【原文】富士下山ガイド「あとがき」※無料
【謝辞】
「はじめたらやめない!」これは私の師である広瀬敏通氏の言葉である。「強い志を持って始めたのであれば、最後までやり遂げなさい」という意味であると私は理解してここまでやってきた。
正直に話すと、この「富士下山」がこうして一冊の書籍となって世の中に残るということは、私が本事業を立ち上げた2005年には当然ながら思いもしなかった。名刺を差し出し「富士下山」について説明すると「えっ、下山ですか???」と苦笑されたことも何度もあった。
最初にこの事業を「おもしろい!」と言ってくださったのはアウトドアレジャープラットホームの先駆け「アウトドアレジャーそとあそび(現アソビュー株式会社)」創業者だった山本貴義氏だったことを今でも鮮明に覚えている。「だって、おもしろいもん!」という一言で、今までの苦虫を嚙むような思いは全て忘却の彼方となった。山本氏の運営するプラットホームへの掲載を足掛かりにテレビや新聞、雑誌やインターネット記事などの取材がみるみる増え、本日こうして出版の日を迎えることができたことはまさに感無量である。
また、本誌を出版するにあたって、ともに山野を歩き、話を聞いてくださった静岡新聞社出版部の鈴木淳博氏、素晴らしい写真を撮影してくださった小澤義人氏、野鳥の写真を提供してくださった佐野明美氏、渡邊義正氏他、関わってくださった全ての皆様にこの場を借りて心より感謝を申し上げたい。

【富士下山が果たしてくれる役割】
冒頭でも記した通り、富士下山はトレッキングという手法を使った環境保全活動であると私は位置づけている。
富士下山を通して、自然に親しみ、自然を理解し、自然のために行動できる人を育むことこそが富士下山の目的である。本書が山・自然を、楽しむだけの対象ではなく、叡智の源泉として敬い、畏敬の念をもって接する手助けになることができれば幸いであるし、正しい富士下山という活動にはこうした効果か少なからずあるものと信じている。

【今の富士山の問題・課題】
昨今は「リニアと水の問題」「富士山鉄道の問題」など人間と自然の知恵比べのような問題が何かと世間を賑わせている。科学技術の進歩は人間生活をとても便利にしてくれる一方で、その陰で傷ついてきた自然がどれだけあっただろうか。便利と不便を天秤にかけて議題にすることは至って合理的であるが、便利と自然を天秤にかけるような議論が平行線を辿るのは必然的ではないだろうか。
私たち人間の叡智の源は常に自然であり、享受することでしかその叡智に触れることはできないのだと私は考えている。自然から得た人間の叡智が未来の地球のために活用されることに期待したい。

【富士山エコツアーのこれから】
その上で、私たちができることは何であろうか?
私は科学者ではないが、自然の中での仕事を生業とするとき、自然科学を学んでおくことは大変重要である。なぜなら、基礎科学が導き出す答えはいつもその時代の真理であり、正確なインタープリテーション(自然解説活動)を構築するためには欠かすことができないから。
そしてもう一つとても大切なのは愛情である。人を人たらしめているものは感情であり、感情を揺さぶられることで愛情が醸成される。この感情を揺さぶる瞬間には、科学と情緒を繋ぐ人の存在が必要不可欠である。
私たち自然ガイドが果たす役割は登山道の案内ではなく、人と自然を繋ぐことであると信じている。
これからも「富士下山」を通して参加者の「自然を愛するという感情」を醸成していきたい。
そう、「はじめたらやめない!」のだ。

