【論点】国家公務員倫理法と外国影響力透明化制度をどう接続するか
▶︎日本版FARA全体の論点は、以下で体系的に整理している。
→ 外国代理人登録法(論点整理・まとめ)
1 問題の所在
外国政府系機関から委託を受けたコンサルタントが、日本の規制改正に関する報告書を作成し、省庁担当者や審議会委員に説明したとする。
担当職員に金銭や接待が提供されていなければ、国家公務員倫理法上の贈与規制は通常、中心的な問題とはならない。
しかし、委託元や資金提供関係が明らかでなければ、その政策提言をどのような利害関係の下で評価すべきかは分からない。
現代の政策形成への働きかけは、接待や贈与によって行われるとは限らない。民間側が技術動向、安全策、消費者保護措置、具体的な制度案を整理し、行政機関に提示することも重要な政策提言である。
こうした活動は、それ自体として不適切なものではない。問題は、外国主体の依頼や資金提供に基づく場合に、その関係が見えるかどうかである。
国家公務員倫理法が主として規律するのは、公務員が何を受け取ったかである。外国影響力透明化制度が明らかにしようとするのは、働きかける者が誰のために活動しているかである。
国家公務員倫理法の義務の名宛人は、基本的に職員である。外国主体のために働きかける民間主体に、その依頼関係や活動内容を開示させる制度ではない。
したがって、検討すべきなのは二つの制度のどちらを選ぶかではなく、両者をどのように並立させ、どのような調整措置を加えるかである。
2 基本構造――並立型
基本となるのは、国家公務員倫理法と外国影響力透明化制度を別の制度として並立させる考え方である。
国家公務員倫理法は、公務員による贈与、接待、報酬その他の利益の受領を規律する。
現行法では、本省課長補佐級以上の職員が事業者等から一件5000円を超える贈与や一定の報酬を受けた場合、国家公務員倫理法6条に基づき贈与等報告書を提出する。そのうち一件2万円を超えるものは、同法9条に基づく閲覧の対象となる。
これに対し、外国影響力透明化制度は、外国主体の指示、依頼又は資金提供を受けて政策的活動を行う者に、外国主体との関係や活動内容を開示させる。
国家公務員倫理法から分かるのは、公務員にどのような利益が流入したかである。外国影響力透明化制度から分かるのは、政策的働きかけの背後にどの外国主体が存在するかである。
前者は利益の流入を示し、後者は影響力の出所を示す。
また、国家公務員倫理法が直接対象とするのは国家公務員である。外国主体による影響活動は、国会、政党、審議会、地方公共団体、大学、シンクタンク等を通じても行われ得る。
したがって、倫理法の対象範囲を拡張するだけでは、多様な経路を横断して外国主体との関係を開示させることは難しい。並立型が必要となるのは、規律する行為だけでなく、義務を負う者の範囲も異なるためである。
他方、同じ会合や旅行について複数の報告が必要となる可能性もある。重複報告を避けつつ情報の空白を生じさせないよう、報告項目やデータの連携方法を検討する必要がある。
3 補完措置①――現職公職者型
並立型を採用しても、現職公職者が外国主体の代理人として活動できるのかという問題は残る。
現職者については、外国主体との関係を登録・公開すれば足りるのか、それとも公務員としての地位と外国主体の代理人という地位の併存自体を認めないのかが問題となる。
米国では、公務員倫理規制とFARAが別制度として存在する。
FARAは、外国主体の命令、依頼、指示又は支配の下で、政治活動、広報活動、政治コンサルティング、政府機関への利益代表等を行う者を、一定の場合に登録させる。22 U.S.C. §§611(c)、612である。
さらに、18 U.S.C. §219は、連邦の公職者がFARA上登録を要する外国主体の代理人等として活動することを原則として禁止する。一定の特別政府職員については、所属機関長による認証を条件とする例外がある。
米国制度は、倫理規制と外国影響の透明化を分けた上で、現職公職者には兼任の禁止・制限を加える構造である。
日本で同様の措置を採る場合には、一般の国家公務員だけでなく、特別職、非常勤職員、審議会委員等をどこまで対象に含めるかが問題となる。
4 補完措置②――退職公職者型
退職公職者については、現職者と同じ禁止ではなく、登録・公開による透明化が中心となり得る。
豪州FITSAは、外国主体のために行われる政治的・政府的影響活動を登録対象とする。
同法22条・23条は、元閣僚や一定の元公職者による外国主体のための活動について特則を置く。退職後の活動を登録・公開によって可視化する発想である。
日本では、法律だけでなく、省令、告示、通達、ガイドライン及び行政解釈が事業活動に大きな影響を与える。
例えば、元省庁職員が、かつて担当した規制分野について外国主体から委託を受け、通達の運用や担当部署への説明方法を助言する場合である。肩書だけを見ても、その行政経験や人的関係が働きかけにどの程度利用されているかは分かりにくい。
退職公職者について外国主体との関係や活動内容を登録・公開させる方法には、日本の行政実務との関係でも独自の意味がある。
もっとも、正当な助言活動まで過度に規制すれば、人材の流動性や専門知識の活用を妨げる。対象となる地位、退職後の期間、活動の種類を限定する必要がある。
5 適用除外による境界調整
現職者・退職者に対する補完措置は、特定の者に追加的な義務を課すことによって制度の対象を広げる仕組みである。
これに対し、適用除外は、正当な活動や一定の主体を登録義務から外すことによって、制度の対象を絞る仕組みである。並立型を実際に機能させるには、対象を広げる調整と限定する調整の双方が必要となる。
英国FIRSは、外国勢力との取決めに基づく一定の活動を登録させる一方、National Security Act 2023 §73及びSchedule 15に適用除外を置いている。
外交使節団や領事機関等に関する活動については、Schedule 15 para. 3が特則を定める。
これは、外国政府との関係を広く対象としながら、正規の外交活動まで登録制度に取り込まないための境界設定である。
日本でも、正当な政策提言、外交、通商、学術交流等まで疑わしい活動であるかのように扱われないよう、登録対象と適用除外を明確にする必要がある。
6 日本にあてはめると
日本における制度設計の基本的な出発点は、国家公務員倫理法と外国影響力透明化制度を並立させることである。
公務員に対する利益供与は国家公務員倫理法によって規律し、外国主体のために政策的活動を行う者には、別の制度によって関係と活動内容を開示させる。
その上で、現職公職者には兼任の禁止・制限を設けるのか、退職公職者には登録・公開を求めるのかを検討する。
さらに、正規の外交活動や通常の政策提言をどこまで除外するかを定めなければならない。
国家公務員倫理法との役割分担を考えることは、既存制度で足りるか、新制度が必要かという二者択一ではない。
基本となるのは、公務員に流入する利益を倫理法で規律し、外国主体との関係を別の透明化制度で開示する並立型である。
制度設計の核心は、透明化の対象を広げること自体ではない。必要な情報を可視化しながら、正当な政策形成への参加を妨げない境界をどこに引くかにある。
