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スピーカー

 ある年、あちこちに向日葵が生えるという不思議な事が起きた。人々はその不思議な向日葵を微笑ましく見守っていた。
 そして巨大な花が天を仰いだ時、それは始まった。

『ワレワレ植物、及ビ植物ト共ニ生キル生物ノ連合ハ、人類共存カラノ脱却ヲ宣言シ、奪ワレタ権限ノ奪還ヲ開始スル事ヲ宣言スル……繰リ返ス、ワレワレ植物及ビ……』

 突如として、植物と植物に関わりの深い生物たちが人類に宣戦布告した。それはあちこちに生えた向日葵から、まるでスピーカーの様に発せられた。
 とはいえ、人々はそれが何なのかわからなかった。中にはそれに腹を立てて向日葵を引っこ抜いたりする人もいたが、多くの人々は何が起こるかわからず、不気味に思いながら状況を見守っていた。
 けれど何もしなかった訳ではない。直接的な行動を起こしたりはしなかったが、不安な気持ちを行政に向けた。警察や市役所の回線は苦情や問い合わせでパンクし、その事に憤った不安はSNSで猛威を振るい、過激な配信を繰り返す一部の人間が世間の支持を得たとばかりに暴動を起こし始めた。メディアはそれを報道し火に油を注いだ。日々そんなニュースが情報として人々の視覚と聴覚を奪っていた。

「……ねぇ、この蔦、こんなに覆い茂っていたっけ?」

 建物の壁を囲む蔦を眺め、誰かがふとそう言った。

「うわ、草ぼうぼう。」
「夏だからね。刈っても刈ってもすぐ伸びるんだよ。」

 少しの間に伸びきった雑草を見て、誰かが諦めたようにため息をついた。

 連日の騒々しい報道で目と耳を塞がれた人々は忘れていた。この騒ぎの大本が何だったのかを。

 やがて役目を終えた向日葵は変色し、茎に似合わぬ大きな頭を垂れていた。その姿に強気になった大人子供が、面白がってその茎を折る。力なく倒れ込む向日葵を見下ろし笑った。

「そういやここのところの騒ぎも、植物が反乱を起こすって言い出した事がきっかけだったよな?」
「そうだな。でも結局、何もなかった。」
「踊らされた一部の奴らが大騒ぎを起こしただけ。」
「こうやって枯れて地面に横たわるだけ。所詮は植物。手も足も出やしない。」

 人類は勝ち誇っていた。結局、植物は何もできないのだと。その思いは膨らんで、植物に報復して思い知らせてやろうという思想が無意識に芽生え始めていた。

 そして誰とでもなく始まった。好き放題伸びきった雑草の野焼きが。はじめは個人の庭。空き地。河川敷。誰かがやれば、なら自分もと広がっていく。人々の中には日々メディアを騒がせた暴動の記憶が残る。それはタカを外すには十分だった。
 許可を得ない野焼きの拡大。消防署は対応しきれず、飛び火する火災の鎮火に追われる。

 とうとう山一つを焼こうとする者も現れ、無法状態になりかけたところでやっと政府が動いた。それまで、ああでもないこうでもないと議論を続け、やっと結論が出て国民に告げた。

「この件については国を上げ全力で政府が対応します。ですので、個人的に野焼きをしたり、暴動を起こす事は厳しく取り締まります。」

 それによって、やっと秩序を取り戻したかに見えた。人々は対応が遅いと不平不満を漏らしながらも安心し、全てを任せて自分の生活に戻った。
 とはいえ政府も何をすべきか見えていなかった。植物が共存を放棄すると宣言したけれど、これと言って何かされた訳でもない。だが何もしないのでは面目が丸潰れになる。なので目に見えて人々が納得する野焼きを行う事にした。
 政府指導の野焼きは当然ながら人々の生活圏を優先的に進められた。住宅街にある空き地や遊歩道、その近辺の河川敷や海辺。生活圏から見苦しい雑草が排除されていき、人々は更に安心し、綺麗に整備された事で治安も良くなった。

 良かった良かった。
 めでたしめでたし。

 人々は安心し、政府も満足していた。

 けれど本当にそれで全て解決したのだろうか?事の発端は植物たちが「人類との共存を脱却する」という宣言だったはずだ。それに不安を煽られた人々の行動は収まったが、核心部分については何も解決していない。けれど安心感は人々から思考する力を奪った。

 全ては解決した。
 全ては過去の事である。

 誰もがそう信じて疑わなかった。

 しばらくして、あちこちで奇妙な病が発生した。喘息に似た症状で咳が止まらず、病院に人が押し寄せた。そのアウトブレイクは人々を恐怖に陥れ、人々は集団パニックになった。謎の病に対し、エンデミック地域は感染拡大防止と集団ヒステリーの封じ込めの為、緊急閉鎖され、医療研究チームが各エンデミック地域に派遣された。

「まだ原因はわからないのか?!」
「患者の肺からは未知の菌が検出されています!!」
「菌?!」
「報告します!野焼きされた土壌から菌が検出されています!」
「何だと?!」

 対応に追われる政府はその報告に言葉を失う。もしこのアウトブレイクと政府の行った野焼きが関連しているとなれば大変な事になる。慎重に捜査を行ってから結果を公表しなければならない。

 野焼きは人口の多い地域を優先的に行った。その方が人々にアピールできるからだ。それによって人々も安心感を得、環境整備もされ治安も良くなった。皆がその結果に満足していた。
 だが謎の疾患のエンデミック地域と野焼きを優先的に進めた地域は一致する。いずれそれに気付くものも現れる。

「急いで原因究明と野焼きとの因果関係を調べろ!!並行して治療法も必ず見つけるんだ!!」

 つかの間の安穏がひっくり返される。

 報道は規制され、SNSでは嘘か真かわからない話が飛び交う。その混乱はエンデミック地域以外にも拡散し、パニックから集団ヒステリーが起こり、暴動へと発展していく。
 政府は謎の病の対応に加え、暴動にも対応しなければならなくなった。政府機能は限界を迎え崩壊寸前。

「野焼きによって菌が地上に露出し、危機を感じたことから生存の為に胞子を飛ばし、感染が始まった事は避けようのない事実です!!」
「菌をどうにかする方法はないのか?!」
「報告によれば一部の雑草の根に菌が入り込み共生する事で胞子の拡散をやめるとあります!!」

 広まり続ける感染。ようやく始まった政府の情報公開。

「治療法は?!」
「抗生物質が今のところ効き症状は抑えられますが、いつ耐性を持つかわかりません。その上、芽胞化できるので一度感染した場合、完治は難しいかと……。」

 人々は気付き始めた。これが植物たちの攻撃なのだと。人間が騒いでいる間、植物たちは何もしていなかった訳ではない。着々と次の準備をしていたのだ。そして自分たちに人間が攻撃してくるのを待っていたのだ。

 一年後、またも至るところに植えた覚えのない向日葵が咲いた。大輪の花が広大な空を仰ぐ。

『ワレワレ植物、及ビ植物ト共ニ生キル生物ノ連合ハ、人類共存カラノ脱却ヲ宣言シ、奪ワレタ権限ノ奪還ヲ開始スル事ヲ宣言スル……繰リ返ス、ワレワレ植物及ビ……』


あまりふわっとしてなくてすみません……。

#風まかせ文芸部

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付加豆美 口下手の為ご無礼ながらコメント・コメント返しをする事が殆どありません。全ては作品に込めます。力量が足りない事が多いですがご了承頂けますと幸いです。

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