【論点】外国の公的組織・公的機関をどこまで外国主体に含めるのか
▶︎日本版FARA全体の論点は、以下で体系的に整理している。
→ 外国代理人登録法(論点整理・まとめ)
1. 問題の所在
日本版FARAを設計する場合、「外国主体」をどのように定義するかは制度の根幹をなす論点である。特に問題となるのは、外国政府そのものだけでなく、その周辺に存在する公的組織や公的機関をどこまで含めるべきかという点である。
外国政府、大使館、外国政党を外国主体に含めることについては大きな異論は少ない。しかし、国有企業、政府系ファンド、政府系シンクタンク、文化交流機関、国立大学、公的研究機関などについては評価が分かれる。
これらを広く外国主体に含めれば、外国政府による間接的な影響力行使を可視化しやすくなる。他方で、対象範囲を広げすぎれば、通常の国際交流、学術交流、文化交流、企業活動まで「外国影響力」として扱われるおそれもある。
ここには、安全保障や透明性の確保と、学術・経済・文化交流の自由との緊張関係が存在する。外国政府との一定の関係があれば外国主体とみなすべきなのか、それとも実質的な支配や指揮監督関係が存在する場合に限るべきなのか。この論点は、日本版FARAの制度設計を大きく左右する。
2. 論点の分解
(1) 選択肢
A案 外国政府・外国政党・政府機関に限定する案
第一の選択肢は、外国主体を外国政府、外国政党、政府省庁、地方政府、政府機関などに限定する考え方である。
この考え方は、英国のForeign Influence Registration Scheme(FIRS)の基本的な発想に近い。英国制度は外国政府や外国政党との関係を中心に構築されており、制度の対象を比較的限定的に捉えている。
この案の長所は、対象範囲が明確であり、過剰規制を回避しやすい点にある。他方で、外国政府が国有企業や政府系財団等を通じて影響力を行使する場合には制度の対象外となりやすい。
B案 外国政府に支配・指揮・資金供与される組織まで含める案
第二の選択肢は、外国政府そのものだけでなく、外国政府により支配され、指揮され、または実質的な資金供与を受けている組織まで外国主体に含める考え方である。
この考え方は、フランス、カナダ、オーストラリアなどの制度に近い。
この案の長所は、外国政府が第三者組織を通じて影響力を行使する場合にも対応しやすい点にある。
他方で、どの程度の支配、資金供与、指揮監督関係があれば対象となるのかという認定問題が生じる。さらに、その立証責任を政府側と登録主体側のどちらに負わせるのかという制度設計上の問題も発生する。実際にオーストラリアの制度では、大学や研究機関に対する適用場面において、外国政府との関係性の立証や評価が困難であることが指摘されている。
C案 外国法人・外国団体を広く含める案
第三の選択肢は、外国政府との関係を問わず、外国法人、外国団体、外国個人を広く外国主体に含める考え方である。
この考え方は、米国FARAに近い。
この案の長所は、外国政府との関係性を個別に認定する必要がなく、制度の適用範囲を明確にできる点にある。
他方で、通常の外国企業や外国団体との関係まで制度の対象となり得るため、制度の射程が大きく拡大する。
(2) 考慮要素
透明性と過剰規制
対象範囲を広げれば、外国政府による影響力行使を把握しやすくなる。しかし、対象範囲を広げすぎれば、正当な国際交流や経済活動に対する過度な萎縮効果を生じさせるおそれもある。
透明性の確保は重要であるが、その追求が過剰規制に転化しないよう配慮する必要がある。
形式基準と実質基準
外国政府や外国省庁を対象とする形式基準は明確であり、予測可能性が高い。
これに対し、国有企業や政府系財団等を対象とするためには、支配、資金供与、人事関与、政策目的などの実質基準を用いる必要がある。
実質基準は柔軟である反面、認定の不確実性を伴う。
公的機関と民間活動の境界
外国の国立大学や公的研究機関は形式的には公的機関であるが、その活動の全てが外国政府の政策遂行と評価できるわけではない。
研究活動や学術交流を外国影響力活動とどのように区別するのかは、制度設計上の重要な課題となる。
国家安全保障と国際交流
外国政府系組織による影響力行使は安全保障上の懸念を生じさせる。
他方で、学術交流や文化交流は民主社会において重要な価値を有する。
したがって、この論点は外国主体を警戒するか否かではなく、警戒すべき活動と保護すべき交流をどのように区別するかという問題である。
主体規制と行為規制
外国主体の範囲を広く定義する場合であっても、その主体による全ての活動を規制対象とする必要はない。
例えば米国FARAは、外国主体の範囲自体は広く定義している一方で、商業活動、学術活動、宗教活動等については免除規定を設けている。
そのため制度設計上は、「誰を外国主体とするか」という主体規制と、「どの活動を規制対象とするか」という行為規制を分けて考える必要がある。
主体の範囲を広げるほど、過剰規制を回避するための免除規定の重要性は高まる。
3. アメリカ(主にFARA)でどう扱われているか
米国FARAは、C案に最も近い制度である。
FARAは22 U.S.C. §611(b)において、foreign principal(外国の本人)として、
・外国政府
・外国政党
・外国個人
・外国法人および外国団体
を並列的に規定している。
そのため、FARAは「外国政府系組織をどこまで含めるか」という問題以前に、外国法人や外国団体一般を広く外国主体として捉える構造を採用している。
他方で、22 U.S.C. §611(e)は「外国政府(government of a foreign country)」の概念を広く定義しており、主権的政治権限を行使する主体だけでなく、その権限を直接または間接に委任された機関も含めている。
もっとも、FARAは外国主体の範囲を広く設定する一方で、商業活動や学術活動等について一定の免除規定を設けており、主体規制と行為規制を組み合わせることで制度の均衡を図っている。
4. 諸外国ではどうなっているか
英国
英国のForeign Influence Registration Scheme(FIRS)は、A案に近い制度である。
同制度は外国政府や外国政党との関係を中心に設計されている。
もっとも、外国政府が実質的に支配する主体も一定の場合には制度の対象となり得るため、純粋なA案というよりもB案的要素も併せ持っている。
その意味で英国制度は、外国政府との関係を重視しつつも、形式的な組織形態だけに依存しない制度設計を採用している。
フランス
フランスは、B案に近い制度を採用している。
2024年改正後の公的生活透明化法18-11条IIは、「外国委託者(mandants étrangers)」として、
①EU加盟国以外の外国勢力
②当該外国勢力により直接または間接に支配される法人、または過半の資金提供を受ける法人
③EU加盟国以外の外国政党および政治団体
を規定している。
特徴的なのはEU加盟国を対象から除外している点である。
これは単なる政策判断ではなく、EU法上の移動の自由や欧州人権条約との整合性を確保するための制度設計として理解されている。
フランスの制度は、安全保障上の要請だけでなく、憲法や国際法上の制約との調整も考慮した制度設計の一例といえる。
カナダ
カナダのForeign Influence Transparency and Accountability Actは、B案に近い制度である。
同法は外国国家、外国勢力、外国主体および外国経済主体等を対象としており、外国政府そのものだけでなく、その周辺に存在する組織も制度の対象とする構造を採用している。
制度の中心的関心は、外国主体との取決めに基づき政治的または政府的意思決定に影響を与える活動の透明化にある。
オーストラリア
オーストラリアのForeign Influence Transparency Scheme Act 2018も、B案に近い制度である。
同法は、外国政府、外国政党に加え、外国政府関連主体(foreign government related entities)を制度の対象としている。
制度の特徴は、形式的な法人格ではなく、外国政府との実質的な関係性を重視している点にある。
もっとも、そのような実質基準の採用は、制度運用上の困難も生じさせている。
EU
EU透明性登録制度は、外国影響力規制ではなく、利益代表活動の透明化制度として設計されている。
そのため、「外国主体をどこまで含めるか」という問題よりも、「どの活動を透明化の対象とするか」という観点が重視されている。
EUの制度は、主体規制よりも行為規制に重点を置いた制度設計の例と評価できる。
5. 日本にあてはめると
日本でこの論点が問題となる場面は多い。
外国政府、大使館、外国政党から依頼を受けて政策形成過程に働きかける場合はもちろん、国有企業、政府系財団、政府系シンクタンク、国立大学、公的研究機関などとの関係も問題となり得る。
日本法との関係で特に重要なのは、外国為替及び外国貿易法(外為法)との比較である。
外為法は対内直接投資規制において、外国政府、外国政府機関、外国中央銀行およびそれらによって実質的に支配される主体を特別に取り扱っている。
そのため、日本版FARAを設計する場合には、
・外為法と同様の概念を採用するのか
・外為法より広い概念を採用するのか
・全く新しい概念を創設するのか
という制度選択が問題となる。
また、日本には政治資金規正法による外国人・外国法人からの政治献金規制も存在する。
しかし、これらの制度はいずれも外国主体による政策影響活動を包括的に登録・開示する制度ではない。
したがって、日本版FARAを設計する場合には、既存制度との整合性を図りながら、外国主体の範囲をどのように定義するかを検討する必要がある。
A案を採用すれば制度は明確になるが、外国政府による迂回的な影響力行使への対応は限定的となる。
B案を採用すれば実質的な影響力行使への対応は可能になるが、認定や立証の負担が増加する。
C案を採用すれば制度の捕捉範囲は広がるが、日本社会においては過剰規制との批判も生じ得る。
6. 考え方の整理
この論点の本質は、外国政府をどこまで制度上追跡するのかという点にある。
外国政府は必ずしも政府機関の名義だけで活動するわけではない。国有企業、財団、大学、研究機関などを通じて政策的利益を実現しようとすることもあり得る。
その意味では、外国政府だけを対象とする制度では十分でない可能性がある。
他方で、外国政府との一定の関係があるというだけで広範な組織を外国主体に含めれば、学術交流や経済活動に対する過度な萎縮効果を生じさせるおそれもある。
また、外国主体の範囲を広げれば広げるほど、学術活動や商業活動等に対する免除規定の重要性は増していく。
したがって、この論点は単に「誰を外国主体に含めるのか」という主体規制の問題ではない。
「どの活動を規制対象から除外するのか」という行為規制の問題と一体として考える必要がある。
外国政府との関係を重視すべきなのか、それとも活動の内容を重視すべきなのか。
日本版FARAを設計するとすれば、外国主体の範囲と免除規定の範囲をどのように組み合わせるべきなのだろうか。
