【論点】日本版FARAは誰を規制し、誰を除外するのか――外国代理人登録制度における適用除外の考え方
1. 問題の所在
外国代理人登録制度を設計するとき、最初に問題となるのは「誰を規制対象とするか」である。しかし、それと同じくらい重要なのが、「誰を規制対象から外すか」である。
外国政府や外国企業による影響力行使を可視化することには大きな意味がある。誰が、誰のために、どのような働きかけをしているのかが見えなければ、有権者も、議会も、行政も、適切な判断を行うことができない。
しかし、すべての外国関連活動を登録対象にすることが適切とは限らない。外交官による通常の外交活動、弁護士による法的代理、大学間の共同研究、宗教活動、人道支援活動、通常の商業活動まで登録対象にすれば、制度は透明性を確保するための手段ではなく、社会活動そのものを萎縮させる装置となりかねない。
ここに、適用除外という論点が生じる。
もっとも、近年の外国影響力規制においては、「何をしているか」という活動の内容だけでなく、「誰のためにしているか」という外国主体との関係性も重視されるようになっている。たとえ学術活動であっても外国政府の指示や資金提供の下で行われていれば問題視されることがある一方、政治的な発言であっても外国主体との関係がなければ通常の言論活動として保護されるべき場合がある。
したがって、適用除外の問題は、単に活動の種類をどう分類するかという問題ではない。透明性、表現の自由、学問の自由、外交上の必要性、国家安全保障といった複数の価値の均衡をどこに求めるのかという問題なのである。
2. 論点の分解
(1)選択肢
A案 広範な類型別適用除外を置く案
外交活動、商業活動、宗教活動、学術活動、芸術活動、法的代理などについて、あらかじめ類型ごとに適用除外を設ける方法である。
この考え方は、米国のFARAに典型的に見られる。どの活動が対象外となるのかが法律上比較的明確であるため、予測可能性が高いという利点がある。
他方で、適用除外が広くなりすぎると、本来可視化しようとしていた活動まで制度の外に流出し、透明性確保という制度目的が弱体化するおそれがある。
B案 限定的な公的活動のみ除外する案
外交官や領事官などの公的活動に限定して適用除外を認め、それ以外の活動は原則として登録対象とする方法である。
近年のフランスの外国影響力規制やカナダの外国影響力透明化制度は、この方向に近い。
透明性の最大化に資する反面、学術活動、報道活動、法律業務などに対する萎縮効果が問題となる。
C案 対象活動自体を限定する案
登録対象となる活動そのものを狭く定義し、それ以外の活動は登録対象外とする方法である。
EU透明性登録制度は、この発想に近い。
もっとも、EU透明性登録制度は外国影響力規制ではなく、利益代表活動一般の透明化制度である。そのため、外国主体規制の直接の比較対象ではないが、登録対象活動と対象外活動の境界線をどのように設計するかを考える上では参考になる。
D案 外国主体の属性に応じて規制強度を段階化する案
活動内容だけでなく、外国主体の属性に応じて規制の強度を変える方法である。
すべての外国主体に一定の登録義務を課しつつ、特定の外国政府や外国政府系主体については追加的な規制や厳格な登録義務を課す制度がこれにあたる。
英国の外国影響力登録制度(FIRS)や、近年の米国におけるFARA改革論は、この方向性を示している。
この案は安全保障上の実効性が高い反面、どの外国主体を特別扱いするのかという政治的判断を制度に持ち込むことになる。
(2)考慮要素
透明性と過剰規制
外国影響力規制の目的は、活動を禁止することではなく、活動の背景を可視化することである。
しかし、登録義務には事務負担やレピュテーション上の影響が伴う。透明性を追求すればするほど、自由な社会活動を萎縮させる危険も高まる。
外交活動との関係
外交官や領事官の活動は、外交関係に関する国際法や国内法の枠組みによってすでに一定程度可視化されている。
そのため、通常の外交活動を登録対象とする必要性は相対的に減退する。
もっとも、外交活動と世論形成活動や政策形成活動との境界は必ずしも明確ではない。
弁護士・法的代理との関係
外国主体も裁判や行政手続において代理人を必要とする。
そのため、法的代理活動を適用除外とする制度は少なくない。
しかし、法的代理という名目で政策形成への働きかけが行われる場合もあり、どこまでを除外対象とするかは容易ではない。
学術・報道・宗教活動との関係
学術交流、報道活動、宗教活動、文化交流は、国境を越えて行われること自体に社会的価値がある。
他方で、外国政府がこれらの活動を通じて影響力行使を試みることもある。
自由な活動の保護と透明性確保のバランスが問題となる。
商業活動との関係
通常の商業活動まで登録対象とすれば、企業活動への影響は大きい。
しかし、外国政府系企業や国有企業による活動は、純粋な商業活動と政策的影響力行使との区別が難しい場合がある。
外国主体との関係性
近年の外国影響力規制では、「何を行ったか」だけでなく、「誰のために行ったか」が重視される傾向にある。
外国政府との契約関係、資金関係、指揮命令関係などの有無は、規制対象を決定する重要な要素となっている。
同じ活動であっても、外国主体との関係性によって評価が大きく変わることがある。
関係性の立証可能性
もっとも、関係性を重視する制度設計には固有の困難も存在する。
外国政府との明示的な契約や指揮命令関係が存在する場合は比較的判断しやすいが、現代の影響力行使は必ずしもそのような形を取らない。
シンクタンクへの寄付、研究資金の提供、インフルエンサーや第三者団体を通じた世論形成など、形式的には独立した活動に見える場合も少なくない。
そのため、「誰のために活動しているのか」という関係性を法的にどのように立証するかは、各国の外国影響力規制に共通する課題となっている。
さらに、制度設計においては、当事者にどこまで説明責任や立証責任を負わせるのか、あるいは行政機関にどこまで調査権限を付与するのかという問題も避けて通ることができない。関係性を重視する制度ほど、透明性の確保と行政権限の拡大との均衡が問われることになる。
3. アメリカ(主にFARA)でどう扱われているか
米国の外国代理人登録法(FARA)は、広範な類型別適用除外を採用しており、全体としてはA案に近い制度である。
FARAの適用除外は22 U.S.C. § 613に規定されている。
22 U.S.C. § 613(a)は外交官および領事官を、同条(b)および(c)は一定の外国政府職員やその補助者等を適用除外としている。
同条(d)は真正な商業活動や一定の人道支援活動を対象外としている。
同条(e)は宗教、学術、科学、芸術活動を適用除外としている。
また、同条(g)は一定の法的代理活動を適用除外としている。
さらに、同条(h)は、一定の場合にロビイング開示法(Lobbying Disclosure Act)による登録を行った者についてFARA登録を免除している。
もっとも、この免除は外国主体一般について認められるものではない。外国政府または外国政党を本人とする場合には利用することができない。
したがって、この規定は外国企業等による一般的なロビイング活動についてはLDAへの一本化を認める一方、外国政府や外国政党による影響力行使についてはFARAの枠組みに残す制度設計となっている。
もっとも、近年問題となっているのは、外国政府との明示的な契約や指揮命令関係を伴わない影響力行使をどこまで把握できるかである。この点はFARAに限らず、各国の外国影響力規制に共通する課題となっている。
また、近年の米国では、中国やロシア等による外国影響力行使への警戒感の高まりを背景として、LDA免除の見直しやFARAの強化を求める議論も継続している。
その意味で、現行制度はA案に近いものの、近年の制度改革論はD案に接近する傾向を示しているとも評価できる。
4. 諸外国ではどうなっているか
英国
英国の外国影響力登録制度(Foreign Influence Registration Scheme: FIRS)は、2023年国家安全保障法に基づいて導入された制度である。
同制度は、政治的影響活動を対象とする「政治的影響力ティア」と、特定の外国権力やその支配下にある主体を対象とする「強化ティア」の二層構造を採用している。
適用除外はSchedule 15等に規定されている。
英国型の特徴は、すべての外国権力を対象とする基本的な登録制度の上に、特定の外国主体に対する追加的規制を積み上げている点にある。
そのため、英国型はD案に近い制度と位置づけることができる。
フランス
フランスでは、2024年の外国干渉対策法を受けて、外国主体のために行われる影響活動について新たな登録制度が導入された。
2025年7月31日の施行令により制度の詳細が整備され、2025年10月から運用が開始されている。また、2026年1月からは活動実績の申告制度も本格的に開始されている。
この制度は、従来のサパンII法による一般的なロビイング規制とは別個の制度として設計されている。
対象活動を一定程度限定している点ではC案的要素を有する一方、適用除外を比較的限定的に設計している点ではB案的要素も有している。したがって、フランス型はB案とC案の複合型として理解することができる。
カナダ
カナダでは、Foreign Influence Transparency and Accountability Act(FITAA)が成立している。
もっとも、本稿執筆時点では制度の運用開始前であり、現在は制度整備の最終段階にある。
同法6条は、外交官、領事官、公式代表者、外国主体の職員が公然と公式資格で行動する場合等について適用除外を認めている。
もっとも、同制度については、「外国主体との取決め」の範囲が広すぎるとの批判や、法律業務に対する適用除外が十分ではないとの指摘も存在する。
とりわけ、法律業務に対する適用除外が限定的である場合、弁護士・依頼者間の秘匿特権(Solicitor-Client Privilege)との緊張関係が生じ得ることから、この点はカナダにおける重要な憲法上・実務上の論点の一つとなっている。
カナダ型は、限定的な適用除外を認めるB案に近い制度である。
EU
EU透明性登録制度は、外国影響力規制ではなく、利益代表活動一般の透明化制度である。
同制度は、EUの政策形成や意思決定に影響を与えることを目的とする活動を登録対象としている。
一方で、一定の法的助言、司法手続における代理活動、個人的活動等は対象外とされている。
EU型は、活動内容そのものを定義することによって対象範囲を画定するという点で、C案に近い制度である。
オーストラリア
オーストラリアのForeign Influence Transparency Scheme Act 2018は、外国主体との関係に基づく一定の活動について登録を求める制度である。
同法は、外交活動や一定の法的代理活動などについて適用除外を設けている。
オーストラリア型は、活動類型による適用除外を認めつつ、外国主体との関係性にも着目する制度であり、A案とB案の中間的な性格を有している。
5. 日本にあてはめると
日本において外国代理人登録制度を導入する場合、適用除外の設計は制度全体の成否を左右する重要な論点となる。
まず、日本法には「ロビイング」や「利益代表活動」を一般的に定義する法律が存在しない。
そのため、EU型のように登録対象活動を限定する制度を導入しようとしても、その前提となる概念自体が十分に確立されていないという問題がある。
また、日本には外為法、政治資金規正法、経済安全保障推進法等の制度が存在する。
これらは外国影響力規制とは異なる目的を有するものの、外国主体による活動という点では対象領域が部分的に重なりうる。
したがって、日本版FARAを導入する場合には、既存制度との役割分担を整理する必要がある。
また、日本版FARAを透明化制度として構想する場合、政治資金規正法との関係も重要な論点となる。
政治資金規正法22条の5は、外国人および外国法人による政治献金を原則として禁止している。これは外国主体の属性に着目した外形的な規制である。
これに対し、日本版FARAが対象とするのは、日本国籍を有する個人や団体であっても、外国主体のために活動する場合には透明化の対象としようとするものであり、外国主体との関係性に着目した実質的な規制である。
したがって、日本版FARAを導入する場合には、外国主体による影響力行使を「禁止」によって規律するのか、「透明化」によって規律するのかという問題に加え、外形規制と実質規制との関係をどのように整理するのかという課題も生じる。
さらに、日本では表現の自由、学問の自由、信教の自由、報道の自由との関係も重要な論点となる。
外国主体との関係を理由として登録義務を課す場合、その対象範囲が不明確であれば、活動の萎縮を招く可能性がある。
特に、言論活動や政策提言活動に関わる制度においては、憲法上の明確性の原則との関係が問題となる。登録対象や適用除外の基準が曖昧な場合、行政機関の裁量が過度に拡大し、予測可能性を損なうおそれがあるからである。
他方で、外国主体による影響力行使を可視化する制度がほとんど存在しないという現状もある。
A案を採用すれば予測可能性は高まるが、制度の実効性が弱まる可能性がある。
B案を採用すれば透明性は高まるが、自由な活動への影響が問題となる。
C案を採用する場合には、まず登録対象活動そのものを定義する必要がある。
D案を採用する場合には、どの外国主体を特別扱いするのかという政治的判断が避けられない。
日本における制度設計は、これらの選択肢の間でどのような均衡点を見いだすかという問題になる。
6. 考え方の整理
適用除外は、制度の例外ではない。
むしろ、その制度が何を守ろうとしているのかを最もよく示す部分である。
透明性を重視すれば、適用除外は狭くなる。
自由な社会活動を重視すれば、適用除外は広くなる。
また、近年の外国影響力規制では、活動の種類だけでなく、外国主体との関係性や、外国主体そのものの属性にも注目が集まっている。
その結果、適用除外の議論は、「商業活動か、学術活動か」といった分類の問題から、「誰のために活動しているのか」「どのような関係の下で活動しているのか」という問題へと広がりつつある。
もっとも、関係性を重視する制度設計は、新たな課題も生み出す。外国主体との関係をどのように認定するのか、その判断を誰が行うのか、そしてその基準をどこまで明確に定めることができるのかという問題である。
結局のところ、この論点で対立しているのは、外国影響力の可視化という公共的利益と、自由で開かれた社会を維持するという価値である。
適用除外を広く認めれば透明性は弱くなる。
適用除外を狭くすれば自由な活動への影響は大きくなる。
さらに、外国主体との関係性や属性をどこまで制度に取り込むべきかという新たな問題も生じている。
では、日本版FARAを設計するとした場合、私たちは何を可視化し、何を自由な活動として残すべきなのだろうか。そして、その線引きを行う基準は、活動の内容なのか、それとも外国主体との関係性なのだろうか。
