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【論点】政治資金規正法との役割分担をどう考えるか

▶︎日本版FARA全体の論点は、以下で体系的に整理している。
 → 外国代理人登録法(論点整理・まとめ)

1. 問題の所在

外国影響力規制を考えるとき、必ず出てくる問いがある。政治資金規正法があるのに、なぜ別の制度が必要なのか、という問いである。

政治資金規正法は、政治に流れ込む資金の透明性を確保する制度であり、外国人・外国法人等からの政治活動に関する寄附を規制している。日本では、政治資金規正法第22条の5が、外国人・外国法人等から政治活動に関する寄附を受けることを禁止している。

しかし、外国からの影響力行使は、必ずしも献金という形をとらない。PR会社、法律事務所、シンクタンク、大学、NGO、メディア、SNS運用会社などを通じて、政策形成や世論形成に影響を与えることもあり得る。ここで問題になるのは「お金の流れ」だけではなく、「誰が、誰の利益のために、どのような影響力活動をしているのか」という関係性の透明性である。

したがって、この論点の核心は、政治資金規正法で足りるか、外国影響力規制を別建てで設けるべきか、あるいは両者を接続する制度にするべきか、という制度の役割分担にある。お金の透明性を重視すれば政治資金規正法で足りるようにも見える。しかし、影響力の透明性を重視すれば、それだけでは明らかに足りない。まさにここに、制度設計上の難しさがある。

2. 論点の分解

(1) 選択肢

A案 政治資金規制と外国代理人登録を分ける制度

これは、アメリカ型に近い。政治献金や選挙資金は選挙法・政治資金法制で規律し、外国政府等のために行われる政治的・広報的活動はFARAで別途登録・開示させる。

FARAは22 U.S.C. §611で「foreign principal」や「political activities」を定義し、22 U.S.C. §612(a)で外国本人の代理人として行動する者に登録義務を課している。

この案の利点は、役割分担が明確なことである。政治資金規制は「資金」、FARAは「外国本人との代理・委託関係」を見る。他方で、事業者側からすると、政治資金規制、ロビイング規制、外国代理人登録が並立し、制度全体が複雑になりやすい。

B案 外国影響力登録制度の中で資金支出も捕捉する制度

これは、オーストラリア型に近い。

オーストラリアのForeign Influence Transparency Scheme Act 2018は、外国本人のために行う活動として、議会ロビー活動、一般政治ロビー活動、コミュニケーション活動に加え、支出活動(disbursement activity)も制度の対象としている。

特に重要なのは、同法が単なるロビイングだけでなく、政治的又は政府的影響を目的とする支出活動も制度の対象としている点である。第35条は、政治的又は政府的影響を目的とする支出活動に関する通知・報告義務を規定している。

この案の利点は、「お金」と「影響力」を切り離さずに把握できることである。他方で、政治資金規制との境界が曖昧になりやすい。どこまでを政治資金規正法的な問題として扱い、どこからを外国影響力登録制度として扱うのか、制度の接合部が難しくなる。

C案 国家安全保障法制の一部として外国影響力登録制度を置く制度

これは、英国型に近い。

英国のNational Security Act 2023は、Part 4にForeign Influence Registration Schemeを置き、第69条で外国勢力(foreign power)との外国影響力取決め(foreign influence arrangements)の登録義務を定め、第70条で政治的影響活動(political influence activities)の意味を定めている。また、第65条以下では、指定勢力(specified persons)に関する外国活動取決め(foreign activity arrangements)の登録制度が設けられており、第69条以下の外国影響力取決め登録制度と合わせて二層構造を形成している。

この案の利点は、外国影響力を単なる政治資金の問題ではなく、国家安全保障上の透明性の問題として位置付けられることである。他方で、政治活動や表現活動に対する萎縮効果が強くなりやすい。透明化の制度であるはずが、過度に治安法的に見える危険もある。

(2) 考慮要素

保護法益の違い

政治資金規正法が守ろうとしているのは、政治資金の公明・公正である。政治資金の収支を公開し、寄附の授受を規制することによって、民主政治の健全な発達を確保する発想である。

これに対し、外国影響力規制が守ろうとするのは、政策形成過程や世論形成過程における外国関与の透明性である。両者は近いが、同じではない。

規制対象の違い

政治資金規正法は、基本的には資金の授受を見ている。

これに対し、外国影響力規制は、外国本人との委託関係、指示関係、代理関係、資金提供関係、活動内容を見ている。お金が動いていなくても、外国政府のために政策的働きかけを行えば問題になり得る。この差は大きい。

外国人献金規制との関係

日本では、外国人・外国法人等からの政治活動に関する寄附は政治資金規正法第22条の5で禁止されている。

しかし、政治資金パーティー、広報活動、調査研究活動、政策提言活動など、政治資金規正法だけでは十分に把握できない領域も存在する。外国影響力規制を設けるのであれば、こうした領域をどこまで対象に含めるかが重要な論点となる。

透明性と萎縮効果

外国影響力規制は、隠れた影響力を可視化する点で有益である。しかし、登録義務の範囲が広すぎると、研究、報道、市民活動、国際交流、企業活動まで萎縮させるおそれがある。

政治資金規正法との役割分担を誤ると、「外国との関係がある活動は危ない」という過度なメッセージを発しかねない。

執行可能性

政治資金規正法は、政治団体、候補者、寄附、収支報告という比較的明確な枠組みを持っている。

これに対し、外国影響力規制は、代理関係や影響力活動の認定が難しい。制度を広げれば広げるほど、執行機関には高度な判断が求められる。透明性の制度は、作るより運用する方が難しい。

3. アメリカ(主にFARA)でどう扱われているか

アメリカでは、政治資金規制とFARAは基本的に別制度として設計されている。

FARAは、外国本人の代理人として政治活動、広報活動、情報サービス活動などを行う者に登録・開示を求める制度である。22 U.S.C. §611(b)は「foreign principal」を定義し、外国政府、外国政党、外国に所在する者、外国法に基づく法人等を含めている。22 U.S.C. §611(c)は「agent of a foreign principal」を定義し、22 U.S.C. §611(o)は「political activities」を、米国政府機関、政府職員又は米国内の公衆に影響を及ぼそうとする活動として広く定義している。

登録義務の中心は22 U.S.C. §612(a)であり、外国本人の代理人として活動する者は、原則として司法長官に登録しなければならない。さらに、22 U.S.C. §614は情報資料の提出・表示に関する規律を置き、22 U.S.C. §615は帳簿・記録の保存及び検査に関する規定を置いている。違反については22 U.S.C. §618に罰則が置かれている。

この制度は、政治資金そのものを規制する制度ではない。むしろ、外国本人のために行われる政治的・広報的活動の背後関係を開示させる制度である。

したがって、アメリカはA案、すなわち政治資金規制と外国代理人登録を分ける制度に最も近い。

4. 諸外国ではどうなっているか

オーストラリア

オーストラリアは、Foreign Influence Transparency Scheme Act 2018により、外国本人のために行われる一定の活動について登録義務を課している。

同制度の目的は、オーストラリア政府及び政治に対する外国影響力の性質、程度、範囲を公衆が見られるようにすることにある。

登録対象となる活動には、議会ロビー活動、一般政治ロビー活動、コミュニケーション活動、支出活動が含まれる。

特に重要なのは、同法が単なるロビイングだけでなく、政治的又は政府的影響を目的とする支出活動も制度の対象としている点である。第35条は、政治的又は政府的影響を目的とする支出活動に関する通知・報告義務を規定している。

したがって、オーストラリアはB案、すなわち外国影響力登録制度の中で資金支出も捕捉する制度に近い。

英国

英国は、National Security Act 2023 Part 4にForeign Influence Registration Schemeを置いている。

第65条以下では、指定勢力(specified persons)に関する外国活動取決め(foreign activity arrangements)の登録制度が設けられている。これに対し、第69条以下では、外国勢力(foreign powers)との外国影響力取決め(foreign influence arrangements)の登録制度が設けられている。

両制度は相互に調整されており、第69条第2項は、指定勢力との取決めとして第65条の対象となる場合には、第69条の外国影響力取決めには該当しない旨を定めている。

英国型の特徴は、外国影響力登録制度が国家安全保障法制の中に位置付けられていることである。政治資金規制というよりも、外国勢力による政治的影響活動を国家安全保障上の透明性問題として扱う。

したがって、英国はC案、すなわち国家安全保障法制の一部として外国影響力登録制度を置く制度に近い。

カナダ

カナダでは、Foreign Influence Transparency and Accountability Actが制定され、外国の国家又は勢力等との取決めに基づいて、カナダの政治又は政府過程に関係する活動を行う場合の登録制度が設けられている。

同制度は、政治資金規制そのものではなく、外国影響力活動の透明性を高めるための登録制度である。ただし、その対象は政治・政府過程に関係する活動に置かれており、政治資金規制と完全に一体化しているわけではない。

したがって、カナダはA案に比較的近い制度と評価できる。

5. 日本にあてはめると

日本では、政治資金規正法がすでに外国人・外国法人等からの政治活動に関する寄附を禁止している。

そのため、外国影響力規制を導入する場合、「外国人献金を規制するための法律」として説明すると、政治資金規正法との重複が強く見えてしまう。

しかし、日本版FARAの本来の対象は、政治献金そのものではなく、外国本人の利益のために行われる政策形成・世論形成への働きかけである。

たとえば、外国政府の委託を受けたコンサルティング会社が議員説明を行う場合、外国企業の資金でシンクタンク報告書を作成する場合、外国団体の利益のためにメディアキャンペーンを行う場合、そこに政治献金がなければ政治資金規正法だけでは十分に把握できない。

A案を採用する場合、日本では政治資金規正法を維持したまま、別法として外国影響力透明化法を設けることになる。この案は立法技術上もっとも整理しやすい。政治資金規正法は「資金」、外国影響力透明化法は「関係性」という役割分担が明確になる。

B案を採用する場合、日本版FARAの中で、外国本人のために行われる支出活動や広報活動も登録対象に含めることになる。この案は実効性が高いが、政治資金規正法との重なりが生じやすい。

C案を採用する場合、国家情報会議設置法や経済安全保障法制と接続し、外国影響力規制を国家安全保障法制の一部として位置付けることになる。この案は、認知戦や情報戦への対応としては説明しやすい。他方で、政治活動・報道・学術・市民活動への萎縮効果が強く見えやすく、日本の法文化との相性には慎重な検討が必要である。

日本固有の事情としては、ロビイング規制が未成熟であることも重要である。米国のようにロビイング開示制度とFARAが併存しているわけではないため、日本版FARAを導入すると、それが事実上、外国関係ロビイングの初めての本格的な透明化制度になる可能性がある。

6. 考え方の整理

この論点は、政治資金規正法で足りるか足りないか、という単純な話ではない。

政治資金規正法は、お金の流れを通じて政治の公明・公正を守る制度である。これに対して、外国影響力規制は、外国本人との関係性を通じて政策形成・世論形成の透明性を確保する制度である。

制度設計上は、政治資金規正法を「資金の透明性」、日本版FARAを「外国影響力の透明性」として分ける考え方がもっとも整理しやすい。しかし、実際の影響力活動では、お金と関係性はしばしば一体で動く。資金を見なければ影響力の実態は見えず、関係性を見なければ資金の意味も分からない。

結局のところ、問われているのは、外国からの政治的影響を「政治資金の問題」として見るのか、「政策形成過程の透明性の問題」として見るのか、それとも「国家安全保障上のリスク」として見るのかである。どの見方を採るかによって、制度の形は大きく変わる。

政治資金規正法が見ているのは、政治に入ってくるお金である。日本版FARAが見るべきものは、その背後にある外国との関係性なのか、それとも政治に向かう影響力そのものなのか。ここをどう切り分けるかが、日本版FARAの制度設計における最初の分岐点になる。

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