foreign Influence Arrangements)に関する規定が中心となる。
Political Influence Tierは主としてB案に近いが、Enhanced Tierは指定外国勢力との関係そのものを重視するため、C案的な要素も持っている。
オーストラリア
オーストラリアのForeign Influence Transparency Scheme Act 2018(FITSA)は、外国主体のために行われる政治的又は政府影響活動の透明化を目的としている。
同法第21条は「activities in Australia」を対象としており、制度の基本構造はオーストラリア国内で行われる活動を前提としている。
そのため、FITSAは強い属地主義的要素を持ちながらも、外国主体との関係性を重視する制度であり、A案とB案の中間に位置すると評価できる。
カナダ
カナダのForeign Influence Transparency and Accountability Act(FITAA)は2024年に制定された。
同法は外国主体との関係に基づく政治的影響活動の登録を求めており、活動場所そのものよりもカナダの政治制度や政策形成への影響を重視している。
制度設計としてはB案に近い。
フランス
フランスの外国影響力対策法制は、外国勢力による影響工作への対応を重視しているが、基本的にはフランス国内への影響を問題とする構造となっている。
国外行為そのものを包括的に規制するのではなく、国内への効果との結び付きを重視している。
制度設計としてはB案に近い。
5. 日本にあてはめると
日本法は伝統的に属地主義を基礎としている。
もっとも、刑法第1条から第4条の2には国外犯処罰規定が存在し、不正競争防止法や独占禁止法にも一定の域外適用が認められている。
また、個人情報保護法や経済安全保障関連法制などでも、国外事業者に対する一定の適用が認められており、近年は日本への影響を重視する考え方が強まっている。
A案を採用した場合、法的安定性や予測可能性は高いが、国外からの影響工作への対応には限界がある。
B案を採用した場合、デジタル時代の情報空間に対応しやすく、日本法の近年の潮流とも整合しやすい。
C案を採用した場合、規制回避への対応力は高まるが、過剰規制や国際的摩擦のリスクも大きくなる。
特に日本は外国企業との経済的結び付きが強く、国際的な人的交流も活発であるため、規制の実効性と国際協調のバランスが重要になる。
6. 考え方の整理
この論点は、「規制の実効性」と「国家管轄権の限界」の調整をどう考えるかという問題である。
国内行為だけを対象とすれば法的安定性は高まる。しかし、それでは国境を越える現代の影響活動に十分対応できないかもしれない。
逆に、国外行為まで広く対象とすれば規制の実効性は高まる。しかし、執行可能性や国際法上の正当化、国際的な信頼関係への影響が問題となる。
各国制度を比較すると、多くの制度は純粋な属地主義にも全面的な域外適用にも立たず、自国への影響や政治制度への働きかけを重視する方向へと発展しているように見える。
では、外国影響力規制において本当に重要なのは、行為がどこで行われたかなのであろうか。それとも、自国の政治や世論にどのような影響を与えたかなのであろうか。この問いは、外国影響力規制のあり方そのものを考える上で避けて通れない論点である。
