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【論点】緊急時の特例をどのような場合に認めるか

▶︎日本版FARA全体の論点は、以下で体系的に整理している。
 → 外国代理人登録法(論点整理・まとめ)

1. 問題の所在

外国影響力規制制度では、外国主体のために行われる一定の活動について登録や情報公開を求めることが一般的である。しかし、大規模災害、感染症の流行、武力紛争、テロ、邦人保護その他の危機的状況においては、迅速な対応が求められる場合がある。

このような場面においても通常どおり登録義務を課すべきか、それとも一定の場合には特例を認めるべきかは制度設計上の重要な論点である。

もっとも、外国による影響力行使や情報工作は危機時に活発化する傾向がある。そのため、例外を広く認めすぎれば制度の実効性が損なわれるおそれがある。

問題は、緊急時に特例を認めるべきか否かではなく、どのような条件の下で、誰の判断により、どの範囲の特例を認めるべきかという点にある。

2. 論点の分解

選択肢

A案 法律で定めた限定的な例外のみ認める

法律に明記された例外事由のみを認め、それ以外の特例は認めない考え方である。透明性と予測可能性を重視する。

B案 法定要件を満たす場合に自動的な特例を認める

災害救援、人道支援、医療支援、邦人保護等について、法律上の要件を満たした場合には特例を適用する考え方である。行政機関の個別判断は不要とする。

C案 行政機関による個別の特例認定を認める

担当大臣、規制当局又は国家安全保障機関等が、個別事案ごとに特例の適用を認める考え方である。柔軟性を重視する。

考慮要素

迅速性

危機対応において登録手続が支障となる可能性があるか。

透明性

外国主体による活動の可視化をどの程度重視するか。

予測可能性

活動主体が事前に適法性を判断できるか。

行政裁量

特例認定を行政機関に委ねることの妥当性はあるか。

濫用可能性

例外規定が外国による影響力行使の隠れ蓑として利用される危険があるか。

国家安全保障

危機時こそ外国の影響活動を厳格に監視すべきか。

3. アメリカ(主にFARA)でどう扱われているか

FARAには一般的な緊急時特例は存在しない。

22 U.S.C. §612(a)は外国主体の代理人に登録義務を課しており、危機時であることを理由として登録義務を免除する規定は設けられていない。

また、22 U.S.C. §613には外交官や領事官に関する同条(a)、私的かつ非政治的活動に関する同条(d)、一定の条件を満たすLDA登録者に関する同条(h)等の免除規定が存在するが、これらは平時から適用される構造的な免除であり、緊急時特例ではない。

したがって、FARAはA案 法律で定めた限定的な例外のみ認めるに最も近い。

もっとも、司法省は一般的な執行裁量を有しており、個別事案に応じた柔軟な運用が行われる余地はある。しかし、これは制度上の特例ではなく、あくまで執行上の判断である。

なお、アメリカの国家安全保障法制全体を見ると、対外制裁を所管する財務省外国資産管理室(OFAC)のライセンス制度のように、行政機関が個別に例外を認める制度も存在する。ただし、これは外国影響力規制とは異なる法体系に属する制度である。

4. 諸外国ではどうなっているか

英国

National Security Act 2023に基づく外国影響力登録制度(Foreign Influence Registration Scheme)は、一般的な緊急時特例を設けていない。危機時であっても登録制度を維持するという発想が基本であり、A案に近い。

一方で、英国の制裁法制では、担当当局によるライセンス制度が採用されており、一定の場合に個別の許可が認められている。この制度思想はC案に近い。

オーストラリア

Foreign Influence Transparency Scheme Act 2018は、外交活動や法律業務等の免除規定を設けているが、包括的な緊急時免除は認めていない。外国影響力規制としてはA案に近い。

他方、オーストラリアの制裁法制では、外務大臣による許可制度が存在し、一定の場合に個別例外が認められている。この点ではC案に近い制度が存在する。

カナダ

2024年の外国干渉対策法(An Act respecting countering foreign interference)によって導入された外国影響力透明化制度は、透明性確保を基本理念としている。現時点では包括的な緊急時特例は採用されておらず、A案に近い。

この制度は、外国による民主主義への介入や影響力行使への対抗を目的としており、危機時であっても透明性を維持する方向性が強い。

フランス

Loi n° 2024-850 du 25 juillet 2024 visant à prévenir les ingérences étrangères en France は、外国による干渉への対抗を目的としている。危機時こそ透明性を重視する発想が強く、A案に近い。

EU

EUでは、民主主義擁護パッケージ(Defence of Democracy Package)の一環として、第三国のために行われる利益代表活動の透明化制度が検討されている。2026年6月時点では制度設計に関する議論が継続しているが、現在の提案は透明性確保を重視するものであり、A案に近い方向性を示している。

もっとも、EUの制裁法制では、人道支援や医療支援等について法律上の要件を満たす場合に例外を認める制度が存在する。この制度思想はB案に近い。

また、加盟国当局による個別許可制度も広く用いられており、この点ではC案に近い制度も採用されている。

ただし、外国影響力規制制度そのものにおいて、B案のような法定要件による自動的特例を採用する例は現時点では確認されておらず、主として制裁法制等の国家安全保障法制に見られる制度思想である。

5. 日本にあてはめると

日本版FARAや外国影響力規制制度を導入する場合、緊急時特例をどのように設計するかは重要な論点となる。

A案を採用した場合、制度の透明性と予測可能性は高まる。他方で、災害対応や人道支援において柔軟性を欠く可能性がある。

B案を採用した場合、法定要件を満たす人道支援活動等について迅速な対応が可能となる。他方で、どの活動を対象とするかという線引きが問題となる。

C案を採用した場合、予測困難な危機に柔軟に対応できる。しかし、行政裁量が拡大し、恣意的運用や透明性の低下が懸念される。

さらに、日本でC案を採用する場合には、義務違反に刑罰や過料を伴う制度との関係で、罪刑法定主義や明確性の原則との緊張関係が生じる可能性がある。そのため、特例認定の基準や手続をあらかじめ明確化する必要がある。

また、日本には災害対策基本法に基づく災害緊急事態の布告、新型インフルエンザ等対策特別措置法に基づく緊急事態宣言、事態対処法に基づく武力攻撃事態等の認定などの危機管理法制が存在する。B案又はC案を採用する場合には、これらの既存制度と連動させることにより、濫用リスクを抑制することも考えられる。

6. 考え方の整理

この論点では、迅速性、透明性及び柔軟性が対立している。

比較法的に見ると、外国影響力規制制度そのものについては、法律で定めた限定的な例外のみを認めるA案が圧倒的に主流である。これは、危機時こそ外国による影響力行使や情報工作のリスクが高まるとの認識が共有されているためである。

他方、制裁法制その他の国家安全保障法制に目を向けると、法定要件を満たす場合に自動的な例外を認めるB案や、行政機関による個別許可を認めるC案も広く採用されている。

もっとも、これらは外国影響力規制とは異なる法制度であり、その発想をどこまで取り入れるべきかについては慎重な検討が必要である。

結局のところ、この論点は、危機時における外国影響力規制の実効性と、迅速な危機対応との均衡をどのように図るかという問題に帰着する。日本が制度設計を行う場合には、外国影響力規制における国際的な主流を踏まえつつ、既存の危機管理法制との整合性も考慮する必要がある。

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