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日本の"ホウレンソウ"は世界でも通用する

今日はトウモロコシさんと話をして考えたことについて書いてみる。

トウモロコシさん(もちろん仮名)というのは同じセール機能開発チームで働く同僚のことだ。彼はプリンシパル・テクニカル・プログラム・マネージャーというなんとも凄そうな役職に就いているのだけど、その立派な役職名に恥じない堂々とした活躍ぶりを見せている。40歳をちょっと超えたぐらいの中年白人男性の彼は、みんなのヒーローとして慕われている。大事なプロジェクトについては彼が中心となって調整をしているのが常だ。PM、エンジニア、デザイナーなんかにキレキレの指示を出す一方で、いつも冗談を言ってみんなを笑わせてもいる。オンライン会議越しによく顔を出すまだ小さい彼の息子さんもほんと可愛くて、トウモロコシさんはチームメンバーから「仕事がバリバリ出来る有能なパパ」として認識されている。世界中からトップの人材をかき集めたチームの中を見渡しても、トウモロコシさんほど優れた人物は他にそういないと思う。

トウモロコシさんは惚れ惚れするような素晴らしいプレゼンをするし、読んでいてうっとりするような英語の文章を書く。彼がアメリカで生まれ育った英語ネイティブということを差し引いたとしても、彼の卓越したコミュニケーション能力は目を見張るものがある。少なくともぼくはそう思っているし、チームメンバーの多くも同じように感じていることに疑問の余地はない。

ぼくは普段シアトルで仕事をしているけれど、エンジニアの仲間に会いにアリゾナまで出張することになった。

アリゾナといえばトウモロコシさんも働いている場所だ。彼とは普段ビデオ会議越しでしか話したことがなかったけれど、これは彼と話すいい機会になるんじゃないか。そう思いついたら居ても立ってもいられず、ぼくはトウモロコシさんにすぐメッセージ送った。

アリゾナに出張に行くことになったんだけど1対1のミーティングを入れてもいい?*

(*英語で話してるわけなのでタメ口でフランクな感じ)

すかさず返事が返ってきた。

もちろん!話すの楽しみにしてるよ!

スケジュールを確認する素振りも見せずにこの返事。ナイスガイ過ぎる。かくしてぼくはトウモロコシさんと1対1のミーティングをすることとなった。

トウモロコシさんとの会話

アリゾナの砂漠にそびえ立つ銀色のオフィスビルの中でぼくらは会った。軽い挨拶を交わして、すぐさま本題に移った。ぼくからトウモロコシさんに聞きたかった質問はこのひとつだけだった。

どうやったらぼくはもっといいPM (プロダクト・マネージャー) になれると思う?

優れたPMとして周囲から尊敬を集めているトウモロコシさんにこの質問をぶつけてみたかった。彼の視点から見たときにぼくはどんなところが足りないのだろう?

ただこの質問はさすがに直球すぎたようだ。彼がむすっと口をつぐんで考え込みはじめたときにぼくはすかさず補足した。

ぼくにはこれといった専門性がないんだ。周りのPMはMBAや大学院を出てたりして、ファイナンスやコンピューターサイエンスの分野とかで強い専門性を持ってるよね。そういう分かりやすい"武器"を持たずにどうやって彼らと戦っていくべきかってのをよく考えるんだよ。

これを聞いた途端にトウモロコシさんはきゅっと結んでいた口元を緩めて穏やかな目つきになった。そしてこうフォローした。「なんだ、そんなどうでもいいことで悩んでたのか」とでも言わんばかりに。

君はコミュニケーション能力っていう"Not Coachable"な強みを持ってるから心配することないよ。君が仕事で発揮してるタイムリーで正確なコミュニケーションは生まれ持った強みだよ。専門性は学校に通って相応の努力をすれば誰でも身に付けられるけど、そういう"Not Coachable" (= 人からは教えられない) な強みは他の人がなかなか身につけられないわけだから大切にすべきだよ。

ぼくはこの言葉を聞いて天にも昇るような気分になった。色んなプロジェクトで失敗ばかりしてるけど、あの圧倒的なコミュニケーション能力を持ったトウモロコシさんに褒められたのだからなんだか報われた気がする。お世辞でも嬉しいというやつだ。

ただこの記事が意図しているは、そんなぼくのささやかな喜びをレポートすることではない。ぼくもアホではないからトウモロコシさんの言葉には感謝したけれど、そこに一つの間違いが含まれていることもすぐに察した(それについては後述する)。

それはともかくこのトウモロコシさんの言葉を聞いてこれは大事な話だなと思った。

いわゆるGAFAMのようなアメリカの最先端テクノロジー企業で日本人としてどうやって戦っていくべきか。しかも特殊な専門性を持っていない至って普通の人間がどうやって世界のすごい奴らとしのぎを削るのか。そのヒントがトウモロコシさんの言葉には隠されてると思うからだ。

"ホウレンソウ"はMBAでは学べない

「コミュニケーション能力に秀でてる」というのは具体的にはどんなことを指すのか。ユーモアに富んだセリフでみんなを爆笑させることか。はたまたロジカルで賢そうな口ぶりで周囲を論破することか。

ぼくにそんなことは出来ない。あくまで自分にとって外国語でしかない英語でそんなパフォーマンスをしろと言われても土台ムリな話だ。

では仕事におけるコミュニケーションってなんだろう?ここでトウモロコシさんが指しているコミュニケーションとはもっと簡単なことだ。いわゆる仕事の基本とされるホウレンソウ(報告・連絡・相談)というやつだ。適切なときに、適切な相手に対して、適切なフォーマットでちゃんと仕事のコミュニケーションを取るということだ。

そんな当たり前のこと?って思うかもしれない。でも実はこれが当たり前のことではないのだ。アメリカに来て周囲の外国人のPMと仕事をして、この「ホウレンソウ」の拙さにはほとほと呆れることがある。

最初に「月次で報告します!」と高らかにアナウンスしたのに翌月から音沙汰がなくなってしまうケース。指示の内容がアバウト過ぎて結局周りがなにをしたらいいのか皆目検討がつかないケース。こちらから催促しないと一向に大事な情報を共有してくれないケース。こういった例は数えたらキリがない。これまで海外旅行をしたり海外で生活したりしたことがある方ならきっと簡単に想像がつくんじゃないかと思う。

プロジェクトのスタート地点から終着地点まで、一貫して責任を持ってコミュニケーションするということはぜんぜん当たり前のことじゃないのだ。

MBAではファイナンスの知識を体系立てて学ぶことが出来るだろうし、古典的なマーケティングのフレームワークからその応用に至るまでを効果的に学習することが出来るだろう。テクノロジー業界が熱い昨今、MBAはプロダクト開発に関する授業の強化にも熱心に取り組んでいるようだ。アメリカ人やその他海外から来た将来有望なビジネスマンがそうしたリッチでレベルの高い教育を受けることはとても素晴らしいことだと思う。

でも仕事の現場で本当に必要とされるような血の通った"ホウレンソウ"はきっとMBAでは学べないだろう。なぜならこれは実践を積みながら何度も失敗しながらやっと身に付くものだからだ。もちろんぼくはMBAに通ったことがないからこれは想像に過ぎないし、そもそもMBAが仕事で直接的に活きるソフトスキルを身につけるような場所でもないということは承知の上だ。いずれにせよ概念ではなく仕事の技術としての"ホウレンソウ"はMBAで学べないかもしれないが、仕事では極めて大事だということに異論はないだろう。

じゃあホウレンソウってどこで学べるだろう?ぼくは思うのだけれど日本企業ってこのホウレンソウの教育って抜かりないですよね。業種を問わず日本企業で働いた経験がある人と話すと、ちゃんと報告・連絡・相談するよなっていつも感心する。組織人として確認や相談もせずにテキトーな感じで受け答えする人ってほんとに少ない(もちろん例外はあれど)。世界20カ国以上のチームと毎日やりとりしているぼくからすると、この日本企業で鍛えられた企業戦士たちの仕事におけるコミュニケーション力は凄いことなんだよなとつくづく思うのです。

トウモロコシさんの言葉に含まれた間違い

トウモロコシさんはぼくにとってPMのロールモデルだ。ぼくが彼をどれだけ尊敬しているかは言葉では尽くせない。そんな彼が「君のコミュ力はなかなかイケてるぜ」と言ってくれたことは本当に励みになるし素直に嬉しい。

でもトウモロコシさんが言ったことには一つだけ間違いがある。それは彼がぼくのコミュニケーションをする力(つまり"ホウレンソウ")がNot Coachableである (人からは教えられないもの) と形容したことだ

これは違う。残念ながら才能でもなんでもない。ぼくは日本で働いていた時に徹底的に鍛え込まれた。渋谷のベンチャー企業で働いていた時に何度も叱られながら体で覚えた。その日本企業で鍛えたものがアメリカでめっちゃ通用してるというだけのことなのだ。褒められるべきはぼくではなく、ぼくを鍛え込んでくれた元上司たちなのだ。

もちろんホウレンソウが出来れば米GAFAMでPMとして余裕で働けますと言えば誇張になってしまう。分かりやすいところで言えば、「ホウレンソウを英語で出来るようにする」というハードルは決して低いものではないと思う。ぼくはNot Coachableなものは持ち合わせてはいないけれど、実践的な英語力を身に付けるための努力ぐらいは出来たと言ってもいいかもしれない。

でも本質的に言いたいのはこういうことになる。日本の"ホウレンソウ (報告・連絡・相談)"は世界でも通用するということだ。特に文系職の人はこれを世界レベルで極めていくだけでも、グローバルで十分に戦っていけるとぼくは信じて疑わない。AIやChat GPTが活用できるスキルも重要だと思うけれど、なによりも「あなたの優れたコミュニケーション能力」を求めてやまないチーム・企業はいくらでもあるはずだ。

違う言い方をすれば、日本企業でしっかりホウレンソウが凄いレベルで出来る人は絶対に世界で活躍できるチャンスがあると思うということにもなる。

もし将来的にアメリカのテクノロジー業界で働いてみたいけど、専門性もないしなんの手がかりもないと言っている人がいるとする。そんな人にはホウレンソウを極めていけば文系でもチャンスあるぜ!って真面目に言っちゃいます。これ冗談じゃなくてマジです。

専門性はあるに越したことはない。でも専門性があることと仕事が出来ることは違う。日本では「仕事が出来る」の最低ラインが「ホウレンソウが出来る」という点に置かれていると思う。そしてその日本の基準って実はすごく高いと思うんです。

サヤエンドウくんとの会話

ちょっとしたおまけで関連する話をしたい。

最近シアトルで20代前半ぐらいの日本人の学生に出会った。エネルギーに満ちていてわんぱくな感じの好青年。ここでは仮に彼をサヤエンドウくんと呼ぶことにしよう(特段名前に理由はないです…笑)。

話を聞いてみるとなにやらサヤエンドウくんはいわゆる高学歴というやつで、日本では誰もが知っている有名大学を卒業したばかりだった。普通ならば大企業にあっさり就職をして出世街道を堅実に歩むと思われるコース。でもサヤエンドウくんはそんな期待を鮮やかに裏切る。

サヤエンドウくんは日本で就職することなくまっすぐ渡米してアメリカで留学する道を選んだらしい。そして今はエンジニアになるべくプログラミングの勉強をしているとのことだった。

ぼくはカジュアルにこう聞いてみた。

日本でそんな有名大学を出たなら就活とかも余裕だったんじゃない?就職せずに留学を選んだのはなにか理由があるのー?

すると彼からはこんな返事が。

有名な日本企業からはいくつか内定をもらいましたよ。でも全部辞退しましたー!

えーなんで?と聞くと驚く返事が返ってきた。

日本企業に就職したら自分がダメになると思ったんですよね。就活中はまだ迷ってましたけど自分の中で答えが出ました。少しでも日本企業の文化に染まったら終わりかなと思いまして!

ぼくはまあびっくりしてしまった。もちろんサヤエンドウくんが日本の若者全体を代表しているとはぜんぜん思わないけれど、それでもこういう風に日本企業を見る向きがあるんだなと驚いたし、きっとサンプルは彼一人だけではないんだろうと。それからサヤエンドウくんは「アメリカで修行したら次のソニーやホンダはおれが創るぜ!」的な熱い話を展開してくれたけど、正直ぼくはさっきの発言がずーっと頭に引っかかって話は右から左だった。

日本企業がたとえば「大企業病に陥ってる」、「ソフトウェア開発において時代遅れのやり方をまだ取ってる」、はたまた「EVの波に乗り遅れたから自動車業界もやばい」みたいなトピックは盛んに話題に上がる。そして「火の立たないところに煙は立たない」というやつで、そのどれもが真実であり、どれも真剣に取り掛からなければならない問題だろう。

とはいえ日本企業のネガティブなところばかり取り上げるんじゃなくて、もっともっと強みにも注目すべきだよなーとつくづく思う。気付いてないだけで(もしくは当たり前になっていて)過小評価しすぎな気がする。

先に挙げたホウレンソウ(報告・連絡・相談)。そしてそれを会社や先輩たちがきっちり鍛え上げる日本企業の文化。これはぜんぜん当たり前のことじゃないし、もっと誇って良い素晴らしい企業文化・風土だとぼくは思う。

トウモロコシさんからの回答

ちょっとだけ時計の針を戻そう。

ぼくはトウモロコシさんとの1対1のミーティングを十分に満喫した。予想通りの的確なアドバイスの数々でしびれまくった。ミーティングがそろそろ終わろうかというタイミングで、ぼくは最後にトウモロコシさんに一言伝えた。トウモロコシさんの"間違い"をどうしても訂正したかったのだ。

さっきトウモロコシさんがぼくのコミュニケーション能力が高いってほめてくれたけどさ。あれは生まれ持った力でもなんでもないんだよね。

日本の会社で働いてたときにみっちり鍛えられたんだよ。日本企業だと新人にビジネスでのコミュニケーションの仕方をきっちり教え込む文化があるんだよ!

そう言うとトウモロコシさんは「はっ!」とした顔付きでこう返事をした。

それはクールだね!!

日本だと「会社が新人に仕事の基本を教え込む」なんてことがあるんだ。アメリカにはぜったいないもんね、そういう文化。

そう、ぼくもとてもクールなことだと思うのだ。


静かな湖畔はいつ来ても落ち着く

今日はそんなところですね。ここまで読んでくださりありがとうございました。

出張先のバンクーバーにて。スタンリーパークの近くをのほほんと散歩しながら。

それではどうも。お疲れたまねぎでした!

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福原たまねぎ きっとおもしろいこと書きますので!

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