大学があるまち・金谷川 学生たちが挑む、地域の課題解決
福島大学のキャンパスが立地する、金谷川地区。この地域を舞台に立ち上がった学生団体が、「金谷川プロジェクト」と「SUPERふくだい」です。 いずれも学生ならではの視点と行動力を生かし、地域の活性化や課題解決に挑んでいます。
それぞれのプロジェクトを通して福島大学の学生たちが地域とどう向き合い、どのような未来を描こうとしているのかをご紹介します。
地域と学生の架け橋を目指す「金谷川プロジェクト」
金谷川プロジェクトは、福島大学の学生が主体となり、金谷川地域の活性化を目指して活動する団体です。ここでは、創設者の鴫原寛伊さんと、現在の代表を務める菊田朋花さんに、プロジェクトへの思いを伺いました。
鴫原寛伊さん プロフィール
福島県二本松市出身で、福島西高校を卒業。福島大学経済経営学類4年生で、金谷川プロジェクトの創設者であり、初代代表を務めました。
菊田朋花さん プロフィール
福島県福島市出身で、福島南高校を卒業。福島大学経済経営学類3年生で、金谷川プロジェクトの2代目代表です。
鴫原さんは大学3年次(2024年)に金谷川プロジェクトを立ち上げましたが、その準備は実は2年次の後期から始めていたといいます。プロジェクトのモットーは「地域活動に、学生が参加していく」。
鴫原さんが住む二本松市は「消滅可能性自治体」に選定されており、このまま人口減少が進めば、地域の暮らしそのものが衰退してしまうという課題を抱えていました。そうした状況に対して、大学在学中から「地域のために学生が関わることで地域を盛り上げられないか」と考えていました。

大学祭の実行委員をしていた鴫原さん。大学祭への協力を依頼するために金谷川地区の神社を訪れた時、宮司さんに相談を持ちかけます。その際に返ってきたのが、「想いがあるのなら、ぜひ挑戦してみてほしい。私たちも協力するから」という励ましの言葉でした。この一言が背中を押し、サークルという形での取り組みへと発展していきます。
まず金谷川プロジェクトとして取り組んだのは「移動販売」の実施でした。金谷川地域は徒歩圏内にスーパーがなく、生活インフラに課題を抱えていたのです。この状況を前に、「自分たちの手で生活環境を向上させたい」という強い思いが活動の原点となりました。そこで、福島市内で50年以上にわたり移動販売を続けてきたご夫婦に協力を依頼し、福島大学近くでの移動販売を実現しました。生鮮食品や惣菜、お菓子や調味料まで、豊富な品揃えを一般的なスーパーと変わらない価格で販売しました。

移動販売の取り組みの後には、「かなプロ新聞」という独自の新聞づくりも開始しました。これは、「住民と大学生の情報交換プラットフォーム」を目的に作成し、金谷川地域と福島大学のトピックやお知らせをまとめて、双方が情報を共有できる月刊新聞として発刊しました。

さらに、近隣の町内会とも連携が広がり、町内会が運営するホームページに「地域の方々にも見てもらえるように」とのご厚意で「かなプロ新聞」を掲載していただけることになりました。
新聞を作る過程で、プロジェクトメンバー自身が住民や学生、大学に話を聞きに行くことでコミュニケーションが生まれ、プロジェクトの認知度向上にもつながったと鴫原さんは語っています。
「何もないなんてことはない」と活動に参加

現在2代目代表を務める菊田さん。実は、福島大学に入学してからしばらくは「あまり大学生活に魅力を感じていない」と感じていたといいます。
さらに、大学1年生の時に始めたアルバイト先で「福島大学です」と伝えると、「ああ、何もないところね!」と返されたことに違和感を覚えたそうです。菊田さんは、「きっと、何もないなんてことはない。気づけていないだけで、きっと魅力はあるはず。魅力に周りが気づける仕掛けを作ってみたい」と思ったそうです。
そんな時、ちょうど鴫原さんが金谷川プロジェクトの準備を始め、メンバーを募集していることを知り、金谷川をより深く知り、自分でも挑戦したいという思いからサークルの初期メンバーとして立ち上げから参加しました。
金谷川を“楽しみながら知る”きっかけづくり
サークルに新しく入ったメンバーの中には、金谷川という地域がどんな場所で、何があるのかをまだよく知らない学生も多いことが課題でした。そこで、皆で楽しく金谷川の魅力を再発見するために、謎解きを盛り込んだ金谷川の街歩き企画を実施しました。「かなプロまちあるき─消えた学長が隠した秘密─」と題し、大学周辺を探索する企画です。

この企画では、事前に配られた古文書を解く鍵として、大学周辺で撮影された数々の写真が用いられました。参加者は、写真がどこで撮られたのかを探り当て、同じ場所で写真を撮影して運営メンバーに送ることで、古文書を解くヒントを得られる仕組みです。班ごとに謎解きをしながら、地元のお店でご飯を食べたり、地域のスポットを巡ったりする中で、参加者は「金谷川にこんな場所あったんだ!」と驚く発見や、金谷川の新しい一面に出会う1日を過ごしたそうです。

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鴫原さんは、これまでの活動を振り返り、「地域の方々からの温かい応援と姿勢が本当にありがたく、これがあってこそ活動が成り立っていると感じている」と語ります。今後もサークルメンバーには、「今後も自分自身の『やってみたい』を実現していってほしい」というメッセージを送っています。
金谷川プロジェクトとして様々なチャレンジを重ねることで、多様な経験やノウハウを蓄積していきたいと考えているそうです。そして、将来的に「金谷川プロジェクトに入れば、やりたいことがやれる」と思ってもらえるような、学生にとって魅力的なプロジェクトにしていきたいという展望を抱いています。
現代表である菊田さんが構想しているのが「ランタンフェス」。学生が主体となって企画を考え、ランタンを作り、皆で作り上げた時間を通じて、金谷川の地を幻想的な一夜に包む試みです。早ければ2026年初春の実施を予定しています。このランタンフェスは、金谷川周辺に住む住民や子供会(ランタンを作る工作会なども実施)などと連携し、地域との繋がりづくりにも繋げたいと考えています。

学生がつくるまちづくりラボ「SUPERふくだい」
「SUPERふくだい」は、福島大学の学生・星萌生さんが立ち上げた、地域の人々が集う「まちづくりラボ」をコンセプトとした取り組みです。大型スーパーの閉店をきっかけに、「地域に本当に必要なものとは何か」を問い直した星さん。
当初は“スーパーをつくる”という発想から始まった挑戦が、やがて人と人とがつながり、温かな時間を共有できる「味噌汁バー」へと発展しました。
星萌生さん プロフィール
福島県須賀川市出身。岩瀬農業高校 生物生産科卒業。高校時代は米や穀物の栽培、水田や畑の管理といった農業分野を学ぶ。課外活動にも積極的に取り組み、GLOBALG.A.P.の実践や、お米を真空パックにして海外販売するプロジェクトに参加。現在は福島大学行政政策学類 夜間主課程の4年生に在籍し、地域政策を専門に研究中。

星さんは岩瀬農業高校を卒業後、福島大学行政政策学類(夜間主コース)で学びを広げ、農業にとどまらず地域全般に関心を持つようになりました。研究分野は地域政策で、特に「政策が文化に与える影響」に注目。「持続可能な地域を残すために、どのような経済的アプローチが必要なのか」をテーマに研究を進めてきました。
高校時代から地域課題に強い関心を抱いていた星さん。現在の活動の原点は、福島駅近くの大型スーパーが閉店するというニュースでした。星さんや福島大学の学生たちがよく利用する大型スーパーでした。生活インフラが失われることに不安を覚え、「自分でスーパーをつくりたい」と考えたのが出発点です。初めはスーパーづくりに挑戦していることを中心に、SNS上での発信に注力し、福島大そばの「コミュニティカフェ(通称 コンテナカフェ)」を拠点に、商品の販売も行いました。
しかし、実際に商品を販売してみてもあまり売れませんでした。そこから、「本当に地域に必要なものは何だろう?」という問いに立ち返ったといいます。

福島大の学生と話す中で、「金谷川地域には飲食スペースが少ない」という課題に着目しました。多くの学生は学食や近隣のコンビニでお弁当を購入し、自宅に持ち帰って一人で食べています。しかし、その食事は冷めた弁当であることが多く、どこか味気なく、孤独さを感じやすいものでした。
「誰かと一緒に食事をする場を提供できないか」――そんな問いから生まれたのが「味噌汁バー」という新しい取り組みです。最初はスープやおかずなどの案も出ましたが、日本人にとって最も身近でありながら、大学生になると口にする機会が減る「味噌汁」に着目しました。温かい味噌汁を添えることで、冷めたおにぎりやお弁当でも少し特別な食事に変わるのではないかと考えたのです。

さらに、「味噌汁は好きだけれど、自分でわざわざつくることは少ない」という学生の声もありました。おにぎりやお茶で簡単に済ませる日常の中に、味噌汁を加えることはなかなかない。そこで、インスタント味噌汁を“飲み放題”にする仕組みを取り入れ、持ち寄ったお弁当やおにぎりと一緒に気軽に楽しめる場をつくりました。

「もし誰かと会話しながら、美味しい食事を一緒に楽しめたら」――その想いを形にしたのが味噌汁バーです。普段の食事に一杯の温かさを加えることで、人と人とがつながる場所を生み出したいという願いが込められています。
誰もが気軽に立ち寄れる「味噌汁バー」
SUPERふくだいの主要な活動である「味噌汁バー」は、星さんの地域への思いが色濃く反映された取り組みです。2024年10月にスタートし、現在は月に1回ほど、夕方から夜にかけて開催されています。
来場者は福島大学や近隣の福島県立医科大学の学生にとどまらず、福島市内の高校教諭や郡山の企業経営者、記者など幅広い層に広がっています。今後は大学や地域で活動する人たちにとって、さらに身近な居場所となることを目指しています。
運営にあたって星さんが大切にしているのは「まずは入りやすさ」です。「コンセプトを固めすぎると、かえって入りづらくなるかもしれない。あえて良い意味での余白を残し、誰でも気軽に立ち寄れる交流の場にしたい」と語ります。味噌汁バーの開催を重ねるなかで、地域の人々にとっての「居場所づくり」が、少しずつ形になってきたと星さんはいいます。
「味噌汁をただ飲む場所ではなく、食事の場にとどまらない。本を読んだり、集まった人同士が談話を楽しんだりできる――そんなサードプレイス的な役割もあるのだとSNSで発信しました。すると、大学で活動している団体や個人が興味を持って訪れてくれるようになり、交流が生まれました」。

また、味噌汁バーの印象に残っている出来事として、星さんは冬の寒い日に来店した学生の話を挙げました。その学生はパレスチナの紛争問題に関心を持っており、その場には多様な研究分野や学年の学生が集まりました。味噌汁を囲みながら交流するうちにコミュニティが自然に形成され、現在も彼らは味噌汁バーに顔を出してくれているといいます。様々な学生たちが味噌汁バーをきっかけに出会い、集う場所として機能しているのがとても嬉しいと語ります。
最後に、活動への想いを伺いました。星さんは「地域課題の解決も重要ですが、それ以上に地域に暮らす人たちの“楽しい記憶”や“思い出”を大切にしたい」と語ります。課題解決といったマイナス面の発信が注目されがちな一方で、地域のプラスの側面にもきちんと目を向け、大事にしていきたいのだといいます。
地域の人々が気軽に集い、会話を楽しみ、温かい思い出をつくる味噌汁バー。この場所から、ポジティブな発信を続けていきます。

写真提供=金谷川プロジェクト、SUPERふくだい
