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2回目の読書会

※主要登場人物の先輩の性別を男性に変えました。
ぜひ、最初からまた読んでみてくださると嬉しいです。







ここ数日、モヤモヤしていた。4冊の本を読み終え、1か月がすぎた頃だった。ちゃんとした読書を始めて、もう2か月が過ぎようとしている。この2か月で私は8冊の本を読み終えた。1年で5冊も読まなかった人間が、たった2か月で8冊も読んだのだ。どうしてモヤモヤを感じてしまうのだろう。

 『ツナグ』を読んだ時は、新たな発見をしたようで高揚感があった。しかしその熱は、たった数日で冷めてしまっていた。ツナグを読んだ後にまた、2冊(シリーズもの)読んだのだが、新たな発見は何もなかった。多分、そのせいかもしれない。多分、期待感が増していたのかもしれない。冷静になった頭で、私は思った。

ツナグを読まなくても、本を読まなくても、いずれ何かをきっかけにそれに気づいていたのかもしれない。


先輩からLINEがあった。
(おめでとう。2か月と8冊)とウサギのスタンプと一緒に送られてきた。
それに私は(付き合いたてのカップルみたいだな)と苦笑いしながら、同じようなウサギのありがとうスタンプで返した。すぐに既読がついた。

(そろそろ飽きてきた?)

それに私は笑ってしまった。
何だろう。結構前から飽きてるような気がするんだよな。いや、飽きているわ。凄く飽きてる。無理してるかも。だけどそんなこと言えないよな。そうだよな。
なんて内心思いながら(読書会はいつですか)と返事をした。ウサギのスタンプを添えて。


「正直に言ってほしい」

 休日、先輩と先月きた同じカフェにいた。2回目となる読書会(報告会)だ。先輩は元々このカフェの常連のため、店員に顔を覚えられている。私が予約の電話を入れた時、先輩の名前を言った途端「あー!はいはい了解です。いつもの席とティラミスですね」と言った。先輩は毎回ここへ来るたび、同じ席で同じものを注文しているらしかった。1人で?それは分からない。もしかして私のような人間を何人か抱えているのか?いや、そんなわけないだろう。いらぬことを考えていた私に先輩が、前回と同じようにカフェラテを飲みながら言った。

「聞いてる?」

半分上の空だった私は、その声にハッとなる。

「あ、すいません。何がですか?」

それに先輩は苛立ったのか声が大きくなる。

「だから、正直に!」

心の底から、申し訳ない気持ちがあふれてくる。正直に言いたい。
「だいぶ前から飽きてまっす」と。
だが、言えば先輩をがっかりさせるのではないだろうか。「こんな後輩嫌いだ!」なんてことにならないだろうか。それはまずい。同じ職場の先輩だ。こんなことで関係に傷を入れてしまうと、あとあとめんどくさい。ここは穏便に済ますため、まずはツナグで得たあの気づきを話そう。その後に飽きたことを伝えればいいのだ。なんて良い案だろう。人は窮地(?)に立った時に力を発揮するという。このことか!(絶対違う) さっそく私は先輩に言う。

「それより私、気づきましたよ」

注文したカフェモカを机の端っこ、壁側に移動させ、腕を組み、真剣な話をするかのように。それに先輩は待ってましたと言わんばかりに「何を?!」と勢いよく前かがみになり言った。

「ツナグの登場人物に、知り合いに似たやつが出てきたんです。ホントに。マジで似てて。私そいつのことが嫌いだったんです。本当に嫌な奴だったんで。だから、ツナグに出てくるやつも最初らへん嫌いだったんですよ。似てるわ。マジクソだわって思いながら、あ、まったくそっくりってわけじゃないですよ。やってることも全然違うんですけど、何か似てるんですよ。何だろう。分かんないけど。それで、気分悪く読んでたんですけど」

 人に何かを説明することを、あまりしてこなかったせいだろうか。所々自分で言いながら不安になった。私の伝えたいことが、意図が、ちゃんと相手に伝わるだろうか、と。不安になった。そんな私を他所に先輩はちゃんと汲み取ってくれて、「知り合いが嫌いだったのか」とか「そういうのあるよな。雰囲気で似てるかもって」とか相槌のように拾ってくれて、私は気にせず話を進めることが出来た。

「でも、読んでいくうちに…小説じゃないですか?小説だと、人の感情の流れとか、そうなった経緯?までをちゃんと知ることが出来るから。それを読んでるうちに、嫌じゃなくなったんですよね。ツナグの登場人物も。知り合いのことも」

「知り合いのことも?」

気のせいだろうか。先輩の眉が、片方一瞬動いたように感じた。気に障ったことをいったのか。それとも。

「は、はい」

「何で?」

 先輩の声が一気に低くなった。少し怖いと思うほどに。先輩は続けて言う。

「小説の中の人物だけを嫌いじゃなくなるのは分かる。でも何で知り合いのことも?知り合いは知り合いだろう?」

 尋問のようだった。なんだこれ。読書をしただけだよね?え?穏便に済ます作戦が逆効果だったのか?それはそうだ。だってこれは本の感想ではない。私の私的な話で、私のことなのだから。

「いや、あの、何ていうか」

どんどん小さくなる私の声。はたから見たらどのように見えているのだろうか。何だか泣けてくる。それでも精一杯、感じたことを伝えようと、私は頭の中で言葉を探し、組み立て、口にする。

「現実は小説じゃない。けど、現実も小説に書かれているように、その人がどうしてそういった行動をしたのか、とか、言葉を言ったのか、とか、そういった経緯がちゃんとあるわけで、感情の流れがあるわけで。何ていうか、その感情の流れとか、経緯とかって、私自身にも起こりうることなわけで。なんていうか…」

 先輩の目が、ゆっくりと見開いてきているように感じた。気のせいだろうか。気のせいであってくれ。私もう先輩の目を見れなかった。テーブルの真ん中にあるティラミスをひたすら見ていることしか出来なかった。


「何ていうか、考えたんです。知り合いの交友関係とか、環境とかを考えて、何かしらで傷ついて、何かしらでしがらみがあって。その当時の知り合いには、あの行動しか自分の心を守る方法がなかったのかもしれないって。なんか色々考えて… 私、最近高校の友人に会ったんです。仲良くしてたグループにいた子で。その子、高校の時うちらのグループ以外からは嫌われているようなクセの強い子だったんです。正直、私も苦手な部類に入る子でした。でも嫌いじゃないんです。嫌いになれないんです。その子、依存性パーソナリティ障害を持ってて。あと…まぁ、何ていうか。他にも色々あって、どうしてそういう行動に走るのか、とか経緯を知ってるから。同情っていうのかな。それだけじゃないんですけど。良い所も沢山あるし。まぁ、それがあって。だから、私の友人のように、小説の中の似ているあの人のように、知り合いも何かしらあるんだと思えて。だからといって、やって良いことと悪いことがあるのは分かってるけど。でも完璧な人間なんていないし。もし私が知り合いの立場になったら、とか。色々考えて…だから、頭ごなしに嫌いだと思うのは良くない気がした、んですよね……..」


全てを言い終えた瞬間、目の前のティラミスが揺れた。いや、ティミスだけではない。テーブル全てが一瞬揺れていた。(え、地震?)と私は思った。だが、違った。目の前にいる先輩が小刻みに震えていただけだったのだ。

その瞬間、さすがに私は「ひぃ!」と声に出てしまった。内心終わったと思った。しかし、違った。

「すばらしい!!!!」

 先輩は、感動していたのだ。小刻みに震えていた先輩の目にはうっすら涙すら見えた。マジかよ。

「それだよ!それが既視感!そして共感力!想像力!あんた今レベルが上がったぞ!crazy!!!」


「は、はい?」

何なんだこれは。てか何で発音良いんだよ。これこそ既視感だわ。困惑する私だったが、褒められているのだと分かると、少し良い気分になった。単純すぎるだろうか。こんな興奮状態の先輩を見れば誰だってなるはずだ。それか、私は褒められて伸びるタイプなのかもしれない。少し気をよくした私はめんどくさくなりそうな質問をしてしまう「そ、想像力も上がったんですか?」と。気が良くなると人間は、めんどくさいことにも首を突っ込みたくなるようだ。

「嫌いだった人が、何でそういうことをしたのか、っていう背景を想像したわけだろう?それで、自分自身と照らし合わせて共感する部分を少しでも見つけた。で、嫌いじゃなくなった」

 驚いた。あっさりとこんな簡単にも、先輩は私が言いたかったことを簡潔に述べたのだ。

「そ、それ!それです!」

「これが想像力の本当の使い方だよ。てか俺は、これが本当の想像力だと思ってる」

「本当の想像力?」

「うん」

 お互い、のどが渇いていたようだった。まったく同じタイミングでカフェラテとカフェモカを飲む。そして、お互いの目の前にあるティラミスにスプーンをさして。口に運んで。また話を続けた。

「世の中の人ってさ、妄想を想像だと勘違いしている部分がある。あ、これ自論だから」


「はい」

「言葉って難しいからさあ。妄想は、節度がないとかむやみな感じになるけど、想像は形になるべきもの。ちなみに漢字違いの創造もあるけど…あれは分かりやすいからいいか。で、想像には悪意も善意もないのに対して、妄想には悪意も善意もある。それを分かってない奴らが多い」

「あの、すいません」

「何?」

「私も分かってません」

「いいから聞いてて」

「はい」

深い。深すぎる。難しい。難しいぞ。今の私には理解できるのだろうか。これ聴いて、私は逆に読書が嫌いにならないだろうか。だが聞くしかない。一瞬、スマホで録音しようかと思った。そうすれば、今は理解出来なくても、聞きまくれば理解できるだろう。そう思った。しかし私は、まったく別の意味で後悔することになる。そのことを、その時はまだ、分かっていなかった。


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