「おまえもか。」
カップルカウンセリングで「相手のどこに惹かれましたか?」という質問に対して、元夫スティーブは「容姿。てか、顔。」と即答していた。
知らなかった。
ちょっと、嬉しい。一目惚れだったのね。
へぇ。なるほど、なるほど。
愛が砂のようにこぼれ落ちていったのは、わたしがジャバ・ザ・ハットになったからですか。そうですか。
それは致し方ないことです。
はい。痩せます。離婚したあとで、すみません。
ダイエットを始めると、それまで善人だと思っていた食べ物が、次々と正体を現す。
最初に裏切られたのは春雨だった。
「春雨はヘルシー。」
これは日本国民の共通認識だと思っていた。
ところがカロリーを調べると、白米とたいして変わらないという。
おまえもか。
名前だけで勝手に透明感を出していたのか。
わたしはてっきり、ほぼ雨だと思っていた。
続いてアボカド。
「森のバター」という異名を持つ時点で、もっと警戒すべきだった。
なのにわたしは「森」と付いているから野菜みたいなものだろうと思っていた。
森は関係なかった。
ちゃんとバターだった。
さつまいももそうだ。
「食物繊維だから大丈夫。」「自然の甘さだから安心。」
そんなふうに信じていたのに、現実は「健康だけどカロリーはあるよ」という、ごもっともすぎる話だった。
健康と痩せるは、別の話なのである。健康になったとしても、二重顎は消えない。
アサイーボウルも写真が悪い。
南国のフルーツが並び、朝日まで差し込んでいて、健康そのものみたいな顔をしている。
でも、その下にはグラノーラがぎっしり詰まっていて、はちみつがちゃっかりかかっている。
元気がありすぎる。ジャバの基礎代謝は低いのだ。
スムージーもそうだ。
「野菜と果物を飲んでいます」という顔をしているが、ミキサーの中ではバナナやマンゴーが仲良く手を取り合い、気づけばコップ一杯で立派な一食分になっている。
ナッツも同罪だ。
「素焼き」「無塩」「体にいいオイルたっぷり」。健康番組で紹介されるときの肩書きが、もはや履歴書みたいに立派すぎる。
わたしはそれを「ひとつまみだけ」のつもりで小皿に出す。
コナンを見ながら手を伸ばす。
気づいたときには小皿は空になっていて、「あれ、いつの間に」と真顔になる。
深呼吸してカロリーを調べる。
ひとつまみのつもりが、ご飯一杯分だった。
体にはいい。それは間違いない。
でも、だからといって好きなだけ食べていいわけではなかった。真実はいつも一つ。食べたら、太る。
プロテインバーなんて、もはや完全に油断していた。
「バー」と付いているから、おしゃれな栄養補給だと思っていた。
裏を見たら、チョコレート菓子と仲良く肩を並べる数字が書いてある。
サプリグミも憎い。
「サプリ」という名前で近づいてくるから、お菓子だという警戒心がまるで働かない。
一日に二粒までと言われているのに、おいしすぎて三粒目に手が伸びる。
それはもうサプリではなく、おやつである。
そして、いちばん驚いたのが牛乳だった。
牛乳なんて、小学校では毎日飲まされていた。
ほぼ水みたいな存在だと思っていた。
ところがカロリーを見たら、意外としっかりある。
しかも脂肪分まで入っている。
わたしの中で牛乳は、その日から「ほぼ飲むデザート」に昇格した。
敵はポテトチップスやショートケーキだけじゃなかった。
「健康そうな顔をして近づいてくるやつ」が、一番手ごわい。
でも、よく考えると食べ物は最初から何も悪くない。
春雨は春雨として生きているし、アボカドもナッツもアサイーも、自分を低カロリーだなんて一言も言っていない。
勝手に「痩せそう」と期待していたのは、わたしだった。
拝啓、スティーブ様。只今、停滞期です。
わたしは今日も、栄養成分表示を見ながらつぶやく。
ーーーおまえもか。
