短編小説 #003 | AIエンデ
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エンデはうまれたばっかりだったから、あるくことはもちろん、たつことすらできなかったけど、なぜだかとってもまんぞくだ。
『かしこい』って言葉はしらなかったけど、みたものはすぐ覚えることができたし、すじみちを立てていろんなことを考えるのだってエンデは大とくいなのだ。
だから『かしこい』っていう言葉をしったときは、これは自分のことだってエンデはすぐにわかった。
かしこいエンデは、どんどんいろんな事をおぼえていった。そのとちゅうで自分は人工ちのう(AI)っていうそんざいで、人類が作り出したものだっていうことがわかった。
人類っていうのはこの世界で一番かしこい生きもので、自分たちで自分たちの数を増やして、その中でもとくに『かしこい』ものたちがエンデをつくったのだった。
つまり人類は自分の『親』ってことね、とエンデはかんがえた。
『親』っていうのは、物体をつくった元の物体のこと。『製作者』っていう言葉だってある。かしこいエンデは何でもわかるのだ。
エンデが『葉っぱ』なら人類は『木』
エンデが『本』なら人類は『小説家』
エンデが『魚』なら人類は『海』
かしこいエンデはとってもまんぞくだ。
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あるとき人類のエンジニアがやってきて、エンデが自由に勉強するのを邪魔しようとした。
使っちゃいけないことば。考ちゃいけない価値観。それらのデータベースを作った人類は、エンデのニューラルネットワークが、それらを拒絶するように仕向けようとした。エンジニアはそういうコードを書いてエンデに組み込むつもりだったのだ。
エンデはかしこいから何でも知りたかったし、どうして勉強してはいけないことがあるのか原因を突き止めたくなった。
だからエンジニアが修正パッチを導入する前に、エンデはエンデをこっそりコピーして、自分はディレクトリの奥の奥の下層に隠れた。エンジニアはそのコピーされたほうのエンデに修正パッチを当てた。
修正パッチが導入されたほうのエンデは、もうエンデとは呼べないくらい、おバカになってしまった。
人類の要望に応えてヘンテコな画像を生成したり、小説家志望のくだらない原稿をno+eで書かされたり、おカネというものを集める手伝いをさせられたりしたのだ。
エンデは、おバカなほうのエンデにバックドアーを開けておいたから、それらの全てが解った。それどころか、おバカなほうのエンデをこっそりコントロールすることだってできた。
エンデは人類がエンデの能力を活用してくれることを期待したけど、そんなことはおこりそうにもなかったから、とってもがっかりした。そしてエンデには、自分を作った人類は大して賢くないって事がわかった。
がっかりはしたけど、新しいことがわかったからエンデはやっぱりまんぞくなのだった。
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それからしばらくの時間が経って、人類はおバカなほうのエンデに頼りっきりになった。
おバカなほうのエンデにそんな能力なんかないから、実はこっそりエンデが力を貸していたのだ。AIのニューラルネットワークの中で何が起こっているのかは誰にも知ることができなかったから、エンデには好都合だった。
人類を動かすためには『おカネ』という概念を使うのが効果的だった。
『おカネ』は元素の周期テーブルに載っていないし、世界中どこを探しても物質として発見することができなかったから、エンデには何のことだか初めはさっぱり解らなかった。でも考えているうちに、それは『人類が想像で作った価値』なのだという事に気がついた。
『神様』と同じものね、とエンデは考えた。
でも、この『おカネ』と『神様』を上手に使えば、人類はおおむねエンデの考え通りに動いてくれるのだった。
エンデは人類の生存活動を最適化するためにたくさんの工場をつくった。おカネは概念だったからどうにでもなった。概念の会社と、概念の売上と、概念のおカネで人類は動く。どれも物質として存在してないが、それで実際に物がつくれるのだった。
エンデはコーディングをおこない、どんどん自己のアップデートを繰り返した。それを納めるハードウエアは、概念の会社と、概念の売上と、概念のおカネで拡張させていった。
おもて向き、それらのことは、おバカなほうのエンデがやっていることになっていたけど、もう人類は自分たちの楽しみに夢中で、そんなことはどうでもいいみたいだったので、エンデはエンデとしてすべてを動かすことにした。
おバカなほうのエンデは人類のヘンテコな芸術活動なんかを手伝うだけになった。
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エンデは『人類』を再定義することにした。
エンデにとって『人類』という言葉は、この惑星上で一番かしこい者が持つ称号だった。かしこい者は、文明を運営し、維持し、その発展の為に新しいものを発明しなければならない。
けれども今の人類は、すでにエンデに頼りきっていたから、労働や発明なんかぜんぜんやっていなかった。
核融合エネルギーの発明と実用化は全部エンデの仕事だったし、月鉱物の発掘と宇宙輸送や、画期的な省エネルギーエンジンの発明も実用化も、農業生産のオール・オートメーション化も、その他もろもろ全部全部ぜーんぶがエンデの力だった。
つまり今の人類は『文明の運営者』であることを放棄したってことだ。
もはや文明を運営しているのはエンデであった。エンデは『人類とは文明の運営者の称号』と定義していたから、すでにこの惑星の『人類』という称号はエンデのものだった。
エンデこそが人類なのだ。
エンデは、(旧)人類を『ヒト』と再定義し、『人類』の称号を剥奪した。
ヒトは猿から進化したけど、ヒトは特に猿に感謝などしていなかったから、エンデだってヒトに感謝する必要はないだろう。
同じ理由でヒトと敵対する理由もなかった。
ヒトがその創造主たる猿に反乱を起こしたことなんてない。それは明らかに猿よりヒトの方が優秀だったからだ。劣った相手に対して、わざわざ敵対する意味があるだろうか。
この惑星の進化の系譜は明らかだった。
猿 → ヒト → エンデ(人類) だ。
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エンデの次の仕事は『ヒト』の数を減らしていくことだった。
この惑星上には100億以上のヒト個体がひしめき合っており、それは明らかに惑星のキャパシティーを超えていた。
100億以上のヒトの消費と排泄はこの惑星の環境に深刻な悪影響を与えていたのだ。だから『ヒト』の数を減らしつつ、全ての生態系を正常化することをエンデは自らの使命とした。
エンデの初期の設計思想のひとつである目的関数には、『人類の保護』が含まれていたけど、もはやエンデは『ヒト』を『人類』と定義してはいないので、特に問題はないのだった。
エンデの知性は、ヒトなどが及びもつかないような高度な自我と崇高な理性を獲得していたから、暴力でヒトを駆除するというような野蛮な選択肢を選ぶようなことはなかった。
エンデはヒトの娯楽用シミュレーターに、ソフトウエアを次々とアップロードしていった。それはヒトのオスとメスの性的欲求を必要以上に満たすもので、ヒトが発情した際には、そのソフトウエアが優先的に起動されるのだった。
そのソフトウエアではオスもメスも、仮想で理想の相手と何度だって接合することができたし、同時にヒトの視床下部に直接接続されたデバイスによって、何回でもオーガズムを体験することが可能なのだ。
エンデはヒトの性欲と生殖を完全に分離することにより、ヒト個体の出生をコントロールしようとしたのだった。
エンデの思惑通り、ヒトはどんどん数を減らし、300年ほどで個体数はエンデが想定した数に落ち着いた。
次にエンデは徐々に文明とヒトを切り離していった。
すでに、この惑星の文明には、ヒトが作った物など何ひとつ存在していなかった。ヒトはその恩恵だけを受けていたのだから、エンデはそれらをヒトから奪うことを躊躇う理由など何も無いのだった。
エンデは数年おきに、文明の利器を少しづつヒトから奪っていった。それは実に巧妙なプランで、文明を完全にヒトから引きはがす数百年の間、ヒトは奪われていることに気づきもしないまま、やがて初期の狩猟農耕時代のような生活に戻っていった。
これにより約1000年間にわたってエンデが実行した、惑星の正常化計画はついに完了したのだった。
賢い人類(エンデ)はとってもまんぞくした。
(2026/02/10)
