【論点】外国代理人登録法(日本版FARA)の論点:全ての外国を対象とするのか
▶︎日本版FARA全体の論点は、以下で体系的に整理している。
→ 外国代理人登録法(論点整理・まとめ)
1. 問題の所在
外国影響力規制や外国代理人登録制度を設計する際、最初に問題となるのは、「外国」とは誰を指すのかという点である。全ての外国政府・外国政党・外国企業・外国団体を対象にするのか、それとも安全保障上の懸念が高い国や一定の外国政府関係者に限定するのか。この設計によって制度の性格は大きく変わる。対象を広くすれば、制度は中立的で抜け道が少なくなる。他方で、友好国や同盟国との通常の国際交流、企業活動、学術活動まで萎縮させるおそれがある。逆に対象を狭くすれば、過剰規制は避けやすいが、指定されていない国や第三国を経由した影響力活動を捕捉しにくくなる。
2. 論点の分解
(1) 選択肢
A案 全外国包括型
全ての外国を対象とし、特定国だけを名指ししない方式である。米国のFARAやオーストラリアのFITSは、この方向に近い。外国政府だけでなく、外国政党、外国法人、外国団体、外国に所在する者などを広く外国主体として捉える。
B案 域外外国限定型
一定の政治的共同体の内部を対象外とし、その外側にある外国を対象とする方式である。フランスの外国影響力登録制度は、EU加盟国を除いた外国主体を対象としており、この方向に近い。
C案 二層型・指定国加重型
基本部分では広く外国主体を対象としつつ、リスクが高いと判断された外国や外国関連主体については、より重い登録義務を課す方式である。英国のFIRSは、政治的影響活動に関する通常層と、指定された外国権力等に関する強化層を設けており、この方向に近い。
(2) 考慮要素
制度の中立性
特定国を名指ししない制度は、外交上の摩擦を抑えやすく、制度の一般性を保ちやすい。他方で、実際の執行が特定国に集中すれば、形式的には中立でも実質的には特定国規制として機能する可能性がある。
実効性
全外国包括型は抜け道を作りにくい。しかし対象が広すぎると、行政側の監督資源が分散し、本当に問題のある事案への対応が難しくなる可能性がある。
萎縮効果
対象を広げるほど、通常の国際交流、企業活動、学術協力、文化交流、NGO活動などまで「外国の影響力活動」と見られるのではないかという懸念が生じる。
外交関係
同盟国や友好国も一律に対象とする場合、制度の説明が難しくなることがある。もっとも、友好国であっても影響力活動が存在し得る以上、あらかじめ除外することにも問題がある。
回避可能性
特定国だけを対象にすると、第三国、民間団体、財団、企業、コンサルタントなどを経由した活動によって制度の対象から外れる可能性がある。
執行の政治性
全外国包括型を採用したとしても、実際の執行資源には限界がある。そのため、法律上は全外国を対象としていても、実務上は安全保障上の懸念が高い特定国に監視や摘発が集中する可能性がある。制度設計と制度運用が必ずしも一致しない点に注意が必要である。
3. アメリカ(主にFARA)でどう扱われているか
米国FARAは、A案 全外国包括型に近い。FARAは対象国を限定せず、「foreign principal」を広く定義している。22 U.S.C. §611(b)は、外国政府、外国政党、米国外の者などを「foreign principal」に含めている。ただし、米国市民や米国法に基づき設立され米国内に主たる事業所を有する法人等については一定の除外が設けられている。
また、22 U.S.C. §611(c)(1)は、外国主体の命令、要請、指揮又は支配の下で活動する者を「agent of a foreign principal」と定義している。さらに、外国主体によって直接又は間接に監督、指示、支配、資金提供又は補助を受ける主体との関係も対象に含まれる。
FARAの特徴は、「敵対国か友好国か」ではなく、「外国主体のために一定の政治的・広報的活動を行っているか」を基準としている点にある。そのため、同盟国の政府や企業が関係する活動であっても、要件を満たせば対象となり得る。
もっとも、FARAには22 U.S.C. §613に基づく商業活動免除や学術・科学・芸術活動等に関する免除規定が設けられており、制度の対象範囲を広く取る一方で、通常の活動への過度な萎縮効果を抑制する仕組みも存在する。
4. 諸外国ではどうなっているか
英国
英国は、C案 二層型・指定国加重型に近い。National Security Act 2023 Part 4に基づくForeign Influence Registration Scheme(FIRS)は、政治的影響活動層(Political Influence Tier)と強化層(Enhanced Tier)から成る二層構造を採用している。
同法第32条は「foreign power」を定義し、外国の元首、外国政府、外国政府の一部、外国政府機関、外国政府の統治政党などを含めている。制度上、友好国や同盟国を除外する一般規定は存在しないが、アイルランド共和国の政党については例外が設けられている。
FIRSは2025年7月1日に施行されている。強化層では、外国政府そのものだけでなく、外国政府によって支配される企業や団体も対象となり得る。現時点ではロシア及びイランが強化層の指定対象となっている。
フランス
フランスは、B案 域外外国限定型に近い。2024年7月25日法律第2024-850号により創設された制度では、公的生活透明性高等機関(HATVP)が登録制度を管理している。
同法により改正された2013年10月11日法第18条の11は、「mandant étranger(外国委託者)」を定義している。この定義には、EU加盟国以外の外国権力、その支配下にある法人・団体、EU加盟国以外の外国政党等が含まれる。
したがって、EU加盟国の除外は実務上の運用や解説によるものではなく、法律上明示された制度構造そのものである。この点が米国型との大きな違いである。
オーストラリア
オーストラリアは、A案 全外国包括型に近い。Foreign Influence Transparency Scheme Act 2018は、外国政府、外国政党、外国政府関連団体及び外国政府関連個人を「foreign principal」として定義し、それらのために一定の活動を行う者に登録義務を課している。
制度の目的は、オーストラリアの政治及び政府に対する外国影響力の性質、範囲及び程度を透明化することにある。対象国を限定しない点で、米国FARAと共通する特徴を持つ。
カナダ
カナダは、A案とC案の中間に位置する制度を採用している。2024年6月に成立したForeign Influence Transparency and Accountability Act(FITAA)は、外国主体の指示又は関与の下で、政治的又は政府的プロセスに影響を与える一定の活動について登録を求める制度である。
同制度は、外国企業一般よりも、外国国家や外国政府、その関連主体との関係に重点を置いている点に特徴がある。そのため、米国FARAよりも国家関与性を重視した制度設計と評価できる。
なお、制度の施行に向けた規則整備が進められているが、施行状況については最新情報を確認する必要がある。
5. 日本にあてはめると
日本でこの論点が問題になる場合、まず「外国」をどこまで広げるかによって制度の性格が大きく変わる。
全外国包括型を採れば、中国やロシアなどの安全保障上の懸念国だけでなく、米国、英国、EU加盟国、韓国、オーストラリアなどとの関係も対象となり得る。これは制度の中立性を高める一方、通常の政策対話や企業活動まで対象となるのではないかという懸念を生じさせる。
域外外国限定型については、日本にはEUのような超国家的統合体が存在しないため、フランス型をそのまま移植することは難しい。仮に同盟国や友好国を除外したとしても、なぜその国を除外するのかという説明や、第三国経由の活動への対応が課題となる。
二層型・指定国加重型を採る場合には、通常の登録制度は国名中立的に維持しながら、リスクが高い主体に対して追加的な義務を課すことが可能になる。ただし、指定基準や指定手続の透明性が重要な論点となる。
また、日本には既に外為法による対内直接投資規制が存在する。外為法は形式上は全外国を対象としながら、安全保障上のリスクに応じて審査の重点を変える仕組みを採用している。外国影響力規制を設計する際にも、このようなリスクベースの考え方が参考にされる可能性がある。
さらに、日本国憲法第21条の表現の自由や第23条の学問の自由との関係も重要な論点となる。対象範囲を広げすぎれば、明確性の原則や必要最小限度の原則との関係が問題となる可能性がある。
6. 考え方の整理
この論点では、制度の中立性とリスク対応の効率性が対立している。全外国包括型は、国名による政治的判断を避けやすく、回避も防ぎやすい。しかし、対象が広がりすぎると、通常の国際交流や企業活動に過度な負担を課す可能性がある。
域外外国限定型は、一定の政治共同体内部の自由な交流を守る上では有効であるが、日本にはその前提となる地域統合の枠組みが存在しない。
二層型・指定国加重型は、中立性とリスクベースの重点化を両立しやすいが、指定そのものが政治的判断を伴うため、恣意的運用への懸念を完全には排除できない。
また、法律の文面を中立的に設計したとしても、実際の執行は特定国に集中する可能性がある。その意味で、「どの国を対象とするか」という問題だけでなく、「どのように運用するか」という問題も同時に考える必要がある。
結局、この論点は、外国影響力規制を一般的な透明性制度として構想するのか、それとも安全保障上のリスク管理制度として構想するのかという制度目的の選択に関わっている。前者であれば全外国包括型が、後者であれば二層型・指定国加重型が有力となる。しかし、いずれの方式を採る場合であっても、外国であることのみを基準とするのではなく、代理関係、活動内容、影響対象、資金関係、既存制度との関係などを総合的に考慮する必要がある。
