子どもたちの未来を育む 船引駅前の「第三の居場所」
福島県田村市の「ジブンラボ」。空き店舗を活用して生まれたこの拠点は、子どもたちや中高生が安心して集い、自分らしく未来を描ける「第三の居場所」です。この場所を運営する「一般社団法人ネイバーフッドラボたむら」代表理事・岩井秀樹さんに、その取り組みと思いを伺いました。
船引駅前に誕生した「第三の居場所」
田村市の船引駅からすぐの場所にある、「ジブンラボ」岩井さんが目指すのは、「中高生が将来を自由に探究できる第三の居場所」。家庭でも学校でもない、子どもたちが安心して過ごし、自らの可能性を見つけられる場づくりを進めています。

この取り組みが生まれたきっかけは、岩井さんが特任教授を務める福島大学地域未来デザインセンターが東京のNPO法人ハナラボと連携して行ったワークショップでした。2021年、首都圏と福島県の女子学生が田村市に滞在し、空き家・空き店舗の解決策を考えるプロジェクトが行われました。その時、高校生へのヒアリングが行われ、「地域に相談できる大人がいない」という切実な声や、「自分たちが自由に過ごしたい場所が地域になかなかない」という意見が聞かれたのです。

この高校生たちの声を聞いた首都圏の学生たちからは、「子どもたちが自由に過ごしたり、いろんなアイデアを出したりできる場所が必要なのではないか」というアイデアを提案しました。普通のワークショップならアイデアを出して終わり、ということが多いのですが、「アイデアで終わるのはもったいない」と感じた岩井さんは実際に事業化することを決意します。
岩井さんは「学生たちも問題提起をしてくれましたが、私ももともとこの地域の子どもたちが多様な情報に触れられていないのではないか、あるいは十分な機会を与えられないまま高校を卒業し、社会に出て行ってしまっているのではないかという課題を感じており、実現に向けて動くことにしました」と話します。
岩井さんたちが候補となる場所を探したところ、船引駅前から徒歩1分というよい場所に物件が見つかりました。ここはもともとは美容室でしたが空き店舗になっていました。高校生も通学でよく利用する駅のすぐ近くに「第三の居場所」を作ればきっと地域の子どもたちに利用してもらえる。岩井さんは「空き店舗は、”ポテンシャル”のある場所だと思う」と話します。

居場所づくりと機会の提供
そして2022年にジブンラボがオープン。開館日は水曜・金曜・土曜の午後。小学生から高校生まで誰でも無料で利用でき、勉強したり、友達とゲームをしたり、ただ静かに過ごしたりと、子どもたちは思い思いに時間を過ごしています。ボードゲームや大型モニターなど、楽しく過ごすための設備も充実しています。

ジブンラボでの活動には大きく二つの柱があります。
一つは、困難を抱える子どもたちが安心して自由に過ごせる居場所の提供です。岩井さんは「学校に行きにくかったり、家庭に居場所がない子にも来てもらって、自分なりの時間を過ごせる場所として使ってほしい」と話します。
実際にここでは、本を読んだりお菓子を食べたり、友達とゲームをしたり勉強したり、多様な子どもたちがそれぞれの過ごし方で「自分の居場所」として活用しています。ジブンラボには公認心理師のスタッフや大学生や社会人のボランティアがおり、子どもたちの話し相手や遊び相手になっています。公認心理師がいるという点は、困難を抱える子どもたちへの専門的なケアを提供できるという大きな強みです。

もう一つの柱は、将来のキャリアにつながる様々な機会の提供です。「マッチング部」と「探究部」の二つの部門があります。マッチング部では、大学生や社会人といった“少し先輩の大人”と進学やキャリアについて相談できる機会を提供します。例えば「美容師になりたいが、実際の仕事はどうなのか」「デザイナーに興味があるが、身近に相談できる人がいない」といった声に応え、大人に直接話を聞いたり、体験したりする機会を設けています。
探究部では、課題研究やプレゼン支援を通じて社会課題に挑戦したり、自分の興味を深めたりできます。染め物体験、絵葉書づくり、英会話、メイク講座、絵画ワークショップなど多彩な取り組みを展開。高校生と一緒に「食の課題」について考え、解決アイデアを出すなど具体的な活動も行われています。
また、アートやデザインについて、子どもたちが学べる機会も提供しています。市内のアトリエとも連携しながら絵画を飾り、本棚にはアートに関する色彩豊かな本が並びます。岩井さん自身もデザイン系の大学を卒業しており、「デザインやアートは、ものの見方を広げてくれる。子どもたちにもぜひ触れてほしい」と話します。

子供が自由に過ごせる場を整える
岩井さんは、中高生に向けて「高校のうちに、自分で状況を変えられる体験をしてほしい」と語ります。しかし同時に、この場所に集う子どもたちに「こうあってほしい」という理想像はまったく持っていません。
「人は必要な時に勝手に学ぶ。だから何より大切なのは、安心して自由に過ごせる時間だと思うんです」と岩井さんは言います。
子どもたちにとって、強制や評価のない空間はとても重要です。ジブンラボでは、ただ座って本を読むことも、友達とお菓子を食べながらおしゃべりすることも、勉強やゲームに打ち込むことも自由。居心地の悪さや緊張から解放された時、初めて自分で考える余白が生まれます。岩井さんが大切にしているのは、まさにその「余白」です。

ジブンラボには大人もいますが、やりたいことを押し付けず、子ども自身の選択を尊重しています。また、施設内にはボードゲームや大型モニター、アート作品など、自然と子どもたちが関心を広げられる“きっかけ”を散りばめています。それらは「こうしなさい」という教材ではなく、「やってみたい」と思った時に手に取れる刺激です。
岩井さんは「子どもたちにとって刺激になるものが近くにあれば十分。あとは自分で選び、考えていくもの」と語ります。大人が「こうあるべき」と型にはめるのではなく、子どもが自由に過ごせる場を整えること。それこそがジブンラボの価値なのです。

施設の利用方法は「ジブンラボ」のホームページをご覧ください。
=写真提供 ネイバーフッドラボたむら
