旅の始まりはドライブスルー。お土産はQUICPayで。
「マックの気分や」 もっさりが唐突に言った。
「なんでマックなん?」
「あっ。今、マックって言ったよな」
もっさりがドヤ顔で私に突っ込む。
元埼玉県人のもっさりはマクドナルドをマックと言って時々関東風を吹かす。大阪人になりたいのならマクドと言えよ、と常々心の中で思っている私。なのにつられてマックなどど言ってしまった。これは大失態。
私はマックなんて言ってないよ、という風にもう一度尋ねた。
「なんでマクドなん?」
「ドライブスルーや!」
軽のレンタカーのハンドルを切り、もっさりはドライブスルーの列に並んだ。土曜日の朝、ドライブスルーは混んでいて車の列は駐車場からはみ出しそうだ。
車を持たない私たちは普段ドライブスルーができない。だからもっさりはドライブスルーをしたかったのだ。
「ほんまに何もいらんのか?」
順番を待っているともっさりが聞いてくる。
「いらん」
マウスピース着用中の私は何も食べられない。もう1年以上経つのでそろそろ覚えて欲しい。
車を止めて買いに行った方が早いんじゃないか、という思いが頭をよぎるがそれはナンセンス。もっさりはマクドが食べたいのではなくドライブスルーがしたいのだ。
もっさりはテンションが上がると、勢いでさして欲しくもないものまで買ってしまう。待つのが嫌いなくせに並んでまでドライブスルーをするからには相当テンションが高いはずだ。あれやこれやと食べきれないほど注文するのだろう。と、私は冷ややかな視線を投げかけていた。
「ブルーベリースムージーをひとつ」
滑舌のいい妙にハキハキした声でマイクに向かって話すもっさり。
「ご注文は以上でよろしいですか?」
「はい。以上で」
スムージーひとつ。たったそれだけ?
私は拍子抜けした。
「もっと頼むんかと思ったわ」そう言うと
「そう思ってると思ってた」と勝ち誇った顔のもっさり。
私の裏をかいてわざと注文しなかったのか、それとも少しは大人になったのだろうか。
しかし朝マックと言えばマフィンとか、ハッシュドポテトとか、パンケーキとか、朝しか食べられないメニューを頼むもんじゃないのか?
スムージーを口に含んだもっさり。
「美味しい?」と尋ねると
「見たまんまの味や」ともうテンションは下がっている。
「スムージーならコンビニでも良かったんちゃうん?」
「ほんまやな。何で並んだんやろ。時間のロスや」
何の時間だったのだろう。いや、これはきっと旅を始めるために必要な儀式だったのだ。
9月というのに真夏日が続く最中、私たちは鳥取砂丘を目指して西に向かっていた。
「暑いから外に出たくない」と夏の間は外出を嫌がるもっさりの口から「鳥取砂丘に行く」という言葉を聞いた時、自分の耳を疑った。
正確に言うと鳥取砂丘が目的ではない。目的地は湯村温泉。せっかくだから湯村温泉近くにある鳥取砂丘に寄ろう、と もっさりが言い出した。
途中のサービスエリアで私は早くも職場用のお土産を購入。ミッションはさっさと済ませておくに限る。
会計を済ませるともっさりが出張販売で来ていた地元の酒蔵の人と話していた。
「僕たちお酒飲めないんですけど、おすすめのお酒はありますか?」
(いやいや、お酒飲めへんのやからおすすめも何もないやろ。)
「飲みやすいのはこのお酒ですかね」
と店員さんが日本酒を勧めている。日本酒はなかなか度数が高く下戸の私たちにはハードルが高い。
旅に酔っているもっさりは飲めもしないのに日本酒1本と梅酒と柚子酒の3本セットを購入した。
ドライブスルーでもっさりが少しは大人になったと思ったのは大間違いだった。旅に気分が高鳴り、飲めもしないお酒を何本も買ってしまう、見た目は53歳の少年だ。
お昼過ぎ、予め調べていた鳥取砂丘前のタカハマカフェへ到着。
隈研吾さん設計の奇抜なデザインと木をふんだんに使った外観にテンションが上がる。内装も和紙を使った照明など素敵。

お腹も空いていたのでここでハンバーガーを頂く。もっさりは鳥取牛、私はベーコンと卵。
観光地のカフェという事で期待はしていなかった。が、想像以上の美味しさ。バンズはフワフワでベーコンは厚みがあり脂があっさりして上品。梨ジュースもスッキリ爽やかで程よい甘味。自宅の近くにあったらリピ決定のお店だ。
腹ごしらえも済み、いざ砂丘へ。
鳥取砂丘と書かれた石碑前で記念撮影を終え、階段を登るとサラサラの砂に足を取られる。一面 砂、砂、砂。風で舞い上がる砂が目に入って痛い。
すり鉢状になった砂丘を下り、向こうに見える大きな砂の山を越えれば海だ。
「向こうまで行く?」もっさりに尋ねると
「もう十分や。行きたいんやったら行って来たらいいやん。俺は行かへんで」
予想を裏切らないいつも通りの返答。鳥取砂丘に行こうと言い出したもっさりは景色を少し見ただけでもう飽きている。
2人して砂丘をチラ見しただけでそそくさと踵を返した。

山に向かって1時間ほど走ると予約していた宿に到着した。
荷物を下ろしていると後部座席にサービスエリアでもっさりが購入したお酒が転がっている。
「これ、持って行かへんの?」と尋ねると
「何で買ったんやろ」
そう言って興味なさそうに一瞥すると、置き去りにしてドアをロックした。
宿に入りまず目に飛び込んできたのは囲炉裏。
「わ〜素敵」「いいですね〜」ともっさりがしきりに感嘆の声をあげる。
ロビーでくつろぎながらのチェックイン。が、チェックインよりも先に写真を撮り始める少年もっさり。そんなもっさりに「いえいえ。先にお写真お撮りください」とスタッフの方。早く手続きを済ませたいであろうに、寛大な対応。
ウェルカムドリンクは甘酒+選べるドリンク+シャインマスカット大福。もっさりは柚ソーダ、私はハーブティーを注文。
甘酒に感動し大福を一口食べて更に感動。大阪で美味しいといわれている有名な某フルーツ大福屋さんよりも美味しい。持って帰りたい。

部屋に荷物を置き温泉街へ散歩に行く。
フロントで「足湯があるので良ければお使いください」とタオルを渡してくださった。何という心遣い。
温泉街に着くとテレビで見たことのある温泉卵を作る湯壺を発見。案外小さい。この後夕食が控えているので温泉卵は断念。
卵の殻がところどころ落ちている足湯に浸かり、しばし休憩。夢千代日記のロケ地だったらしく(私は見た事はない)、八千草薫さんなど錚々たる俳優さんの手形が飾られていた。中でも私が一番気になったのはウィッキーさんの手形だった。私の手と変わらないくらい小さかった。

宿に戻り夕食。メインは秋の味覚松茸と囲炉裏で焼く鮎、そして漁が解禁になって間もない香住蟹。大福で少しお腹が膨れたので食べられないかも、と思っていたが美味しすぎたので全て平らげてしまった。

温泉はこぢんまりとしていたけれどお客さんが1、2人しか人がおらずゆっくり堪能。ジャグジーでのんびりと寛ぐ。
因みにシャワーヘッドはミラブル、ドライヤーはDysonと嬉しい設備。
部屋の電気ポットはBAKMUDA、ベッドはSealyとこちらもテンションが上がる。そして重要なトイレットペーパーは柔らかかった。
部屋に備え付けのヨガマットとストレッチポールで身体をほぐし、2人ともベッドに入ると即刻眠りに落ちていた。
朝風呂で目を覚まし豪華な和朝食を済ませるともう出発の時間。
チェックアウトの際 帰りの車中でどうぞ、と鯛めしのおにぎりを頂く。どこまでも至れり尽くせりの宿だなと思っていると、2024年じゃらん 泊まって良かった宿大賞 接客・サービス部門 第1位 の盾を発見。納得。
地元の商店で鳥取名産の梨と長芋を購入し、帰路に着く。
トイレ休憩で寄った加西SAで最後のお土産を買い、レジで
「QUICPayで」と伝えると
「QUICPayですね」とタブレット端末で操作を始めたおじさま。
私が端末にスマホをかざすと いつも通り超早口の人工的な高音と低音のハーモニーが「クイックペイ!」と奏でた。
と、突然おじさまが
「わ〜QUICPayかっこいいですねー!」と宿に到着したもっさりのようにテンションが上がっている。慣れた手つきで操作していたのにQUICPayは初めてだったのか。
次のお客さんの会計が始まり、私がレジを去る時もじっと私の方を見て
「QUICPayかっこいいなぁ」と首を傾げながら呟いていた。
私はおじさまにもう一度 QUICPay の声を聞かせてあげたいと思った。追加で何か買い物をしようか、と迷ったが車でもっさりが待っている。おじさまの嬉しそうな顔を脳裏に焼き付けつつ、後ろ髪を引かれながら加西SAをあとにした。
QUICPayを使ってこんなにも良いいことをしたな、と思えたのは人生で初めてだ。
また加西SAに寄ることがあれば絶対QUICPayで買い物をしよう。

しねきゃぷしょん
