【中国ロック】“刺猬楽隊”(Hedgehog)~科学と生命をうたうバンド~
ロックの日
6月9日はロックの日だったらしいですね。
普段は邦楽ロックばかり聴いている筆者も、この日はSpotifyで海外のアーティストも探してみる気になった。さいきんは便利なもので、どんなジャンルの音楽でもSpotifyにはたいていプレイリストがある。そこで見つけたのが、2005年に北京で結成された中国のロックバンド、「刺猬」だ。
バンド名の読みはcìwei ツーウェイ、意味は「ハリネズミ」。英語名は「Hedgehog」(ヘッジホッグ)。要するに、ハリネズミなのだ。以下、英語名では英語名の「Hedgehog」を用いることにする。
2007年にアルバム『噪音襲撃世界』でデビューし、現在までに10枚のアルバムを発表。現在のメンバーはボーカル・ギターの趙子健を中心に、ベースの何一帆、ドラムの毛瑞婕、キーボードの野口西西の4人である。(野口西西は日本人のような名前だが、調べてもあまり個人的背景が明らかでない。)
『ファントム・ポップ・スター』(2016年)
Hedgehogのボーカル・趙子健はプログラマーとして働いた経験があるためか、歌詞には科学や自然に関連した用語がならぶ。6枚目のアルバム『幻象波普星』(ファントム・ポップ・スター)には宇宙を題材にしたコンセプト・アルバムで、表題作の「幻想波普星」は浮遊感の漂う明るい楽曲だ。
彼女は憂鬱さのあまり
彼岸へと旅立つ
真理と誘惑とを求めて
彼は神秘をまとい
ファントム・ポップ・スターからの訪問者だという
(原文:她郁闷透了/启程去彼岸/寻找真理与诱惑/他神秘莫测/自认为是幻象波普星的来客)
まさに旅立ちを感じさせるような曲からさらに、宇宙を題材にした曲がならぶ。同じく『ファントム・ポップ・スター』の「星光」は宇宙と地上の生命の関係を歌った曲だ。
生命が光に変わるとき
君と僕の瞑想をかすめ飛ぶ瞬間
目を閉じて 両手を開いて 味わおう
(中略)
あのひとのことはもう気にしないで
きらめく生命の源
死せる恒星は 万物のはじまり 讃えよう
彼らの過去は綻んだ花
君と僕の未来が呼んでいる
生命はもとより 一筋のきらめく 星の光
(原文:当生命幻化作一束光/短暂划过你我的冥想/闭好眼睛/张开双臂/去品尝//不要再考虑她是否在乎/绚烂的生命源于付出/死去的恒星/是万物之初 赞美吧//他们的过去已绽放/你我的未来在呼喊/生命本是 一道绚烂 的星光)
中略した部分も含めて歌詞を要約すると、夜空を見上げ、「君」とともに星の光を浴び、日常の忙しさを忘れて星々と万物・生命の関係に思いを馳せよう、という内容である。きらめく星々のように輝くメロディと夜空の広さを感じられる空気感が印象的だ。
Youtubeの音源はこちら↓
歌詞にある死せる恒星とは何だろう。恒星はすべて水素Hの核融合反応によって輝いているが、太陽よりも10倍ほど重い星では核融合がさらに進み、生命に必要な酸素O・炭素C・窒素Nなど重い元素が形成され(=元素合成)、最終的に鉄Feができる。
そして、天文学者の解説によれば、以下の通りである――
そしてこのような重い星の中心部は高温であるため核融合がさらに進み、マグネシウムやケイ素、鉄などが作られていく。そして、この鉄が終着点である。(131ページ)
そしてこの超新星のおかげで、宇宙に生命が誕生する必要条件のうち、おそらく最も必要なものが整えられた。恒星内部で作られた酸素や炭素、鉄などの重元素が、宇宙空間にばらまかれたのである。(134ページ)
重い恒星の死が、地球上の生命に必要な元素を供給した。それを歌詞にまとめたのが「死せる恒星は 万物のはじまり」となのだろう。
もし、Hedgehogのあらゆる曲に同様の科学的探求があるとしたら、じつは自分はその作品の半分もわかっていないのかもしれないとさえ思えてくる。
とはいえここで思い出すのが、さきに引用した天文学者・戸谷友則氏の書籍をわたしが知ったきっかけもまた、ロックなのである。近年のロックは知的な楽曲が好まれるのか……。様々な動画に出演している戸谷氏だが、書籍の出版元の講談社の規格で日本のロックバンドACIDMANの大木伸夫と対談した動画が、筆者がこの本を手にとったきっかけだった。
ACIDMANもまた宇宙や生命、科学をうたい、最新アルバム『光学』に収録の「Feel Every Love」では、鉄Feの合成を歌っている。Youtube上に公開している自作解説を聴くと、確かに歌詞で元素合成に触れていることがわかる。
Hedgehogにしても、ACIDMANにしても、歌詞だけを見ても元素合成・超新星爆発という要素は出てこない。抽象的ななかに深いメッセージを込めるのが、知らない聴衆にとってはまるでファンタジーのような世界を歌うのが、魅力なのだろう。
現代という時代は、アーティスト自らが情報を発信できる時代で、自作解説やファンによる解釈を簡単に探せるが、もしそうでなかったら、自分はこうした曲の意味を一つも知らずに聴いていたかも知れない。ほかにも同じようなバンドはあるだろうか?
『烏鴉谷』(2022年)
『幻想波普星』以降のHegdehogは、『神経元』(=ニューロン)、『生之響往』、『赤子白仙』など、科学や生命に関連するアルバムを作っている。最新アルバムは、2022年の『烏鴉谷ー暈暈衆生,命命相連 Crow Valley - It's All Connected』だ。
このタイトルは、『カラスの谷 生きとし生けるもの あらゆる命はつながっている』という意味だ。
解説によれば、かつて人々はカラスに手紙を運ばせていたが、今ではネット空間で情報をやりとりしている。つながりの価値はあいまいになり、生命を見失う…という。
「混沌開」という曲では、 「幻想しよう 素晴らしい一切のものに出会い おだやかな 期待のなかに 舞いはじめる神経細胞」 と歌い始める。生態系とネット空間を往還する物語がはじまる。
海外アーティストのライブ、いつか行ってみたい気がしてきた。そういえば、近年は日本のアーティストのライブでも、海外から来た観客の姿がる。好きなアーティストのライブに参加するためだけに、来日するファンもいるらしい。それなら、音楽というものは比較的国境を越えやすいものなのだろう。
海外の、中国語圏のロックに、はじめて興味がわいてきた。音楽に疎くてエフェクターの存在すら最近になってようやく知った筆者だが、これからは中国語圏にも着目しようか。
……と、ここまで書いて気づいたのだが、この投稿の始めには、6月9日ロックの日を出している。しかし、今は何時だろう。7月上旬だ。知らず知らず、最初に筆を下ろしてから早や1か月近い時間が経ってしまったらしい。何という……。これからは精進していこうと思った。
参考資料
・ Hedgehogの歌詞はすべて公式サイトを参照
http://ciweiyuedui.com/crow-valley/songs?la=ch
