車輪を発明するような仕事がしたい
アメリカで働くようになってから3年以上が経った。英語のネイティブの同僚と話していると「お、なんだそれ!?」と思うようなカッコいいフレーズを耳にすることもしばしば。
その中でも特に印象的なものがあるのでここでひとつ紹介したい。
reinvent the wheel (車輪を再発明する)
という言い回しだ。これは「すでに存在している素晴らしいものを、ゼロから作り直す」という意味だ。否定するかたちで使われることが多い。たとえば今ぼくが働いてるプロダクト開発チームに新しいメンバーが入ったとしよう。そしてその人が新しい機能の提案をしたとする。すると古株のメンバーをこう返事をする。
提案ありがとう!でも実はその機能はうちのシステムの中にすでにあるんだ。 だから車輪を再発明する必要はないよ。(No need to reinvent the wheel)
こういうフレーズをさらっと言えるとなんだかネイティブみたいに聴こえてすごくカッコいい。だから限りなくさらっと言おうと努めるのだけど(笑)ぼくが言うときは決まってしたり顔をしているはず。まだまだ修行が足りないようだ。
なぜ車輪なのか?
このフレーズがとても興味深いのは「なぜ車輪なのか?」という点に尽きる。このイディオムの中では車輪が「昔から存在している優れたもの」を指しているわけだけど、なぜ車輪なのかが一聴しただけだとぜんぜんよく分からない。でも実は答えはぴかぴかにクリアなのだ。
それは車輪が人類史上もっとも画期的で完成度の高い発明品のひとつだからだ。極めてシンプルで効率的な構造しているが、何千年もほとんど形を変えずに使われている。これは驚異的なことで、人間がこれまでに生み出してきた技術(テクノロジー)を振り返ってもほぼないことだ。
車輪というものが人類共通の「移動」という課題に対して果たしてきた役割は計り知れない。古代から中世ぐらいまでは馬に引いてもらうなりして車輪を転がしながら人や荷物を運んでいた。産業革命がはじまってからは鉄道(蒸気機関車)が「大移動の限りない自動化」というテクノロジーの一大テーマに革命を起こした。そして「エンジンというものを小型化すれば一人一台乗り物を作れんじゃね?」と思いついたどこかの天才がそんな夢の乗り物を作り出してしまう。
そう「自動車」の始まりだ。カール・ベンツさんが(あのドイツの車メーカーのベンツです)世界初のガソリン自動車を発明する。そしてアメリカの「自動車王」となるフォードが世界で初めて自動車生産にベルトコンベアを導入したことで「自動車の大量生産」に火ぶたが切られる。この延長線上にあるのが今のぼくらの世界、つまり誰もが(以前とは比べ物にならないコストで)自動車に乗れる世界だ。
この壮大な物語の中心に位置するのは「車輪」だ。もちろんテクノロジーの進化にギアを入れる際には常に発明家や起業家の存在を必要とした。でもどんな時代にもほとんど形を変えずに常に人類を文字通り前に動かしてきた「車輪」というものがなければ「移動のコスト改革」においてはなにも始まらなかったし今後の発展もない。お気付きの方も多いだろうが、これがEV(電気自動車)が主流になる世界が来たとしても、また自動運転車が街にあふれることになってもストーリーの主人公は「車輪」と筋書きが決まっていると言えなくもない。
ぼくは専門家ではないので細かい部分に誤りはあるかもしれない。でも大筋は間違いないはずで、だからこそ「reinvent the wheel (車輪を再発明する)」といった「車輪のすごさ」を前提にした表現があり今日でも頻繁に使われているのだろう。
そんなわけで車輪はすごい。とってもすごい。
ふらふらとそんなことを考えていた。そんな折に「え、これはひょっとすると車輪を再発明するレベルのことが起きるんじゃないか?」というニュースを目撃した。その衝撃について深掘りしたい。
Open AIの「究極の一手」
生成AIでお馴染みのChatGPT。テクノロジーの歴史を新たに上書きしているこの画期的なプロダクトを世に放ってきたOpen AIが「あるスタートアップの会社」を買収した。しかも6.5Bドル(日本円で9,000億円以上)という記録的な金額で。
買収されたのは元Appleの伝説的なデザイナーであるジョニー・アイブが作った「io」というハードウェアを開発する会社だ。ジョニー・アイブはAppleの創業者スティーブ・ジョブズの片腕としてiPod, iPhone, iPadなどの革新的な製品を世に出してきた歴史に名を残すデザイナーだ。この買収により、ジョニー・アイブはOpen AIでデザインに関する要職を務めることになるらしい。
Open AIのCEOであるサム・アルトマンはこの買収に際してこう社員に告げたらしい。
これは会社の歴史上もっとも大きい仕事を手がけるチャンスだ。
胸熱になったのはぼくだけだろうか(笑)。
サム・アルトマンとジョニー・アイブは社員に向けて、新たに「AIコンパニオン」なるものをまず1億台開発してそれは「日常生活の一部になるだろう」と言った。この新しい製品が世に出るのは2026年後半と伝えられている。
人類は「ディスプレイから解放」される?
ChatGPTをはじめとする今ぼくらが呼んでいるAIは、画面越しに質問をタイプして回答をもらうという形式がまだまだメインだ。これだけ見るとGoogle検索の延長に思えるかもしれない。でも今後AIがそうしたこれまでの形式を離れて、新しいスタイルで人間とコミュニケーションを未来は目前に迫っているのかもしれない。
以下の記事にも書いてあるけれど、ジョニー・アイブは昨今のスマートフォンやパソコンは「数十年遅れ」だと吐き捨て「常識的に考えてそれらの旧式なデバイスを乗り越えるものを作らないといけない」と喝破している。
おどろくことではないけれど、ジョニー・アイブのチームはApple出身の熟練のデザイナーが揃っているとのことだ。そして彼らはiPhoneの誕生から人々がディスプレイに釘付けになっている現状に憂いているようで、新しいデバイスにはディスプレイを使用しない方向性を示している。
そんなスマホを使わくなくなるなんて信じられない。
きっとそう思う人もたくさんいるに違いない。でも最近Appleの幹部(シニア・バイス・プレジデント)が「iPhoneはあと10年以内にいらなくなるかもしれない」と危機感を示したことは見過ごせない発言だ。
報道によると、Open AIが手がける新しいデバイスは新しい携帯電話でもなければ、MetaやGoogleが最近発表して話題になっているグラス(メガネ)式でもないとのこと。
ぼくの勝手な想像だと、腕輪やネックレスのようなものか、手で握れてポケットにさっと入るような小型の「なにか」になるんじゃないかと思っている。タイピングをする代わりに完全に音声でやりとりするようになると予想している。良い意味で予想を裏切ってほしいけれど、果たしてどんなものが世に放たれるのか。
iPhoneを発明した人物がそれをぶっ潰して再発明しようとしている。この20年近くテクノロジーの中心に位置していたスマートフォンを破壊して再構築するのであれば、これはまさに「車輪を再発明」をするような大仕事だと言えるんじゃないだろうか。
将来的にはきっとドラえもんのような人型ロボットにAIが搭載されて人間と共に生活するようになるのだろう。でもその未来が来る前に「ロボット」と「スマートフォン」の世代をつなぐ新しいデバイスがAIの乗り物になるに違いない。そしてそれを生み出すのがOpen AIのサム・アルトマンとジョニー・アイブなのかもしれない。
そんな歴史の転換期にぼくらはいるし、そのスタート地点に立ったのがこの買収劇ということになる。
車輪を発明するような仕事がしたい
ぼくがこれらの一連の報道を追いかけてて思ったのは「めっちゃこういう仕事したいな!」ということだ(笑)。時代を塗り替えるようなプロダクトを作る仕事ができれば、きっと物凄くおもしろいに違いない。なんだか子どもみたいな発想だけれど、それが正直な感想だ。
どうせ毎日あくせく働くのであれば、なにか新しいものを生み出したい。そしてそれが人類の歴史を一歩前に転がす車輪のようなものであれば言うことなしだ。
決して簡単なことではないし、なかなかそんなチャンスに巡り合うこともない。でもそんな難しさを踏まえても、そういう目線で今後のキャリアを考えていくことはきっと前向きなことなはずだ。これから始まるAI・ロボット時代を迎えるにあたって「仕事が奪われる…」といったネガティブな方向で考えるのではなく「じゃあ次の時代を作るひとりとして自分はなにしようか?」とポジティブに考えてみる。それはきっとなにかの救いになるはずだ。
スマートフォンに終わりはあるかもしれない。でも人間のクリエイティビティーに終わりはない。自分も世の中も「はっ!」とさせるような仕事をやってやろうじゃありませんか。

今日はそんなところですね。ここまで読んでくださりありがとうございました。
旅先のサンディエゴで。海岸通りを散歩しながら。
それではどうも。お疲れたまねぎでした!
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きっとおもしろいこと書きますので!