チップ その6
〇スーパーもり・前
道行く人は半袖、日傘、携帯扇風機。
照りつける日差しの中、自転車に乗ってパトロール中の小山内がやって来る。
店の前を、時田が箒とちり取りで清掃中。
時 田「あぁ、小山内君。暑い中、大変だね」
小山内「もう、このまま海に飛び込みたいですよ」
小山内、自転車を降りながら言う。
小山内「あれ? なんか珍しく暇そうにしてますね」
時 田「みんなね、暑いから夕方に来るの。真っ昼間に外なんか、歩きたくないでしょう?」
小山内「確かに」
小山内、制帽を取ってハンドタオルで額の汗を拭く。拭きながら、スーパーの前のノボリに「南三陸」「蛸」という文字を見つける。
時 田「(小山内の目線に気付き)蛸は年中取れるけどさ、南三陸の水だこは……」
小山内「(訛って)夏が旬だ」
時 田「(訛って)……おめ、もしかして?」
小山内「(訛って)時田さん?」
時 田「(訛って)俺、志津川」
時田、自分の顔を指差す。
小山内「(訛って)志津川高校! うわ、マジか!」
小山内、自分を指差しながら興奮して軽くピョンピョン跳ねている。
時 田「(訛って)おめ、そういう事は早く言えって!」
時田、小山内を嬉しそうにバンバン叩く。
時 田「(訛って)そうだ、蛸、持ってけ。な?」
と、店に入ろうとする。
小山内「(訛って)いや、勤務中だから」
時 田「(訛って)え、じゃ、帰り寄って」
小山内「(訛って)払うから」
時 田「えー? それじゃ、同郷の人間に押し売りしたみたいじゃーん」
小山内「僕は警察官なので」
時 田「(訛って)んだな。(標準語で)いや、小山内ちゃんノリ悪―い」
じゃれ合う2人。
〇ホワイトフォレスト・テーブルセット・夜
和子のお茶会場である、陶器製のテーブルと椅子。テーブルには、冷えた麦茶のセットとスイカ、まな板と包丁、ランタン、開封した手持ち花火が置かれている。
椅子に座り、線香花火をしている芳美。
それを、見ながら微笑んでいる和子。
和子、まだ子猫の雰囲気が抜けきらない、若い三毛猫を抱いている。猫は赤い首輪とハーネスをつけ、ノラ猫でないことがわかる。
〇ホワイトフォレスト101号室・玄関・内・大雨(回想)
訪問者のためにドアを開け、驚く和子。
訪問者は小山内。
台風の土砂降りの中、私服姿の小山内はずぶ濡れ。手には水色のタオルを大事そうに持っている。
小山内「あの……、お願いがあります」
疲れて消え入るような小さな声で言う。
和 子「どうしたの? ま、いいから入って入って」
和子、小山内を招き入れる。
小山内、一歩、玄関に入る。
すると、水色のタオルの中から三毛猫が顔を出す。
和 子「あら?」
小山内「強風で飛ばされる事もあるので、とにかく保護しましたが、僕は寮に住んでいるので飼えなくて」
和子、奥に入る。
和子の声「猫って風で飛ばされるの?」
小山内「はい。去年は屋根の上に飛ばされた猫を2匹保護し、そのお宅が『これもご縁だから』と2匹とも飼ってくださった事がありました」
和子、タオルを2枚持って戻ってきて、1枚を小山内に渡す。小山内、頭をちょこんと下げてから受け取り、自分の頭を拭く。
和子、小山内から子猫を受け取り、もう1枚のタオルで拭く。拭きながら、重さを確認するように軽く上下に振る。
和 子「確かに、こんなに軽かったら飛ばされるか」
三毛猫、頼りない眼で和子を見つめる。
小山内「この子を預かって頂けませんか? 里親が見つかるまで」
ずぶ濡れの小山内も頼りない捨て猫のよう。
和 子「うーん……」
和子、悩みながら子猫をタオルでくるみ、赤ん坊を抱くようにあやしている。
〇ホワイトフォレスト・前・夜
テーブルセットに芳美と和子。
芳 美「花火なんて、何年ぶりだろう? シャバの自由を感じやすぜ」
芳美、線香花火をしながら言う。
和 子「お勤めごくろうさんです。……退院して最初の希望は『ラーメンとビール』じゃなくて『スイカと線香花火』なのね。なんだか風情があるわね」
和子、芳美の線香花火を見ながら言う。
線香花火が落ちて、芳美、和子の腕の中の三毛猫を見て、
芳 美「ミケコさんもすっかり、馴染んで。『ここの子です』って顔してますね」
花火の燃え殻を水の張ったバケツに入れる。
和 子「そうよ、(ミケコに)ここの子よね? あら、ミケコさん、今日も可愛いわね。毎日、かわいいを更新してるわね」
ミケコと名付けられた三毛猫、にゃおんと鳴く。
2人、笑う。
吉田の声「こんばんは! 今夜はわしも混ぜてもらっていい?」
2人が振り向くと、102の吉田がビニール袋を提げて、やって来る。
芳美・和子「こんばんはー」
笑顔で応じる2人。
吉 田「お2人はメロン好き? わし、メロン苦手って言えなくて、一玉もらっちゃって。代わりに食べてよ。冷やしてあるから」
和 子「あら。そういう事もありますよね」
芳 美「わーい! 頂きます! 代わりにスイカはどうですか?」
吉 田「スイカは好きだね」
和 子「ほんとに?」
吉 田「え? あぁ、スイカは本当に好きだよぉ」
一同、笑う。
吉田がビニールからメロンを取りだし、和子が「いいメロンだ」「高級品だ」とか、ワイワイ二人で品定めをしている。
吉 田「じゃ、メロン切るよ!」
芳 美「あ、私、やります!」
吉 田「大丈夫!」
吉田、メロンを真っ二つに切る。
和子、芳美、「おぉー!」と小さな歓声を上げる。
芳美、スイカを吉田の前に、メロンを和子と自分の前に置く。
和子、ハーネスの紐は手首に通したまま、抱いていたミケコを下におろす。
それぞれ、スイカとメロンを一口食べる。
吉 田「うん、うまい」
和 子「甘いわぁ」
そして、芳美が万感の思いを込めて、
芳 美「あぁ、うまい……」
一同笑う。
3人がうまいうまいと言いながら食べ進めているテーブルの下では、ミケコがへそ天でくつろいでいる。
終
◇◇INDEX◇◇
その2 https://note.com/suzukitsukiko/n/nf1ee50116115
その3 https://note.com/suzukitsukiko/n/nd66b8a849703
その4 https://note.com/suzukitsukiko/n/n7fbab0668b68
その5 https://note.com/suzukitsukiko/n/nd8400fba96ab
その1(登場人物表など)https://note.com/suzukitsukiko/n/n7e2f9cfcaa2a
