【論点】外国主体とは誰か――日本版FARAの入口をどう設計するか
▶︎日本版FARA全体の論点は、以下で体系的に整理している。
→ 外国代理人登録法(論点整理・まとめ)
外国政府から依頼を受けたロビイストであれば、外国影響規制の対象になり得ることは比較的わかりやすい。
では、外国政府が出資する国有企業はどうか。
外国政府と近い関係にある企業はどうか。
外国企業の日本法人はどうか。
さらに、その企業から依頼を受けたPR会社や法律事務所はどうか。
ここで線をどこに引くかによって、日本版FARAの性格は大きく変わる。
外国影響規制において、「誰を外国主体とみなすか」は、単なる定義の問題ではない。制度全体の射程を決める入口であり、透明性確保と過剰規制の分岐点でもある。
1. 三つの選択肢
この論点を整理するため、本稿では日本が取り得る制度設計上の選択肢を、便宜的に三つに分けて考える。
【限定型】外国政府・外国政党のみ
明確性が高く、通常の民間活動や国際交流への萎縮効果は小さい。他方で、国有企業や政府関連団体を通じた影響活動を十分に捕捉できない可能性がある。
【政府関連主体型】国有企業・政府系ファンド等を含む
形式上は民間主体であっても、国家関与の実質がある場合には透明化の対象にする。迂回防止には有効だが、支配関係、指示関係、資金提供関係をどのように認定するかが難しい。
【包括型】外国企業・個人・最終受益者まで
実効性は高まるが、通常の経済活動、国際的な業界団体の活動、大学・研究機関・メディア・NGOの国際交流まで規制対象に近づける危険がある。
もっとも、各国制度がこの三類型のどれかにきれいに収まるわけではない。実際の制度は、主体定義、行為要件、目的要件、例外規定を組み合わせて作られている。したがって、この三分類は、各国制度を単純にラベル貼りするためのものではなく、日本で制度設計を行う際の補助線である。
2. アメリカ――広く網をかけ、例外で絞る制度
米国のFARAは、一言でいえば、まず網を広くかけ、後から例外で絞る制度である。
その対象には、外国政府・外国政党だけでなく、外国に住所を有する個人、外国法に基づき設立された法人・団体、外国政府または外国政党により支配される主体も含まれる。つまり、限定型、政府関連主体型、包括型の要素を併せ持っている。
ただし、FARAは「外国主体」の定義だけで登録義務を発生させているわけではない。登録義務が問題となるには、さらに二つのフィルターを通過する必要がある。
第一に、外国主体の命令、要請、指示または支配の下で、一定の政治活動その他の対象行為を行うことが必要である。つまり、単に外国主体と関係があるだけでは足りない。
第二に、商業活動、宗教・学術・芸術活動、Lobbying Disclosure Actに基づく登録者などについては、一定の適用除外が置かれている。広く網をかけつつ、過剰に包摂される活動を例外規定で外す構造である。
したがって、FARAから得られる示唆は、「外国主体を広く定義すればよい」ということではない。広い主体定義を採るのであれば、行為要件と例外規定によって過剰包摂を調整する緻密な設計が不可欠である、という点にある。
3. 諸外国――制度目的によって設計は分かれる
イギリスは、一般的なロビイング規制と、安全保障型の外国影響登録制度を分けている。2014年のロビイング規制は、外国主体そのものを包括的に定義する制度ではない。他方で、National Security Act 2023に基づく外国影響登録制度は、外国政府や外国政府関連主体との関係に着目する。
もっとも、同制度は国家安全保障上のリスクを管理するための制度として設計されており、通常のロビイングや政策提言活動一般を広く透明化する制度とは位置づけが異なる。外国政府との関係性を見る点では参考になるが、対象行為の広さという点では、日本版FARAを政策形成過程への働きかけの透明化制度として構想する場合とは距離がある。
これに対し、オーストラリアのForeign Influence Transparency Scheme Act 2018は、外国政府、外国政治組織、政府関連主体、政府関連個人を対象に含めたうえで、政治的・政府的影響活動の透明化を図る制度である。さらに、政府関連主体・政府関連個人を判断する際には、支配、資金提供、指示、役員任命等の関係が問題となる。つまり、単なる外国性ではなく、国家関与の実質をどのように制度上把握するかという点に正面から向き合っている。
このため、日本版FARAを、政策形成過程への働きかけを透明化する制度として構想するなら、安全保障型の英国NSAよりも、豪州FITSAの発想の方が直接の比較対象になりやすい。
もっとも、豪州FITSAがそのまま日本のモデルになるわけではない。政府関連性の認定基準をどこまで明確にできるか、登録制度としてどこまで実効的に機能するかという課題は残る。日本で参照すべきなのは、豪州制度そのものというより、外国政府との関係性を所有・支配・指示・資金提供といった要素で把握しようとする発想である。
フランスのSapin II法は、外国主体を中心に据える制度ではない。国籍や外国政府との関係ではなく、利益代表活動そのものを透明化する制度である。この意味で、日本版FARAのような外国主体ベースの制度とは設計思想が異なる。
この比較から得られる示唆は、各国制度を三分類のいずれかに振り分けることではない。むしろ重要なのは、外国主体をどの制度目的のもとで捉えているかである。日本版FARAを考えるうえで問題となるのは、「外国企業一般」を対象にするかどうかではない。外国政府による所有、支配、指示、資金提供の関係を、どのような基準で認定するかである。
4. 日本にあてはめると
日本法にも、外国からの影響を個別に規律する制度は存在する。
まず、外国資金が政治部門に直接流入することを防ぐ制度として、政治資金規正法がある。同法は、外国人・外国法人等からの政治献金を制限している。しかし、これはあくまで資金流入の局面を規律する制度であり、外国主体のために活動する代理人を登録させる制度ではない。
また、公務員の職務公正性を確保する仕組みとして、国家公務員倫理法がある。同法は、公務員側の利害関係者との接触や贈与等を規律する。しかし、これも公務員側の倫理規制であって、外国影響活動の透明化を主眼とする制度ではない。
さらに、安全保障や経済秩序の観点から投資を審査する枠組みとして、外為法上の対内直接投資規制がある。同制度は、外国投資家による株式取得や支配関係に着目する。ただし、これは投資審査の制度であり、政治的影響力の透明化を目的とする制度ではない。したがって、日本版FARAの直接の先例ではなく、あくまで外国主体を把握するための定義技術として参考になるにとどまる。
これらはいずれも重要な制度である。しかし、いずれも「外国主体のために政策形成過程へ働きかける民間側の代理人」を横断的に登録させる制度ではない。日本法は、外国資金、外国投資、公務員倫理をそれぞれ個別に規律してきたが、外国主体による政策形成過程への影響活動を透明化する制度は置いてこなかった。
ここに、日本版FARAをめぐる制度的空白がある。
5. 日本で現実的に想定されるモデル
以下は、制度導入の是非についての賛否ではなく、比較法と日本法の現状を踏まえた構造的な見通しである。
日本で制度設計を行う場合、現実的な焦点は、外国政府・外国政党を中核に置きつつ、その周辺にある政府関連主体をどこまで含めるかに置かれるだろう。
外国企業、外国人個人、最終受益者まで一律に広く含める制度は、迂回防止という点では強い。しかし、外資系企業の通常の政策提言、国際的な業界団体の活動、大学・研究機関・メディア・NGOの国際交流にまで萎縮効果が及び得る。
他方で、外国政府または外国政党と直接契約した者だけを対象にすれば、国有企業、政府系ファンド、政府関連団体、第三者団体を通じた影響活動を十分に捕捉できない可能性がある。
そのため、日本で中心的に問題となるのは、対象を「外国企業一般」に広げるかどうかではない。外国政府による所有、支配、指示、資金提供の関係を、どこまで登録義務の前提として把握するかである。
この点で、豪州FITSAのように、支配、資金提供、指示、役員任命等の関係を通じて政府関連性を把握する発想は参考になる。日本で同様の制度を設計する場合にも、議決権比率、役員選任への関与、契約上の指示権限、資金提供の割合・継続性などが、具体的な認定要素として問題になり得る。
もっとも、これらの基準をどこまで数値化し、どの程度明確な登録義務の発生要件にするかは、主体定義とは別の大きな論点である。本稿では、まず「外国主体」の範囲という入口の問題に限って整理し、支配・指示関係の具体的な認定基準は別稿で扱う。
基準が広すぎれば、通常の民間活動まで萎縮させる。基準が狭すぎれば、形式上は民間主体を介した影響活動を捕捉できない。したがって、制度設計上の核心は、「外国性」そのものではなく、国家関与の実質をどのような具体的基準で認定するかにある。
GA・GR実務の観点から見れば、今後重要になるのは、自社が単に外国企業であるかどうかではない。自社や主要クライアントについて、外国政府または政府関連主体との所有関係、支配関係、指示関係、資金提供関係がどこに存在するのかを棚卸しし、政策提言活動との関係を説明できるようにしておくことが重要になる。
このうち、支配・指示関係をどのような基準で認定するかは、別稿で改めて検討したい。
