見出し画像

【論点】「日本版FARAは安全保障法制なのか――透明性と国家安全保障の交差点」

▶︎日本版FARA全体の論点は、以下で体系的に整理している。
 → 外国代理人登録法(論点整理・まとめ)

1. 問題の所在

外国影響力規制は、安全保障法制なのであろうか。それとも、民主主義の透明性を確保するための情報公開法制なのであろうか。

この問いは、単なる制度分類の問題ではない。安全保障法制として理解すれば、国家主権の保護、外国政府による干渉への対抗、情報工作の防止といった目的が前面に出る。他方、透明性法制として理解すれば、活動そのものを禁止するのではなく、「誰のために活動しているのか」を市民や政策決定者に明らかにすることが中心となる。

ここには、国家を守る必要性と、政治的表現や国際交流を不当に萎縮させない必要性との間の緊張関係が存在する。外国からの影響力は民主主義に対する脅威となり得る一方、外国との関係を持つ活動を広く疑わしいものとして扱えば、研究活動、報道活動、市民活動、企業活動などまで萎縮しかねない。

問題は、「外国の影響力を防ぐべきか」ではない。むしろ、「外国の影響力を禁止の対象として捉えるのか、それとも開示の対象として捉えるのか」にある。

2. 論点の分解

(1) 選択肢

A案 透明性法制型

外国本人のために政治的・政策的活動を行う者に登録・開示義務を課すが、活動自体は原則として禁止しない方式である。

米国の外国代理人登録法(FARA)やオーストラリアの外国影響力透明化制度(FITS)は、この類型に近い制度である。

この案では、外国影響力規制は「危険な活動を排除する制度」ではなく、「影響力の出所を可視化する制度」として理解される。

B案 安全保障法制型

外国政府や外国権力による影響力行使を、国家安全保障上のリスクとして位置づける方式である。

英国の外国影響力登録制度(Foreign Influence Registration Scheme:FIRS)は、この方向性を強く示している。制度自体がNational Security Act 2023の一部として規定されており、安全保障との結びつきが明確である。

この案では、透明性は重要であるが、それ自体が目的というよりも、安全保障上の脅威を管理するための手段として位置づけられる。

C案 一般ロビイング規制型

外国影響力を独立の安全保障問題として扱うのではなく、一般的なロビイング透明化制度の中で処理する方式である。

EU透明性登録制度、フランスの利益代表者登録制度、カナダのLobbying Actなどは、この方向性に近い制度と位置づけることができる。

この案では、外国性を過度に特別視しないため制度の中立性は高いが、外国政府による特殊な影響力行使を十分に把握できるかという課題が残る。

(2) 考慮要素

国家安全保障と政治的自由

外国政府による秘密の影響力行使は、選挙や政策形成に影響を与え得る。他方で、規制対象を広げすぎれば、外国との関係を持つ研究者や企業、NGOなどの活動まで萎縮する可能性がある。

禁止か開示か

安全保障法制として理解する場合、「危険な活動を止める」という発想が強くなる。他方、透明性法制として理解する場合、「活動は許容するが、その背景を開示する」という発想になる。

外国政府と外国企業を同じに扱うか

外国政府による影響力行使と、外国企業による通常の政策提言を同列に扱うべきかは容易な問題ではない。国有企業や政府系団体など、その境界は必ずしも明確ではない。

透明性の実効性

登録制度を導入しても、登録しない者には効果が及ばない。透明性制度の実効性は、登録義務そのものよりも、執行体制や制裁制度に大きく依存する。

3. アメリカ(主にFARA)でどう扱われているか

米国FARAは、歴史的には安全保障上の懸念から制定された制度であるが、その制度構造は登録・開示を中心としている。

FARAの中核規定である22 U.S.C. §612(a)は、外国本人の代理人となった者に対し、原則として登録声明の提出を義務づけている。同項柱書は登録義務を定め、その後の各号において、登録者の情報、外国本人の情報、活動内容、契約関係、所有・支配関係、資金関係等の記載事項を詳細に列挙している。

また、22 U.S.C. §612(b)は、登録後も6か月ごとに補充報告書の提出を求めている。

さらに、22 U.S.C. §614(a)及び(b)は、外国本人のために配布される情報資料(かつて「political propaganda」と呼ばれていたもの)について、提出義務及び表示義務を定めている。

違反に対しては、22 U.S.C. §618(a)が故意の虚偽記載等に対する刑事罰を定めているほか、22 U.S.C. §618(f)は司法長官による差止請求を認めている。

このように、FARAは安全保障上の問題意識を背景に持ちながらも、制度構造としては、A案である透明性法制型に最も近い制度である。

4. 諸外国ではどうなっているか

英国

英国は、B案である安全保障法制型に近い制度を採用している。

Foreign Influence Registration Scheme(FIRS)は、National Security Act 2023 Part 4に規定されている。

政治的影響層(Political Influence Tier)では、外国権力との取決めに基づき政治的影響活動を行う場合、その取決めを原則として28日以内に登録しなければならない。

他方、強化層(Enhanced Tier)では、指定された高リスク外国権力との取決めについて、原則として10日以内の登録が求められる。

登録対象は個々の活動ではなく、外国権力との取決めそのものである。

オーストラリア

オーストラリアは、A案である透明性法制型に近い制度を採用している。

Foreign Influence Transparency Scheme Act 2018は、外国本人のために一定の政治的又は政府的影響活動を行う者に登録義務を課している。

制度の目的は、外国影響力がオーストラリアの政治や政府に及ぼす影響を公衆に可視化することにある。

活動そのものを禁止するのではなく、その背景を開示させる点に特徴がある。

カナダ

カナダは、伝統的にはC案である一般ロビイング規制型を採用してきた。

Lobbying Act第5条第1項は、依頼者のために報酬を得て活動するコンサルタント・ロビイストに登録義務を課している。

他方、企業や団体の内部ロビイストについては、第7条第1項以下において別途規律されている。

もっとも、2024年にはForeign Influence Transparency and Accountability Act(FITAA)が制定された。

FITAAは外国国家等との取決めに基づく一定の影響活動について登録制度を導入するものであるが、2026年6月現在、制度はなお施行されていない。

そのため、カナダは一般ロビイング規制型から、外国影響力に特化した透明性制度へ移行しつつある段階にあると評価できる。

フランス

フランスは、C案である一般ロビイング規制型を基礎としつつ、近年はA案である透明性法制型の要素を強めている。

従来から利益代表者登録制度が存在していたが、近年の外国干渉対策法制の整備により、外国国家等のために行われる影響活動についても透明性確保が図られる方向に進んでいる。

その特徴は、一般ロビイング規制を基盤としつつ、外国影響力規制を追加的に構築している点にある。

5. 日本にあてはめると

日本には、政治資金規正法、公職選挙法、国家公務員倫理法などが存在する。

しかし、外国本人のために行われる政治的・政策的活動について、包括的な登録・開示制度は存在していない。

A案を採用する場合、日本版FARAは透明性法制として設計されることになる。この場合、活動そのものを禁止しないため、表現の自由や学問の自由との衝突は比較的小さい。

B案を採用する場合、安全保障法制としての性格が強くなる。その結果、外国政府による秘密工作への対応としては説明しやすくなるが、監視制度として受け止められる可能性も高まる。

C案を採用する場合、まず一般的なロビイング登録制度を整備し、その中で外国本人のための活動を追加的に開示させることになる。この方式は日本の既存制度との整合性は高いが、外国干渉への対応としては不十分との評価もあり得る。

日本特有の問題としては、ロビイング透明化制度そのものが存在しないことである。諸外国の多くは一般ロビイング規制を基礎として外国影響力規制を構築しているが、日本にはその土台がない。

6. 考え方の整理

外国影響力規制は、安全保障法制としての側面と、透明性法制としての側面を併せ持つ制度である。

安全保障を重視すれば、制度は外国勢力による干渉を防ぐための防御装置となる。他方、透明性を重視すれば、制度は市民や政策決定者に判断材料を提供する民主主義のインフラとなる。

重要なのは、外国との関係そのものを問題視することではない。現代社会において、外国政府、外国企業、外国団体との関係は不可避である。

問題となるのは、その関係が見えないまま政治過程や政策形成過程に影響を及ぼすことである。

では、日本が将来外国影響力規制を導入するとして、その制度は国家安全保障を守るための制度として設計されるべきなのであろうか。それとも、民主主義の透明性を確保するための制度として設計されるべきなのであろうか。そして、その二つの価値をどのように両立させるべきなのであろうか。

いいなと思ったら応援しよう!