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【ショートショート】飛ぶ

 人生でいくつとも知れぬ数の段ボール箱を分解してきた。
 ネット通販が普及してからその数は飛躍的に増えた。
 だが、決定的だったのは外食チェーン店でアルバイトを始めたことだ。
 私はゴミ処理を任された。
 店内のゴミ箱と厨房のゴミ箱からゴミを回収。一箇所にまとめ、カートに乗せて地下のゴミ庫に持って行く。
 毎日、何十個という段ボール箱を解体する。
 段ボールにも個性があることがわかってきた。
 日本製の段ボール箱はたいてい作りが緻密だ。耐圧性が高くても、ツボを押せばほろほろと剥がれるように壊れていく。
 海外から運ばれてくる段ボール箱は手強かった。どんな輸送ルートにも耐えられるように設計されているのだろう。
 とくに某国から送られてくる箱はどこをどうしても分解できない。
 段ボールは樫の木のように固く、そこら中から透明な接着剤がはみ出している。鉄壁の守りだ。それでもやるしかない。
 某国と戦ううちに爪は割れ、皮膚には分厚いタコができた。
 苦労している姿を通りかかった先輩が見て、
「リクくん、やり方が違うよ」
 と言った。
「は?」
 先輩は片脚を高く上げると、激しい勢いで段ボールを踏み破った。
 そうか。解体しなくても壊せばいいんだ。
 蒙をひらかれた。
 なんとか段ボールの破壊に慣れてきたころ、いつもとは違う赤い色の段ボールが店のバックヤードに届いた。
 箱に書かれた文字を読むと、某国のものらしい。最終兵器という感じだ。
 ――いまでとはレベルが違う。いくら踏んでもびくともしない。
 私が途方に暮れていると、先輩が通りかかった。
「苦労しているみたいだな」
 先輩は分厚い安全靴で、えいっと赤い段ボール箱を踏んだ。
「ダメか……。リクちゃん、三脚を持って来て」
「はい」
 三脚を組み立て、先輩は天井近くから飛び降りた。
 ばりっ。
 裂ける音がして、赤い段ボール箱に穴が開いた。
 先輩は穴のなかに落ち、底面も破壊した。
 しん、とあたりが静まりかえる。
「せんぱーい」
 呼びかけたが返事がない。
 壊れた段ボールをどけると、ふつうの床があった。
 仕事に穴をあけて逃げることを「飛ぶ」という。
 先輩は職場で「飛んだ」と噂された。たしかに先輩は飛んだ。意味は違うが。

(了)

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