【掌編小説】続けばいい(800文字)【原稿用紙二枚分の文芸賞】
リモコンのボタンを押すと、視界がパッと明るくなる。シーリングライトの白い光が目を刺す。見慣れたワンルームの様子に、現実に戻ってきた実感が湧く。
隣に座る彼女は、「んー!」と伸びをしてからこっちを向いた。泣いたせいでちょっと目が充血していて、丸い頬には涙の跡がついている。
「面白かったね! やっぱあんたのチョイス最高!」
「ありがと」
「結局さ、ああいうなんてことない日を続けるのがいちばん難しいんだよね。泣けたわぁ」
ま、「隠れた名作映画」って有名なのを選んだだけなんだけどね。――私はそう言おうとしたけれど、彼女は言葉を続ける。
「てか、お腹すいた……。出てくる料理、美味しそうすぎるんだもん。なんか食べたい」
「いま二十三時だよ」
「いーじゃん! 生姜焼き食べたーい! タレがガツンで、玉ねぎがトロトロで、ホカホカご飯にぴったりなやつー! ハフハフ言いながら、お口いっぱいに頬張りたい!」
うわ。ずるい。そんな言い方、こっちも食べたくなってくるじゃない。
「じゃ、作ろうか」
「やったー!」
冷蔵庫を開ける。豚ロースなんて高級品はないから、豚コマだ。……これ、明日のお昼に使う予定だったんだけどな。仕方ない。明日は昼飯抜きだ。
私がタレを作る横で、彼女はトントンと玉ねぎを切り始める。
「んぁ〜。涙出てきちゃう」
見ると、また目が充血している。
「こすったら駄目だよ」
「分かってる!」
軽口を叩きながら、熱していたフライパンに豚コマを投入。玉ねぎも加え、炒めて。最後にタレを絡める。完成だ。生姜とにんにくの香りに、思わず喉が鳴る。いますぐ食べたい。……けど。
「お米解凍するの忘れてた」
「あーん! やらかしたー!」
冷凍ご飯をレンジに入れる。壁に背を預けて、彼女は呟いた。
「こういう日が、ずっと続けばいいのになぁ」
「……うん」
分かってる。きっと、彼女も分かってる。そんなの無理だって。
でも、私も。これがずっと続けばいいなんて、思ってしまった。
「#原稿用紙二枚分の文芸賞」参加作品です。
