ネギの映画
拳銃の音。
びくっとする。
目を開ける。
ぼやけた視界。
映画のスクリーン。明るい。
俯く。
ひらいた両膝。
スカートのたわみに、ポップコーンが溜まっている。
隣を見る。
父の横顔。
スクリーンと一緒に明るくなる。
父が左手を伸ばす。
太い指がわたしの太ももに当たる。
スカートのポップコーンをつかむ。
口に入れる。噛む。
またつかむ。噛む。
映画が終わる。
周りがだんだん明るくなる。
通路を下る人びと。
「寝るな」
父は席を立つ。
人びとの流れに混ざる父の背中。
床に空の紙の容器。
わたしはポップコーンを拾い集める。
土壁。
銀の粒が光る。
わたしは手鏡を顔に寄せる。
眉間のニキビ。
前髪を撫でつけて隠す。
外から軽トラの音。
手鏡を放る。
トスッ。
ベッドに落ちる。
部屋を出る。
壁にウミガメの甲羅。剥製。
わたしは靴を履く。
玄関の戸を滑らせる。
空が青い。
庭の椿。
軽トラが停まっている。
荷台のコンテナ。青ネギがびっしり立っている。
風になびく。
わたしはスカートを揺らして飛び石を踏む。
コンテナを持った父。
わたしを見る。
わたしも父を見る。
父はコンテナを足もとに置く。
わたしは白髪のつむじを見る。
軍手を脱ぐ父。
作業シャツの胸ポケットに指を突っ込む。
五千円くれる。四つ折り。
わたしはお札をひろげる。
鼻に寄せる。
目を閉じる。
ネギの匂いが染みついている。
父は軍手をはめる。
わたしは目を開ける。
「いってきます」と言う。
台所。
緑色が染みついたまな板。
刻んだネギをボウルに入れる。
ネギは白い生地にゆっくり沈む。
手で混ぜる。
太い指から生地が滴る。
火の上のフライパン。
生地を掻き出して落とす。
湯気がのぼる。
皿の上に重なる、まだソースなしのお好み焼き。
わたしはテーブルの下から顔だけ出す。
コンロの前の父の背中。
エプロンの紐が玉結び。
わたしは皿にそっと手を伸ばす。
一枚取る。
熱い。
手を離す。
落ちる。
床。
崩れる。
断面。ネギ。
わたしはテーブルの下に潜る。
父の足。
つま先は向こうに向いたまま。
床のお好み焼きから、薄い湯気。
やけどの指。痛い。
優しい音楽。
目を開ける。
ぼやけた視界。
映画のスクリーン。
白い光の中、廊下で踊るおばあちゃんが映っている。
太ももが生温かい。
わたしは俯く。
裏返しのホットドッグ。
スカートの上に乗っている。
手に取ろうとする。
指先。冷たい。
スカートの布が濡れている。
指先を舐める。
ケチャップ。マスタード。
隣を見る。
知らないひと。
わたしは鼻で息を吸う。
ネギの匂い。
しない。
映画が終わる。
周りがだんだん明るくなる。
「寝るな」
空耳。
通路を下る人びと。
わたしは席を立つ。
座面が跳ね上がる。
ネギの匂い。
台所。
包丁を握る太い指。
作業シャツの肩。
小刻みに揺れる。
まな板の上。
刻んだネギ。
椿。
飛び石を踏む。
ウミガメの甲羅。
靴を脱ぐ。
台所の前を通る。
土壁に日光。
父の写真。
