京都ですねぇ〜草間彌生展と鰻屋さんでのモヤモヤsummer 〜
「わー! 京都で す ね ぇ〜」
京都市営地下鉄東西線 東山駅から三条通りに出た途端、もっさり(彼)がそこら辺の観光客に話しかけているのか? と思うほど大きな声で叫んだ。
そこから路地に入り、白川通りを2、3メートル歩くたびに「京都ですね〜!」と発っする。
確かに、白川のほとりを歩いていると木々の緑と川向こうの家々、風情があって京都を感じる。
私も、確かに京都らしい景色だと思っていた。
しかし、35℃くらいはあろうかという炎天下で、大きな声でそう何度も言われると暑苦しい。
「あら〜、京都ですねー」
「そりゃあ 京都やからな」
「うわー、京都ですね〜」
「だって京都やし」
「いやー き ょ う と で す ね え〜」
「京都やねんから京都に決まってるやろ」
私は右の鼓膜に延々とやってくる、「忍法 京都ですね攻撃」を日傘でブロックしつつ歩く。
僅か1時間ばかり電車に乗っただけでこんなにも感動できるなんて、海外にでも行った日にはどんなことになるのだろう。
私は耳栓をしたままで歩かなければならない。
平安神宮の大きな鳥居が見えてきた。
道路に突然ドンと聳え立つ朱色が夏の青空に映える。どちらかと言うとこの景色の方が断然テンションが上がる。
お決まりの記念撮影はしたものの、この鳥居にもっさりのテンションはそれほど上がっていない。
むしろもう飽きている。はやっ。

もっさり
京セラ美術館へは京都市美術館だった頃に訪れて以来。改修後は初めて。
昔の外壁を残したまま、ファサードが継ぎ足されいている部分があったり、内装も新旧が入り混じった素敵な空間になっていた。


これから、草間彌生 版画の世界 を堪能する。

私は音声ガイドを借り、ヘッドフォンを装着して展示会場へ入った。もっさりが何か話しかけているが、音声ガイドの声を聞いている私には何を話しているのか分からない。適当に返事をした。
すぐに飽きるかと思っていたもっさりだが、熱心に鑑賞している。
彼女の奇抜で独創的な絵は色使いで印象ががらりと変わる。明るいものが悲しいものに、ポップなものがシックに変化したり。彼女の作品と版画は実に相性がいいと思った。
暑さのせいか少し頭痛がしていたが、作品を見ているうちにすっかり吹き飛んでしまった。水玉と網目模様、メインの大きな富士の山、ぶどうにかぼちゃ、レモンスカッシュ、花に魚。どれも見ているだけでワクワクが止まらない。
たくさんの版画から元気とパワーをもらった。
音声ガイドは草間氏本人の声で詩の朗読や歌などもあった。
図録を購入し、美術館をあとにした。
古川町商店街から一澤信三郎帆布へ寄り、鰻屋さんへ向かう。この日は土用の丑の日。もっさりの誕生日祝いも兼ねて予約していた。
大通りから建物の地下に降りる隠れ家的なお店。事前に検索し、口コミやホームページもしっかりチェックした。
階段の前に「本日はご予約のみです」と看板が出ている。
全面ガラス張りの洒落た感じのお店。私たちの姿を見つけた女性がドアが開けてくれる。
「予約したむくみです」
そう伝えると予約の札が置かれた4人席へと案内された。ゆっくりできそうで良かった、と思いながらも違和感を感じる。
予約は2人なのにランチョンマットとお箸がなぜか4人分並べられていた。
奥の席で中年の金髪のおじさまが、店主らしき男性と談笑している。友達か常連さんぽい。
テーブルに視線を落とすと眩しすぎる。大きな葉の模様が描かれた塩ビ素材のキラッキラのランチョンマットが敷かれている。目が痛い。

醤油差しや食器は純和風
「いらっしゃいませ」とお茶を運んできたのは、ツーブロックの上の部分をコーンロウのような編み込みにし、鰻のタレくらい日焼けしたEXILEにいそうな背の高い20代前半と思しき男性。
もっさりの誕生日祝い。
「何品でも好きなもん頼んでや」
今日の私は太っ腹だ。
「ええんかー。ほな遠慮なくいただくわな」
鰻が1.5尾のった特上櫃まぶしと特上うな重、そして冷奴と肝焼きと鰻の白焼きを注文。もっさりは孤独のグルメの五郎さんくらいよく食べる。
注文を終えるといつもの如く、私はマウスピースを外しにお手洗いへ向かった。入った途端、ウッとむせるほどの甘い匂い。
しばらくの間、炭焼きの鰻の匂いを感じることができず、フレグランスの匂いが鼻の粘膜にこびりついていた。
まずはノンアルコールビールで乾杯(下戸な私たちはいつもジュースかノンアルコールビールで乾杯する)。
と、ギャル風の奥さんらしき人が冷奴がを持ってきてくれた。朧豆腐のようで絹と木綿の間のような柔らかさ。美味しい。
奥の席に、先ほど店主と話していたおじさんの友人らしき人が次々とやってくる。筋肉もりもりで日焼けしたいかついおじさん達4人が楽しそうにワイワイやっている。
鰻肝がやってきた。甘辛い味け。うん。なかなかいい。
と、宮川大輔のようなゴッツイ黒縁メガネをかけ、ニット帽を被ったDJをしていそうな男性が女性連れで入ってきた。
なんか、いかつい人しか来ない店だな。
場違い感が半端ない。
なんと言っても、私たちは弥生人顔の もっさり&むくみ なのだ。
白焼きがわさび醬油、柚子胡椒、塩の3種類の薬味と共にやって来た。身は厚くはないが、皮目がパリパリで香ばしい。臭みも全くない。
味変しながらペロリと平らげた。
見上げるともっさりの頭の向こう、奥の壁に時計を発見。文字盤の外側にウニの棘のよう銀色の棒が360°度 突き出ている。突き出た棒の長さは短中長の3種類。それぞれの先端に丸いガラス玉が付いていてピカピカと輝いている。奥さんの趣味なのだろうか。

ふとテーブルを見ると、呼び鈴の代わりにハンドベルが置いてあった。金色の本体の胴の部分にエメラルドグリーンの塗装、その上に金の装飾。なんだか安っぽい中世ヨーロッパの雰囲気。

私はインテリアのチグハグさにクラクラしていた。
ガラス張りの厨房では店主が備長炭で鰻を丁寧に焼いている。
それを眺めていた もっさりがボソリと言った。
「手首までびっしり墨入ってるわ」
備長炭を取りに来た店主の腕を見ると手首までカラフルな紋様がところ狭しと彫られていた。
「なんか、色んなものが思ってたのと違う」
小声で呟くと
「そやなぁ。分かるわ」
普段は大声のもっさりも小声で返事をする。私と同じように何かを感じ取っている。
程なくして、櫃まぶしとうな重がやってきた。お櫃の蓋を開けると鰻が重なって乗っている!贅沢すぎる。
いざ実食。
タレも甘すぎず、皮目の香ばしい焼き具合が美味しい。
もっさりのうな重もいただく。こちらは関東風で蒸されている。ふっくらとしてフワッフワッでとろける。蒸しの鰻を食べたのは初めてかもしれない。
美味しい。
美味しいのだけれど。
ホームページでは落ち着いた和の雰囲気が漂っていた。
美味しければランチョンマットがキラキラだって、時計がピカピカだって関係ない。ハンドベルがヨーロッパ調でも支障はない。
何も文句はないはずだろう? そう自分に問いかける。
もし、トイレのルームフレグランスがもう少し淡い匂いだったら、ランチョンマットが敷かれていなければ、時計が落ち着いた雰囲気のものだったら、ハンドベルが銀色の普通ものだったら。
私は落ち着いて鰻を心から堪能できた気がする。と思うのは何故なのだろう。
このインテリアが好みの人だっている。
私はモヤモヤとして誕生日を心から祝うことができない。なんだかもっさりに申し訳ない気持ちがする。
このお店を選んだ自分を不甲斐なく思っていた。
しかし、決してお店が悪いのではない。
誰も悪くなんてない。
何ひとつ店側に粗相はない。
なのに、どうして私はこんな気持ちになるのだろう。
だれも悪くないこのモヤモヤをどこにぶつければ良いのだろう。
美味しいのに「美味しー!!」と大きな声で叫べない自分。
半分くらい食べたところで私はお腹がいっぱいになり、櫃まぶしをもさっりに譲渡した。
それを食べながらもっさりが突然つぶやいた。
「アイロンの電源入れたままかもしれへん」
この日は3連休の初日。もっさりはうちに2泊する予定でパソコンまでリュックに入れて持って来ていた。
アイロンはそのままにしておくと火事になる危険がある。
「ちょっと、よく思い出してみ」
「スイッチは「低」にした記憶がある。コンセント抜いたら自動でクルクルってなるやつやねんけど、クルクルってなった記憶がない」
しばらく記憶を辿るもっさりだったが、結局 コンセントを抜いた記憶は蘇らなかった。
食事を終え、お会計をお願いすると奥さんがやってきた。
「お近くですか?」
「いえ、大阪から」
ギャル風の奥さんは可愛らしいし、愛想もいい。
少し雑談をしてお店を出る時にもっさりは言った
「美味しかったですー。また来さしてもらいますわー」
「はい、また是非。お待ちしています」
奥さんと店主は笑顔で見送ってくれた。
大通りに出るともっさりに聞いた。
「絶対にまたこおへんやろ?」
「あたりまえや」
結局、もっさりは自宅へ帰ることになった。
アイロンのことで憔悴しているもっさり。三条駅に着くと能面のように無表情だった。
帰宅すると、自宅に着いたもっさりから動画が送られてきた。
「アイロンのコードはね、ちゃんと抜いてありました。帰る必要はなかったですね」
そんな声と共にコードが抜かれ、衣装ケースの上に置かれたアイロンが何食わぬ顔をして映っていた。
翌朝早くにバイクでやって来たもっさりと朝食を共にした。
