クリムトとプラネタリウム。そして時々にんにく臭。
1月18日 日曜日。
杉谷先生と10:45に梅田の商業ビルで待ち合わせていた。
杉谷先生は今年69歳になる女医で、9年前まで一緒に働いていた。
先生がクリニックを辞めてから、年に1度 1月か2月にランチをするのが恒例になっている。
姿を現した先生は、私が「お久しぶりです」と言い終わらないうちに、「こっちよ」と言うや否やダッシュで走り始めた。訳もわからずとにかく先生に遅れないようについて走る。なんでもランチに行くお店は予約ができないらしく、11:00の開店前に並ばなくてはならないらしい。
「もう並んでる人がいるわ」と息を切らしながら話す先生のメガネは真っ白に曇り、笑いを堪えるのに必死だった。
お上品なマダムの見た目に反比例して、早食いで早口の先生は飲茶を食べながら早送りのカセットテープのようにこの1年の近況を話し、旦那さんと行ったギリシャ旅行と2歳になったお孫さんの写真を見せてくれた。
12時過ぎにはお店の前で「じゃあ、また来年ね」と言うと颯爽と去って行った。
私は18:00から知人宅での新年会に招かれていた。移動時間を引いてもあと約5時間 時間を潰さなければならない。
そこでもっさりを誘い、ペアチケットを買っていた クリムト・アライブへ行く事にした。
待ち合わせの北新地駅に着くと
「おう、むくみ。元気やったか!」
と、いつもの大声で、何ヵ月ぶりの再会かのようなハグをするもっさり。
いや、先週も会いましたけど。
クリムトを見終えてもきっと時間が余る。あまり体力のない私は昼寝がしたいしどこかで休みたい。するともっさりが、プラネタリウムに行こうと提案してくれた。ナイス。
「クリムトのチケット手配してくれたから、プラネタリウムは俺がチケット買うわな」
と、さすが漢もっさり。
堂島リバーフォラムについた。会場は写真も動画も撮り放題。原画は無いがクリムトの世界観を視覚、聴覚、嗅覚とましさしく全身で体感できる新感覚の空間。
いくつかの作品の紹介を読み、いよいよライブ上映をしているホールへ。私はお手洗いに寄り、もっさりより遅れて入った。
足を踏み入れると一面スクリーン。足元のカーペットにも何やら投影されている。音楽に合わせて変化する映像。そしてその映像に合わせ放出される香り。




もっさりの姿を探しながら奥へ進むと、壁際のベンチに座りスマホをいじっている姿を発見した。こんな所でスマホをいじって、もう飽きたのか? と思って横に座ると
「プラネタリウムのチケット、何回やってもクレジットカードが使えませんってなって取れへんねん。ちょっと取ってくれる?」
(はぁ?なんで取れへんねん)
「カード番号間違ってるんちゃう?」
「何回も見ながらやったし、他のクレジットカードも試したけどあかんねん」
クリムト・アライブの世界観にどっぷりと浸かりたかった私。なんでここで、この空間で、スマホを操作してチケットを取らねばならぬのだ。私は今、現実世界から離れ、この世界に没入したい。
「今ここで没入したい」という気持ちを阻害された私は、かなりプリプリしながらスマホを操作しプラネタリウムのチケットを取った。なんの支障もなく、1回ですんなり、速攻取れた。
「すぐ取れたけど。なんか間違ってたんちゃう?」
と刺々しい口調でもっさりに辛く当たる。
クラシック音楽とクリムトの素晴らしい絵、そしてハーブ系のいい香りに癒され、私の心は次第にほぐれ穏やかになっていった。もっさりの横で写真や動画を撮りながら鑑賞していると、もっさりが話しかけてくる。
「あの絵、素敵〜。映画みたいや」
「くさっ!」
私は思わず顔を背けた。
前日 ラーメンを食べていたもっさりから放たれる最強のにんにく臭がせっかくのハーブやらムスクやらのいい香りを台無しにする。
(臭い、喋るな)
慌ててマスクをするもっさり。
素敵なクリムトの世界はこちら↓
クリムトの世界を堪能し、会場を出ると
「これ、プラネタリウム代」とお札を差し出すもっさり。
「いらん」と断る私。
「受け取らな喧嘩になるで」と渡そうとするもっさり。
「1人で喧嘩しとき」と無視する私。
大阪市立科学館へ着くと、ちょうど鑑賞する回の入場が始まった所だった。
「満席となっておりますので、席は空けずに奥から詰めてお座りください」と案内される。
端っこのカップルシートのようなところが空いていた。
奥(私の斜め後ろ)にもっさり、手前に私。
いや、後ろからにんにく臭が漂ってきては眠れないかもしれない。
「後ろから匂いしたら嫌やから、席変わって」
奥に私、手前にもっさり。これで準備万端。
上映が始まるとものの5分で私は眠りに落ちた。
そして30分後、目を覚ました私は残り15分の「星の一生」の解説をふむふむと感心しながら聞いていた。プラネタリウム、なかなかいいな。
昼寝ができたおかげで疲れは取れ、体が軽くなった。
プラネタリウムに朝日が昇ると、解説員の「おはようございます」で徐々に明るさが増し、上映終了。人々が立ち上がるも、もっさりは首を項垂れて熟睡している。
プラネタリウムのチケットが上手く取れなくて、その事を気にして疲れていたのかもしれない。
「朝やで」と肩を揺すって起こした。
もっさりと別れ、友人宅へと向かう。10人で食べて喋って大盛り上がり。気がつくと終電が近い時間になっていた。
プラネタリウムと言う素晴らしい提案をしてくれたもっさりに、何もあんなに刺々しく当たらなくても良かったな、と帰りの電車で反省した。
